(11)魔特班班長
アイシャの着替えが終わり、部屋から出た。
なぜ俺は先に出なかったのか、今更になって
疑問に感じたが、まあ良いか。
ここは魔特班に与えられた屋敷だ。
とは言っても古い木造の、ちょっとでかいだけの家だが。
それでも一般騎士の兵舎より遥かにいい環境であることは間違いない。
個人の部屋は二階にある。
俺の部屋は階段を上って左、突き当り左側に位置する。
ちなみにアイシャの部屋は俺の部屋の向かい側だ。
階段を降りると、固い表現をすれば「多目的室」と呼ばれる部屋がある。
まあ皆、普通にリビングなんて言っているが。
玄関から外に出るにはそのリビングを通るのが早い。
スライド式のドアを開け、リビングへ。
すると、ソファーでだらしなくくつろぐ女性が。
「「おはようございます」」
示し合わせたように、俺とアイシャが同時に挨拶をする。
そう、この人が魔特班の班長を務めるルナさんだ。
魔特班はいわば特殊部隊のようなもの。
そんな班の長であるからには、それはそれは格式高い人物
……ではないのだ、決して。
「おはよう。二人揃って、デートにでも出かけるの?」
「散歩ですよ、そこら辺をちょっと、ね」
魔特班は横並び、というのが班長の信念らしく、
他の班のような堅苦しい関係性は存在しない。
そういうのが嫌いなんだと言っていた。正直、助かる。
いろいろな意味でこの班には入れてよかったと思う。
おまけに、この人もまた容姿端麗……なのだが。
「そう、気を付けるのよ」
「は~い」
ひとつ。
「ねえユウ」
「?」
たった一つ。
「今度さ」
「はい」
残念な点がある。
「お姉ちゃんともデートしてね」
この際、デートのことは良い。
問題は「お姉ちゃん」である。
配属初日に出された命令の一つ目、それは
「私のことはお姉ちゃんと呼ぶこと。破ったらアイス一本ね♪」
だった。
つまりその……そういう人なのである。
「ちょっとお姉ちゃん、ユウは私の旦那ですよ‼」
男と姉妹の修羅場みたいになってない?
「あら手厳しい。いい奥さんを持ったわね」
「あはは……どうも」
「でもアイス三本のツケは忘れないでよね~」
「りょ、了解。では行ってまいります」
「あまり遅くならないようにね」
「「は~い」」
……今度「お母さん」って言ってみようかな。