(144)奴らの名前
「そんな攻撃!」
敵の攻撃を潜り抜け、アイシャがこちら側へ。
一瞬目を合わせ、彼女の意図を汲んだ。
「「そこ!」」
示し合わせたように、同時に膝裏から大腿の辺りに剣を刺す。
これは「予言」で右腕たちと戦って学んだことだが、
ヒト型の魔物は、あらゆる種族の中で、一番と言っていいほど弱点が分かりやすい。
理由は簡単で、俺たちがヒトだからだ。
自分が攻められたくない場所、斬られたくない場所、それ以上押し込まれたくない限度。
骨格が同じである以上、そんな弱点は手に取るようにわかる。
今回の敵は、ほぼ全身に硬い筋肉を持っている。
俺やアイシャの攻撃では、浅い傷をつけるので精いっぱい。
なら、一瞬でも敵の動きを制限することに徹するべきだ。
《ぐっ、小癪な!》
敵が膝から崩れた。チャンスだ。
「覚悟!」
エリナさんが走りながら剣に熱をこめる。いくら硬い筋肉でも……!
「はあっ!」
《ぐあぁ⁈》
光剣は筋肉をものともせず、魔物の首を切り落とした。
次いで右腕、胴体と、ダメージを与えていく。
魔物はたまらず、地面へ倒れた。
「ふぅ……」
剣が光を失い、元の姿に。
俺とアイシャも剣を抜き、少し離れた。
「さすがに、ダメージは入ったよね」
「……そう思いたいな」
これで勝利……なんてことは無いだろうな。
《見事だ》
……やっぱり。
魔物は、よろよろと立ち上がった。
《ふんっ!》
赤黒い液体を飛び散らしながら、右腕が再生。
胴体の傷も、膝裏の傷も、無かったことになっていく。
再生能力の存在は知っていたが……これは、なかなか精神に来るな。
インゼル島の戦いを思い出す。
落ちた頭を拾い、首の断面に乗せると、全て元通りに。
《確信したぞ。フェラライ様やツォルン様を殺したのは、お前たちだな》
「……?」
首をかしげるアイシャ。
しかし、俺、リーフさん、エリナさんは理解した。
フェラライ様やツォルン様ってのは、右腕たちの事だろう。
氷山で戦った奴が現れた時、確かに言った。
「フェラライ殺した」と。
《命令はお前たちを殺すこと。ふん、探す手間が省けたわ!》
数秒、眉と口角を上げたかと思うと、大きく息を吸い始めた。
「な、何をする気だ……?」
「分かんないけど、私たちには不都合だろうね」
《……くらえっ!》
吸った息を、今度は吐く。
しかしそれは空気ではなく——
「ほ、炎⁈」
二メートル程の高さから放たれる炎。
以降、懐にもぐるのは至難の業。
そう思ったが、一つ、とっておきの策があった。
「それがどうした⁉」
《……⁈》
リーフさんの瞬間移動だ。
十メートル以内の任意点に移動できるリーフさんなら、炎の幕は関係ない。
「くらいやがれっ!」
魔物の腹を捉えた切先は、彼の力をもって強引に押し込まれ——
「はあああああっ‼」
——パリンッと、ガラスの割れたような音を鳴らす。
《なん……だと……ぉ⁈》
炎が途絶えた。