表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【二十一話】伝承と吐露。
241/269

(241)晴れやかな勝利

 王城の廊下に、一人の騎士。団長の部屋を目指して歩く。何枚もの報告書を抱え、足早に進む。階段をのぼり、最上階である三階の最奥へ到着した彼は、重厚な扉をノックした。


「オーネット副団長、入ります」


ドアノブに手をかけ、ひねりながら彼は違和感を覚えた。

いつもであれば、この段階で騎士団長から了承の返事があるはずだからだ。


「……?」


扉を開き、部屋の中を流し見た彼は、ここでも違和感に支配される。


「団長殿?」


騎士団長の姿が見えない。


「外出される話は……無かったはずだが……。団長? オーネットであります。いらっしゃいますか?」


大声で呼びかけるも、返事は無かった。


「おかしいな……。失礼いたします」


念のための挨拶を口にし、部屋へ足を踏み入れる。


「……ん?」


ふと、窓の外に目がいった。


「煙? おのれ、また改革派の連中か⁈」


近年では、城の敷地に火を放とうとするような過激な行為が横行している。

その類がまた発生したのかと景色を確認しに向かう。

彼の手に持たれた報告書もまた、改革派関連の物ばかりだ。


「……あれは、火事か!」


街を見下ろすと、書庫が燃えていた。


「くそ!」


急いで部屋を出ようとしたとき、騎士が一名飛び込んできた。


「団長殿、副団長殿! 書庫が燃えております!」

「ああ、今確認した。だが団長の姿が見えない。とりあえず私が指揮をする。君は火消しを呼びに行ってくれ」

「りょ、了解!」




 どれくらい時間がたっただろう。朝方発見した火事を消し終えた頃には、辺りは暗くなっていた。今日の仕事に手を付けられなかった不満からか、彼はため息を一つついた。


「オーネット副団長殿!」


焦げた建物の中から、火消しの者が彼のもとへ走ってきた。


「どうした?」

「焼け跡から、一名の遺体が発見されました。身元特定は不可能な状態ですが、近くにこのようなものが落ちておりました」

「これは……!」


奪う様に火消しの手から取る。一本の短剣であった。

それも、騎士団の特注品だ。融けた痕跡が多くみられるが、間違いない。


「騎士の方、という事でしょうか?」

「それどころではない。剣のガード部分を見ろ。この金の装飾は——」


息が止まる。


「——団長専用の仕様だ」




 大火事から一か月ほどが経過。火事の原因は団長の焼身であることが、彼の手記から判明した。団長が居なくなり混乱した騎士団であったが、オーネット副団長が新団長となり、見事に落ち着きを取り戻していった。


「……やれ、またか」


報告書が上がってくる度に嫌気がさした。毎日毎日、改革派が起こした同じような事件の報告ばかりだからだ。


「団長……あなたは甘すぎた。復讐に来るかもしれない魔王を殺さず、改革派も野放し。こんなことでは、世界は決して良くならない」


前団長の甘さを嘆いた彼は、厳しい政策をとるようになった。


「団長、改革派の代表者を拘束しました!」

「よし、よくやった」


野放しにされていた改革派を、彼は徹底的に弾圧し、関係者を次々と逮捕・拘束していった。そして今、ついにリーダーを捉えることに成功した。


「如何致しますか?」

「奴は公開処刑だ」

「公開処刑、ですか?」

「そうだ。これ以上、厄介な連中が現れては困る。奴を見せしめにする」

「し、しかし——」

「処刑は三日後だ。準備を進めておくように」

「かしこまりました……」



 三日後、王城前に舞台が用意された。拘束された改革派の代表者が縛られ、押さえつけられている。オーネット団長は、見物に来た民に向かって言葉を発した。


「見よ! この者が、世界の秩序を乱す悪の親玉である!」


歓声とブーイングが半々で響く。


「だが安心してほしい! これより我々は、彼の処刑を行う! こうして、秩序は守られるのである!」

「くそ、騎士団め! 力を欲しいがままにする悪の組織め!」


戯言には耳を貸さず、処刑の手信号を送る。


「畜生共が——」


剣が振り下ろされ、代表者の首が地に落ちた。


勝った。


彼はそう思った。何年もの間自分らを苦しめてきた改革派の中枢を破壊したのだ。

あとは、残党狩りだけ。団長は、いたって晴れやかな眼差しで曇天を眺めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ