(231)慈悲の目的
ある日。
サラちゃんが三人で遊びに行って、帰ってきた。
《ふーん、偉いね》
夜ごはん、お風呂とルーティーンを済ませた彼女は、お勉強を始めた。
挨拶をしに行くのは、両親が寝静まってからだ。
今はただ、彼女を見守る。
嫌だな、ストーカーじゃないよ?
《いやあ、何度見ても素晴らしい》
能力を使い、彼女の持つ能力をすべて表示。
《ホント運がいいな、僕は》
おじいさんにも感謝しないとね。
なんて、恵まれた僕は、嬉々として街を一瞥する。
徐々に灯が消えていく。気付けば何時間も経っていた。
《さて、どうなったかな?》
サラちゃんの家に戻ると、しっかりと灯が消えていた。
よし、チャンスだ。
空間の隙間から、彼女の部屋にお邪魔する。
両親に聞かれないよう、小声で呼びかけた。
《おーい、サラちゃん》
「……?」
《サラちゃん、起きて》
「……っ!」
僕を見た彼女は、一瞬だけ目を見開いた。
声を上げて驚くかと思ったけど、随分と冷静だった。
《そうか。予知夢で、僕が来ることは知っていたんだね?》
「……うん。あなたは誰?」
《僕はね、ニンゲンでもマモノでもない生命体、テンマだよ。名前は慈悲って言うんだ》
「天魔……」
《どうだい? 僕は嘘をついているかい?》
「……ううん」
《よしよし。じゃあ君に、僕の目的を教えてあげるよ》
「目的……?」
《今この世界は、悲しみで溢れてる。分るかい?》
「魔物が、たくさん人を殺していること?」
《それも悲しみの一つだね。でも、逆はどうだい? ニンゲンだって、マモノを殺すよね?》
「うん。でも、それは——」
《そう。殺されないためだ》
「……」
《じゃあ、どうしてマモノは人を殺しに来るんだろうね?》
「……分からない」
《そうだろ? 分からないんだ。分からないのに殺し合うなんて、悲しいとは思わないかい?》
「うん」
随分と物分かりが良いな。
それに、一切逃げ出そうとしない。
きっと、予知夢の能力で、この先の出来事まで見たのだろう。
《大昔はね、テンマもマモノもニンゲンも、仲良くしてたんだよ》
「大昔? 戦争をしていたんじゃないの?」
《ははは。そのもっと昔さ》
熱心に勉強をしているだけあって、歴史をよくわかっているようだ。
あくまで、ニンゲンが知りうる範囲の歴史だけど。
《でもいつからか、僕たちは殺し合うようになった。知っているかもしれないけど、ニンゲン同士でさえ、殺し合いは起きるんだ》
「……うん」
何が言いたいの? サラちゃんはそんな顔をしている。
《僕はね、そんな悲しい運命を断ち切りたいんだ》
「……?」
《ふふっ、具体的に言えって顔だね。ごめんごめん》
サラちゃんは何も言わず、僕の言葉に耳を貸す。
《ぜーんぶ、滅ぼしちゃおうと思ってるんだ》
「全部……滅ぼす?」
《そうさ。何十年、何百年経っても、この殺し合いの運命は変わらない。そんなに悲しい宿命を背負ったまま生きるくらいなら、みんな仲良く滅んでしまおう。それが、僕の目的だよ》
「私たちも滅びちゃうの?」
《もちろん》
「どうやって? 全部の生き物を殺して回るなんて、とても無理でしょ?」
うん。もっともな疑問だね。
《神様を創るのさ》




