(13)魔特班員としての日常
屋敷に到着した。郵便受けは空だ。魔特班の仕事は二つに大別される。
一つは明日のような王から指示を受けて行うもの。
もう一方は一般人からの依頼によるものだ。
後者は騎士団全体として実施されているものだが
その内容の危険度が高いと俺たちに回されてくる。
その両者が被った場合、優先度が高いのは王の指示だが
依頼を放置するわけにはいかないので、班を二つに分けることがある。
今回はそうはならなそうだ。
さて、帰ってきて俺たちは玄関からリビングへ。
お姉ちゃんの姿はなく、代わりに大柄の男性が座ってコーヒーを飲んでいた。
もう一人の魔特班メンバーだ。今現在はこの四人で編成されている。
「あ、リーフさんおはようございます。まあ夕方ですが」
「おはようございます」
「ああ、おはよう。手紙は無かったか?」
「ええ、空でしたよ」
「そうか」
買ってきたアイスを冷凍室に入れ、自室に向かった。
その途中で班ちょ……お姉ちゃんの部屋の扉をノックする。
「ん~?」
「ユウです。アイス三本、冷凍室に入れておきましたよ」
「了解よ。これからもたくさん貢いでね」
「は、はあ、善処します」
「そうそう、一九時から明日のこと話すから。二人ともリビングにね」
「「了解」」
勿論、こういった班長らしい面もある。
ていうかまだ二人でいる事を知っているかのようだった。
まあ俺がお姉ちゃんの立場でも同じようにしただろうな、日頃の行いだ。
今度は、俺がアイシャの部屋にお邪魔することになった。
性格からは考えられない程綺麗に片付けられている。
「あー、ユウってば私の枕の匂いかぎながらいやらしい事しないで~」
「し、してない!」
隣の部屋にいるお姉ちゃんには声しか聞こえない。
おのれ策士め。
まあいいか。
最近の俺たちのブームは人生ゲーム。地味だが、意外と白熱する。
なぜか毎回アイシャが多額の借金を背負うのがお決まりだ。
あと俺が受験で五浪くらいするのも。
これをやっていると、結構速く時が進む。
今日もあっという間に指定時間だ。
リビングに降りるとリーフさんが居た。あとはお姉ちゃんを待つだけ。
リーフさんがコーヒーを飲んでいるのを見て、俺も淹れることにした。
ついでにアイシャの紅茶も用意した。
こんなにコーヒーだ紅茶だと贅沢が出来るのは魔特班であるが故だ。
この屋敷が与えられていたり、基本的には騎士団から独立していたりと、その優遇は相当である。
だからこそ、誰しもがここへの配属を目指す。
……っと、お姉ちゃんが来たようだ。
「はい皆の者、注目せよ」
「「「誰」」」
三人同時のツッコミは空しくも虚空へ消える。
「明日の任務、分かってるわね? はい、リーフ」
「アルプトラオム基地への遠征」
「正解。現在その場所は、今の戦において一番の激戦区と言われているわ」
毎年最多の死傷者数を出しているのはここだ。
同時に討伐数も最多となっている。
「明日、人類側の領土を獲得する作戦が行われるの。内容はこう」
以下のようにお姉ちゃんは続けた。
まず、全部隊を三班に分ける。一班は横並びで魔物領地へ直進、随時攻撃。
二班と三班はそれぞれ左右から回り込んで攻撃。
目的はあくまで領地の拡大であり、魔物が撤退した暁には無理して追う必要はない。
「そしてここからがミソ。私たちも三つに分かれてそれぞれ班に加わるわ」
お姉ちゃんは二班でリーフさんは三班。そして。
「ユウ、アイシャ。あなたたちは一班に参加ね。この作戦、一班が要よ。同時に一番危険でもあるわ。だからこそ、歴代魔特班の中でも最強クラスと言われてるあなたたちに行ってもらうのよ。その力、存分に発揮してきなさいね」
世間から大げさな評価を受けている俺たちの役はいつも危険な橋だ。
だが最前線で戦って魔物から勝利をもぎ取ることは、あの誓いを果たすことにつながる。
「「了解」」
「それから、私から命令が一つ」
毎回、作戦時にはお姉ちゃんからの命令が出る。
内容は決まって一つだ。
「生きて帰ること。いいわね?」
了解、と全員が返事をしてミーティングは終了。
食事、風呂などのナイトルーティーンを済ませ
その日は早めに眠りに就いた。




