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【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【二十話】受容と拒絶。
233/269

(233)幸福を願って

「それで、私は何をするの?」

《君には、回生を利用して一度死んでもらいたいんだ。この世を去ったことにしてほしい》

「……え?」

《しばらく、二人に会えなくなっちゃうけどね》

「……どれくらい?」

《どうだろう。十年くらいかな? その間に、僕が準備を進めておくからさ》

「十年……」


長いだろうね。この子はまだ九歳くらい。

十年なんて、今までの人生より長いんだ。


《どうだい? 協力してくれるかい?》

「……どっちにしても、滅びちゃうんだよね?」

《まあ、結果としてはね》

「じゃあ、お断りします」


そうだろうと思った。


今話したことを実行したとて、嬉しいのは僕だけだ。

彼女には何のメリットも無い。


ただ、これならどうかな。


《二人が、幸せになるとしたら?》

「……え?」

《キシの道へ進んだ二人は、切磋琢磨するだろう。今後もずっと一緒って事だよ。十年後、二人は何歳だと思う? 十九歳だろう? 十年も一緒にいたら、二人は結ばれて幸せになりそうだよね》

「……っ!」


思い通り。


この子は、二人の幸せを願っていた。


彼女の握り拳を見れば、僕の勘があたっていたかどうかは、すぐにわかる。


《恋人になって、結婚して、子供が出来てさ。きっと、幸福な家庭を築くだろうね》


追い打ちをかけると、サラちゃんの手が震え始めた。


うん。迷い始めたようだね。


「私が……我慢すれば、二人が幸せになる?」


今にも泣きそうな声で言う。


《そうだよ》


この話題を出したことで、冷静さを欠いた。


陥落も近いだろう。


《恐怖に怯えて滅ぶより、幸せな状態で滅ぶ。神様なら——君なら、それが出来るんだ》

「私……なら……?」

《うん。君なら、二人を幸せにしてあげられるんだ》


我ながら反論の余地だらけな気がするけど、

今のサラちゃんには、そんな余裕はなさそうだ。


「私が……二人を幸せに……私が……」

《どうだい? 協力してくれるかい?》

「私は、二人を幸せにしたい」


思考が止まったか。僕の勝ちだ。


《じゃあ悪いけど、一度死んだことになってもらうよ》

「……うん」


出来るだけ苦しまないよう、一瞬で死なせてあげる必要がある。

僕は剣を抜き、恐怖を感じる間も与えずに、それでいて最大限の致命傷を負わせる。


サラちゃんは血を流して倒れた。


《……》


次の瞬間、眩い光と共にサラちゃんは立ち上がった。


「生き……返った……」

《じゃあ早速だけど、行こうか》

「何処へ?」

《神様を創る準備が済むまで、眠っていてほしいんだ。そうすれば、十年だってあっという間だよ》

「……うん」

《ってわけだから、ほら》


空間の隙間を開けて見せる。


《行こうか》

「……」


彼女の手を引き、現世に別れを告げた。


《あれ、タオル落としたみたいだよ》


数十メートルほど進んでから、落下物に気が付いた。


「ううん。もう、要らないから」

《……そうかい》


拾いに戻ることはせず、僕らは進んでいった。





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