(162)十年前の捜査報告書
王に会う時は違い、書庫を見るだけなら手形は不要だ。
無論、自由に出入りできるのは騎士に限るが。
重い木の扉を開き、受付の人に、騎士の証である紋章の入った短剣を見せて通る。
過去に数回来ているが、そのスケールには毎回驚く。
「えーっと」
何が何処にあるのかを示す看板に従い、俺は目当ての報告書を探しに向かう。
報告書は大抵、奥から古い順に保管されている。
十年前のものであれば、そんなに奥まで行かなくても見つかるだろう。
「この辺りか」
端から一つずつタイトルを確認。
図書館で本を探した事を思い出す。
舞う埃にむせながらも続ける。
——ストロングホールド 少女変死事件
「……これか」
忌々しいタイトルの報告書を持って、共用の席についた。
ページをめくると、紙と紙の間からも埃が舞う。
俺はそれをものともせずに、内容に目を向けた。
——発生場所:ストロングホールド北西居住区
——被害者名:サラ(九)
——捜査進捗:未解決
未解決事件が解決すると、この「未解決」の部分に
二重線が引かれ、その上から「解決」の判が押される。
今、俺が見ている報告書には、それはない。
「……」
雷鳴と雨の音が頭の中でこだまする。
目を瞑れば、あの時の光景がよみがえる。
涙を流して「ごめんね」とだけ言った彼女の母。
その表情や声色までもが、はっきりと思い出される。
——被害者の部屋から、本人のものと思われる大量の血痕が見つかっている
——遺体は発見されていない
十年ほど経った今でも、この内容に変更はない。
——事件前の被害者に、これといって変わった様子はなく
「……?」
変わった様子はなく……?
ふと、違和感を覚えた。
最後に見た彼女の表情は、
どこからどう見ても、普段のそれではなかった。
家では普通にしていたのだろうか。
もしかしたら、俺たちには気付いてほしかったのかもしれない。
自分に迫る何かに。
そう思うと、再び無力感に襲われた。




