(5)別れ際の衝撃
時刻はすでに午後五時を過ぎていた。外は薄暗くなり始めている。
「あ、もうこんな時間。そろそろ帰らないとお父さんに怒られちゃう」
「じゃ、今日は帰ろうか。」
「うん」
教会から少し行ったところまでシスターさんが見送りに来てくれた。
「それでは、気を付けてお帰り下さいね」
「はい、今日はありがとうございました」
お礼の言葉とともに軽く頭を下げた。リーズもそれに倣う。
自転車にまたがり、走り出す。
シスターさんはボクらが見えなくなるまで見守ってくれるようだ。
「綺麗だったね」
「確かに、見惚れちゃったよ」
「シスターさんに?」
「ははは、まさか」
あながち間違ってもない鋭い指摘に、思わず嘘を返した。
子供ながら、本当の美人というものを知った気がする。
それはさておき、教会は本当に美しかった。
宗教とやらはよくわからないが、もう一度見たいと思った。
今度はお母さんやお父さんにも……。
お父さん……?
今日は休日。
だけど食卓にいたのはボクとお母さんだけだった気がした。
いや、間違いなくそうだ。
今日どこかに出かけるとかそう言った話をしていたか
記憶を巡ってみるも、どうも思い出せない。
何だろう。
何かが——
「——リ!」
「……」
「ユーリってば」
「……っ! ごめん、なにか言った?」
「どうしたの、さっきからずっとぼーっとしてたよ」
「いや、なんでもないよ。ホントにごめん」
「大丈夫ならいいけど……」
いつの間にかリーズ宅前まで来ていた。
籠に入れていたリーズの手荷物を確かに渡し挨拶をした。
「じゃ、またね」
「うん、また明日」
手でバイバイ、とジェスチャーをして
自宅の方に自転車を向けて進もうとした時、リーズに呼び止められた。
「ユーリ」
「ん?」
振り向くと、彼女はボクにキスをしてもう一度「またね」と言った。
ボクは何も言えず、ただ家に入るリーズを見送った。
今度こそ帰路に就く。
昼頃にうろうろしていた騎士はもういなかった。
いったい何だったんだろう。無論、おばあさんが亡くなったことは悲しい。
だけどそれ以上に、騎士の数がいたずらに多かったことがとても気になった。
だがそれも、リーズのキスを思い出すだけで気にする余裕が一切なくなった。
また明日リーズに会いたい。一緒に学校に行き、一緒に弁当を食べて、
いつものようにくだらない会話に胸を躍らせたい。
それだけを考えていれば心が楽な気がした。