第92話「修行の成果」
二時間後……
ガコンッ、ガコンッ、ガコンッ。
「ああぁ〜、快適快適〜」
「…………退屈」
馬車は森の畔道を静かに進んでいた。
護衛対象の商人たちは先頭の車両に、グリードとテレフィはその後ろに、そして最後尾の車両には伊村とレオスが乗っている。
揺れる馬車の中で、ふたりはのんびりと窓の外を眺めていた。
◇ ◇ ◇
「ゆ、揺れる……馬車ってこんなに不安定な乗り物だったのかっ……」
座席に押し潰されそうになりながら、伊村が呻いた。
「へっ! 伊村、お前馬車に乗るの初めてか!」
「なら無理もねぇな!!」
「だがな、こういう揺れにも慣れておかねぇと、冒険者はやってられねぇぞ?」
からかいながらも、なんだかんだでレオスはしっかり伊村に助言を添える。
「そ、そうなんですね……」
伊村は少しうんざりした顔をしながらも、大人しくそれを受け入れた。
「………ん? なんだアレは?」
不意にレオスが窓の外を見ると、眉をひそめる。
「……んえっ? レオスさん? どうかしましたか? 何か異常でも?」
伊村も思わず立ち上がり、窓越しに外を覗き込む。
「あ……!? あれは一体!?」
「……まさか魔物!? もしそうだとしたらマズいですよ!?」
その瞬間だった。
何かが視界の端を一瞬で横切る。
しかし速すぎて、彼にはその正体は掴めなかった。
「……とりあえず、何があってもいいように武器の準備はしておくか」
レオスは落ち着いた様子で、刀を鞘から抜き構え直す。
伊村の焦りとは対照的に、彼の動きには無駄がなかった。
◇ ◇ ◇
ガゥンッ!!
突然、馬車全体が激しく揺れた。
「なっ!? あぁ……! た……大変だっ! あいつらはっ!?」
前方の車両にいた商人たちが声を上げる。
森の中から現れた複数の男たちが、馬車を囲んでいた。
「賊だっ!」
「“盗賊”だーっ!!」
装備しているのは剣や斧、誰がどう見ても敵意剥き出しの連中。
奴らは商人たちの荷を狙ってきたのだ。
「へっへっへっ! いい馬車があるじゃねぇか!!」
「やっちまえお前ら!!」
坊主頭の男が叫び、部下たちが馬車に近付いていく。
「くっ、来るなっ!」
必死に叫ぶ商人たち。
だが声だけで盗賊を止められるはずもない。
「ふんっ!!」
ズバッ!!
「ぐわああぁっ!?」
その瞬間、伊村たち四人が馬車から飛び出した。
グリード、レオス、テレフィ、伊村……その全員が商人の周囲に立ちはだかる。
「まさかこんな森の中で盗賊どもに襲撃されるとはなっ!」
「なかなか油断ならねぇぜ!!」
グリードは口元を吊り上げ、剣を肩に担ぎながら笑った。
「やっぱ盗賊だったか……」
「人間相手は面倒だが、やるしかねぇな!」
レオスも刀を構え、静かに身構える。
「チィッ! やるってのか!?」
「てめぇら! まず馬車の中の奴らをやっちまえ!!」
「もし邪魔立てする気だったら容赦はするなよ!!」
盗賊の大男が怒鳴り、部下たちに商人を優先して潰すよう命じた。
「おっと! そうは行かねぇぞっ!!」
グリードが一歩前に出る。
盗賊達の行手を阻み、剣を正面に構えて声を上げる。
「伊村! お前の実力、あいつらに思い知らせてやれ!!」
「…………!?」
すると、彼は突然、伊村へ声をかけて盗賊達を倒すよう指示する。
その指名に彼は目を見開く。
「え!? い、いきなりぃ!? ………わ、わかりました!」
「今こそ、修行の成果を見せてやりますっ!!」
戸惑いはあった。だが、同時に燃えるものもある。
自分がどれだけ成長したのか………、今こそ、それを証明する時だった。




