(10)騎士として過ごす日常の、ある朝
嫌な夢を見た。
十九歳を迎えようというこの年になってなお、約十年前の出来事を夢に見る。
だが俺はもう、あの頃のオレとは違う。何をする力も持っていなかったユウはもう居ない。
俺はあの後騎士養成校に通い、今では騎士団の中でも特権を与えられるほど優秀な超少人数精鋭班である魔族討伐特別作戦班、通称「魔特班」に配属されている。もちろん彼女も一緒だ。
と、まあ自分語りはこれくらいにしておこう。今日は、先日こなした仕事の功績が評価されて与えられた有給休暇の二日目で、最終日だ。俺は布団を足でどかし、起き上がろうとする。しかしそれは阻まれていた。
「……?」
寝ぼけた目で周囲を観察し、覚醒しきらない脳で視覚情報を必死に処理した。
すると、すぐに原因が分かった。それは同時に、右腕が妙に暖かい理由でもあった。
「アイシャか」
幼馴染のアイシャが俺の腕にしがみついて寝ていた。
いや待て、おかしい。
「って、アイシャが何でここに⁈」
思わず声のボリュームが上がった。
その声で彼女は目を覚ました。
「……ん、なに? もう朝?」
「そうそう、朝だよ。じゃなくて‼」
「?」
「なんで‼ 俺の布団で一緒に寝てんの⁈」
「……夫婦が同じ布団で寝たっていいじゃん?」
昔、「将来はユウと結婚する‼」と言っていた彼女。
今では俺もその気でいるし、何より成長したアイシャを
他人が見れば、俺は嫉妬の標的になるんじゃないかとすら思う。
でも。
「まだ結婚したわけじゃ……」
「細かいことは気にしないの」
容姿端麗に育った彼女だが、あの天真爛漫さの面影を少し残している。
だけどそれが俺に安心をもたらしているのはれっきとした事実だ。
「……アイシャ、大きくなったな」
「なに、胸の話? 自信あり、よ」
「いやまあ間違ってはないけど……こっちの話さ」
「何年か越しにあったおじさんみたい」
「例えが絶妙だな」
「どうしてあいつらってイヤらしい目で見てくるんだろう、気持ち悪い」
荒ぶる理性を抑え込み、何とか布団から出、シャツとズボンを着替えた。
そして、あのころと変わらぬ質問を彼女に投げる。
「で、今日は何する日?」
「う~ん、今日はそこら辺を散歩できれば良いかな」
「え?」
「なに?」
「あ、いや。何でもない」
俺の中の「アイシャ」というイメージは、
もうとっくに彼女の成長に置いて行かれているらしい。
「ほれ、散歩に出るなら着替えろよ」
「は~い」
けだるげな返事をして布団から出ると、その場で寝巻から着替え始めた。
下着全開だ。というか随分と用意周到だな。
「ちょ、おま」
「ん? なに、照れてるの? かわい~。ほら、大きくなってるでしょ?」
お、ホントだ。
ではなくて。
「年頃の娘が、年頃の男子にあられもない姿を見せるもんじゃありません」
こういう面は成長してないというか、
むしろここ何年かで現れた新たな一面である。
「……ちょっと期待したんだけどなぁ」
「ん?」
「なんでもないでーす」
考え事をしていてアイシャのセリフを聞き逃した。
なんでもない、と言っていたので追及はしないことにした。