(12)二人だけの休日
さて、そこら辺を散歩すると言って外に出たわけだが。
いつものコースがある。まずは屋敷そばの遊歩道を抜ける。
その先に大きな公園があり、そこでこれまたおおきな噴水を眺める。
これを見ている間だけは、今は魔物との戦争中で
自分がその戦力たる騎士であることを忘れられる。
ただ幼馴染の少女と遊びに来ただけの人になれるのだ。
配属から半年余りが経過してるが、最近になってやっと
こういう時間が精神衛生上重要な意味を持つことに気付いた。
この公園にはいつも人間が持ってくるエサを目当てにした鳥が来ている。
白い鳥、黒い鳥、灰色の鳥。異なる種の鳥が争うことなくエサを均等に分けている。
俺にはなぜか、その光景が羨ましく思えた。
次に向かうのは公園から五分くらいの所にある遊技場だ。
ビリヤードや、ダーツ、いくつかの室内球技が出来る。
俺たちの目的はそこで開催されるビンゴ大会だ。
この遊技場は王都経営であるため、その景品の質はというと、
波はあるものの、結構良いものだったりする。
もちろん狙いは五等賞のアイス一ダース引換券だ。
理由は察してほしい。
ちなみに以前、アイシャはブランド物のカバンを当てたことがある。
それを売って高級なラム肉を幸せそうに「おいひぃ~」と頬張っていた
彼女の姿は一生忘れなさそうだ。いろんな理由でね。
さて今回はというと、二人とも惨敗だった。
規模が規模だし、そう頻繁に当たるものではない。
トボトボ歩いて遊技場を出、今度は商店街へ向かう。
この商店街は屋敷の前の道とつながっているため非常に便利で、よく使っている。
ここも王都の援助によって支えられており、そこそこ賑わっている。
まあ開戦前は今とは比にならない程活気にあふれていたようだが。
ここに来ると毎回、山盛りフライドポテトを買って二人で食べている。
騎士用の配給弁当はあるが、それだけでは食べ盛りの胃を満たすことは出来ない。
だからこういうつまみ食いも悪くない。
おっと、今回はポテトだけで帰るわけにはいかない。アイスを買って帰らなければ。
ここにはお姉ちゃんお気に入りのアイスが売っている店がある。
この半年ですっかり常連だ。少し混んでいたため
俺だけ並んでアイシャには待っててもらうことにした。
……あいつはお姉ちゃん命令を徹底できてるんだな。
「おお、兄ちゃん。いつもありがとな。また罰かい?」
「ええ。大変ですよ、まったく」
「店としちゃあありがてえけんどな」
そんなことを言ってはいつも二人で大笑いしている。
すごくいいおじさんだと毎回思う。
「今日は……イチゴとチョコとバニラ、一本ずつください」
「あいよ」
おじさんは慣れた手つきで注文した味を取り出し、
保冷剤と一緒に袋に入れてくれた。並んでいる人が居たので
急ぎ代金を払って帰ろうとすると、おじさんに呼び止められた。
「兄ちゃんこれ、持って行きな」
おじさんが俺に差し出していたのはバニラアイス二本だった。
「これは?」
不思議そうな顔をしていると、こう言った。
「いつもの礼さ。かわいい彼女と一緒に食べな」
「え、いいんですか?」
「その代わり、彼女を泣かせんじゃねえぞ」
「はい、ありがとうございます!また来ますね」
「おうよ‼」
俺は列から離れてアイシャの待つ方へと向かった。
貰ったアイスを渡し、ベンチに座って食べながら話をした。
「待ってる間にね、ナンパされたんだ」
「ナンパ⁈」
「そう。私かわいいから仕方ないけどね」
「お、おう……。それで、なんて言ったの?」
「ヘイ彼女、俺たちと遊ばない? って」
「そんなお手本みたいなやつ居るんだ」
「だから私言ったの。今日はゴメン。でも私明日なら出かけるんだけど、一緒に行く? って」
「ほう」
「案の定、行く行く~とか言うわけ。で、場所を聞いてきたから答えてやったの」
「……」
「この短剣見せながら、アルプトラオム基地ってね」
騎士は、王家の紋章が入った特注のものに限り、
非戦闘時における剣の携帯を許可されている。
休暇中の緊急時に対応するためだ。
逆に言えば、その剣が騎士の証である。
そしてアイシャが言ったアルプトラオム基地とは
魔特班が明日仕事をする場所のことだ。
今一番の激戦区と言われている。
「そしたら青ざめて、急用思い出したとか言って消えてったの」
「まあ何も嘘はついてないな、うん。にしてもナンパか……怖くなかった?」
「面白かった」
「……左様でございますか」
そんな感じで話をしていると、次第に雲行きが怪しくなってきた。
雨が降る前にと、俺たちは急いで屋敷へ帰った。