(123)夢の始まり
「ゴメン、大丈夫?」
ぶつかった人が、しりもちをついたアタシに手を差し伸べてくれていた。
けど、アタシはそれどころじゃなかった。急いでるからじゃなくって。
「あ……」
「……? も、もしかして、どこか打った?」
——かっこいいっ!
去年まで、恋なんてしたことは無かった。する余裕がなかった。
同学年の子が彼氏を連れている現場は何度か見てた。
いいな~とは思ったけど。
「ご、ごめんなさい。大丈夫です!」
手を借りて立ち上がった。
「顔が赤いけど……」
——アタシすぐ顔に出るタイプだ⁈
「え、ああ、いや、これは違うんです!」
「そう? まあ、大丈夫なら良かった。もし痛みとか出たら無理せず医務室行ってな?」
「はい!」
……冷静に周囲を見ると、その人の横に女の人が立っていた。
なーんだ、彼女いるんじゃん。
「じゃあ。気を付けて」
「はい、すみませんでした」
手を振ってその人たちと別れた。
振り返ってみると、二人はとても仲良さそうに話してる。
「いいなぁ……あの人……」
——あ、席取らなきゃ‼
教室で座って待っていると、人ごみをかき分けてマイが現れた。
「マイ~こっちこっち!」
「ノエル、ここ……」
——喜んでくれるかな?
「うん。空いててよかったよ、いい席」
「よくないよ……。一番前の、しかも真ん中ってあんた」
「え~、黒板は見やすいし声は聞きやすいし。完璧じゃん?」
「……まあいっか。ノエルって、チャラチャラした見た目に反してマジメよね」
中等学校を出た時、明るくなりたかったアタシは、
ムリして明るい子の容姿を真似た。
アタシっていう一人称もその一環。
……周囲の反応を見るに、やりすぎたかもしれない。
去年まで見てたクラスメイトっぽく意識してるんだけど、
もしかしてアレ、ギャルって言われる人たち……?




