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【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【零話】空と記憶。
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(3)食い違う記憶と現実

【零話】

~登場人物~

ユーリ:砦街に住むごく一般的な少年。

クラウズ:騎士。何かとユーリ達の面倒を見てくれる。

その他

 昨日、ボクが見ていた空はこんなに赤くはなかった。

母親に背負われたボクは、状況を理解するのに必死だった。


いつも通りに夕食を食べ、いつも通りに風呂に入り、いつも通りに布団に入った。

そのままいつも通りに朝を迎えるはずだった。


じゃあ、今は何だ。


何をしているんだ。


なぜ、逃げているんだ。


「っ‼」


 母親と一緒に走っていたおばあさんが転んだ。

昨日ボクに飴をくれた優しいおばあさんだ。

助けてあげないのかと母親に問うたが、返答はなかった。


 おばあさんは起き上がろうとした。

そこに、黒い影が飛び込んできた。

ボクは反射的に目を閉じた。

 

 何秒かして、目を開けたボクの目に映ったのは

おばあさんではなく、肉塊だった。

それが、今起こっていることだと、瞬時に理解した。


 さっきの影は何匹もいた。

あっちこっちで今みたいなことが起きているんだ。

沢山の人間が、肉塊になってるんだ。


 不思議と悲しさは感じなかった。

その代わり、凄く悔しかった。

おばあさんを助けられなかったこと。

背負われていることしかできない自分。


「嫌だよ」


思っていたことが、つい声に出た。

でもそれは、喧噪の中に霧散する。


「こんなの、ダメだ」


それでもボクは呟いた。


「お前らなんか……」


バケモノなんか、この街から。


「居なくなれ‼」


そう叫んだ刹那、ボクの意識は途絶えた。




 目を覚ますと、ボクは自分のベッドに居た。

窓から見える空は青く、ところどころに雲が浮かんでいた。

とても綺麗だ。寝巻から着替えてリビングに行くと、母親が朝食を作っていた。


「お母さん、おはよう」

「おはよう、ユーリ」


いつも通りの朝のあいさつ。

でも何か、違和感があった。


あいさつにではない。

いつも通りであることにだ。

なにかこう、いつも通りじゃいけない気がした。

それが何か分からないまま、やはりいつも通りに顔を洗い、朝食を済ませた。


 昼まで学校の宿題をやった。

昼からはある約束をしていたことを思い出した。


「お母さん、午後からリーズと遊ぶ約束してるから行ってくるね」

「そう、気を付けていくのよ」

「うん」


 リーズは友達の女の子。

向かいの家に住む同い年で、昔からよく遊んでいる。

靴を履いて玄関から外に出た。


 すると、なぜか騎士がうろついていた。

騎士は普段、街の出入り口を護っている。

なぜ護るのかと言えば、今は戦争中だかららしい。

人間と、怖いカイブツとの戦いだとか。

ボクの住んでいるこの街は王様の街を護る為の《砦》の役割があるんだとか。

ここを突破されると人間としては面白くないらしいけど、

今のところカイブツがこの街を攻めてきたことは無かった……? 


無かったかな……。


カイブツ……。


ふと、頭の中におばあさんが転ぶ映像が流れた。

昨日ボクに飴をくれた優しいおばさんだ。

何だろう、とても嫌なことが起きている気がした。


 おばあさんの家はボクの家の三つ隣だ。

その方向を見ると、騎士が三人何かを話していた。

その中に知り合いのお兄さんを見つけ、慌てて駆け寄った。


「クラウズお兄さん!」

「お、ユーリ。どうしたんだ?」

「おばああさん、どうかしたの?」

「……い、いや、どうもしてないよ」


明らかに嘘をついていた。

どうもしてないならこんな所に騎士がいるもんか。

言うかどうか迷ったが、激しく拍動する心臓をよそに、

ボクは勇気を振り絞って訊いてみた。


「亡くなった……とか?」

「……‼ お前、どうして」


嫌な予感は当たっていた。

なぜかボクは、おばあさんが亡くなったことを知っていた。


「でも、どうして?」

「病気だよ。そうお医者さんが言ってた」

「病気……」


刹那、さっきのように頭の中に映像が流れた。

転んだおばあさんが、一瞬の砂嵐の後、

グチャグチャになるという惨い内容だった。


そうだ。


そうだった。


昨日の晩……。


 我に返ると、クラウズお兄さんが顔を覗き込んできていた。


「どうした、ぼーっとして。大丈夫か?」

「……違う」

「違う?」

「病気なんかじゃない」

「ユーリ?」

「おばあさんはカイブツに殺されたんだ、昨日の晩‼」

「……カイブツがこの街に?」

「そうだよ‼ 思い出したんだ! 昨日の晩、この街にカイブツが入ってきて、それで、それで……逃げ遅れたおばあさんをカイブツが殺したんだ‼」

「こらユーリ、あんまり変なことを言うんじゃないぞ」

「う、嘘じゃないよ‼ 本当にカイブツが……」

「ユーリ!」

「……」

「怖い夢でも見たんじゃないのか?」

「ゆ、夢?」

「そう、夢だ。もうこれ以上、変なことに首を突っ込むんじゃないぞ」


おかしい。

あんな出来事を覚えていない訳がない。

まあボクも思い出したのはさっきだけど……。

騎士のお兄さんが覚えてないのは、やっぱりおかしい。


「ほら」


お兄さんはボクの後ろの方角を指さした。


「彼女が待ってるぞ」


約束の時間を過ぎても呼びにいかなかったボクを探しに、

リーズが玄関を出てキョロキョロしていた。

気になることばかりだけどリーズを待たせては悪いと思い、

一旦忘れることにした。急ぎ彼女の待つ方へ向かった。


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