(128)学年別模擬戦闘大会
二年生の夏。毎年夏に開催される学年別模擬戦闘大会。
ルールは簡単。
あの時の模擬戦とまったく同じ。
ただし、能力の使用は禁止。
あくまでも剣術の大会だからね。
いくつかのブロックに分かれて、トーナメント形式で優勝者を決める。
「次、決勝か~。頑張ってね、ノエル!」
「うん。絶対勝ってくるよ。アタシは、こんなところで負けてらんないから」
「ふふっ、いい顔」
「じゃあ、行ってくるね」
マイに背中を押され、アタシは決勝戦の舞台に出た。
「さあ、対戦者がそろいました!」
拍手、歓声、指笛。色んな音がアタシを出迎えた。
こんなに注目される人間になれたんだ。
「選手を紹介します! 昨年度の技能成績学年三位! 無尽蔵にも思えるスタミナで相手をじわじわと追い詰める! シン!」
一時静かになっていた音たちが、再び会場を揺さぶる。
「対するは! 昨年度の技能成績はなんと一位!スピード、パワー、スタミナ、動体視力。それら全てが高水準! 見た目に反して優等生! ノエル!」
また会場が騒がしくなる。
さっきまでの声に加えて「フゥ~」なんて声も聞こえる。
それが静まると、司会者がまじめなトーンになった。
「それでは、そろそろ決勝戦を始めたいと思います」
会場は静寂につつまれる。
「これより模擬戦、シン対ノエルを開始します」
兜を着けて、剣を構える。
「第一試合、始め!」
二年生の全試合が終わった。
アタシはどこを歩いても優勝者として祝いの言葉を浴びせられた。
「やば、ノエル有名人だね」
「なんか恥ずかしいなぁ……」
「堂々としなって」
毎日のように歩いていた中庭への道。こんなにも華やかなのは初めて。
ふと先の方を見ると、男の人が一人立っていた。
同学年で、決勝戦の相手だったシンくんだった。
「ノエルさん、おめでとう」
「ありがとう、シンくん」
「すごかったね。完敗だよ。まさかストレート負けするなんて思わなかったよ」
「えっへん!私の親友ノエルの力、恐れ入ったか」
「ちょっと、マイ」
「ああ、恐れ入ったよ。きっとすさまじい努力をしたんだろうね」
「まあ、それなりに」
アイシャ先輩に大敗したアタシは考えた。
どうしてあんなにも圧倒されてしまうのか。
答えはすぐに出た。
アタシが剣を習い、先生と呼んで手本にしていたのは、騎士でも何でもない人。
そんなんじゃ先輩には手も足も出ない。
そう思ったアタシは、ユウ先輩の訓練や模擬戦をひたすら見た。
何度か講義をサボっちゃったけど。自主トレの量も増やした。
そんなことをしてたら、戦闘技能の点はうなぎ登り。
失いかけてた自信も取り戻せた。
「また今度、リベンジさせてほしい」
「えっ……うん、待ってるね」
驚いた。
アタシがアイシャ先輩に言えなかった言葉を、こんなに簡単に……。
心の中で感心しながら、マイといつものベンチに向かった。




