第88話「決着」
「ヒャアアァーッ!!」
「うおおぉらあぁッ!!」
ギィンッ! ギィンッ! ガキィンッ!!
――幾十合を重ねた刃と刃の交錯。
東洋とランバルトの死闘は、もはや執念と執念の衝突に変わり果てていた。
互いの肉体はすでに限界を超え、腕には裂傷、腹部には血の筋が幾重にも刻まれている。
「はあ……ッ! はあ……ッ! どうしたんだ!! もうそれで限界かッ!?」
東洋が叫ぶ。長斬刀を両腕で受け止め、剣圧に耐えながらランバルトを煽るように挑発した。
「へはははァ! そういうお前こそ! そろそろ自分の身体が持たねぇんじゃねぇのかァ!?」
ランバルトは狂気を孕んだ笑顔のまま、短剣を交差させて押し返す。
「へッ、人のこと言えんぞ! 血だらけじゃないかッ!!」
ガキィンッ!!
東洋は気合いを込めて斬刀を振り抜き、相手の間合いから身を引く。
「次の一撃で……終わりにしてやるッ!!」
言葉の裏には覚悟と、決して揺るがぬ意志が宿っていた。
「……あァ、そうだな。なら、オレも全てをぶつけてやるよ。これで死んでも、文句は言えねえぞォ!!」
二人は再び、地面を踏み締める音と共に突き進む。
「"瞬火天烈斬"!!」
「"鋭刃滅殺"!!」
キン! キン! バキィンッ!!
衝突。
東洋の剣が紅を描き、ランバルトの肩から腹部へと深々と裂いた。
一方で、ランバルトの短剣が東洋の胸部、心臓のすぐそばを容赦なく貫通する。
「が……ッ!! ぐはッ!!」
血飛沫が夜の森に舞い、二人の戦士は同時に崩れ落ちる。
「へ、へへ……どうだ……これで……お前も……ぶはッ!!」
勝ち誇ろうとしたランバルトだったが、次の瞬間、膝から崩れ落ち、白目を剥いて沈黙する。
間違いなく戦闘不能だ。そのまま彼は動かなくなった。
「………はあッ、……か、勝った……。お、俺は……こんなところで……ッ、倒れる訳にはいかんッ……!!」
東洋は、血に染まった足元を見下ろしながら、フラつく足取りで森の奥へと戻っていく。
熾烈を極めたこの戦いに勝利を収めたのは、東洋だった。
◇ ◇ ◇
その頃、廃屋の内部では………
ミセアとリンカ、近衛兵たちがスキンヘッドの暗殺者、グレン・トゥルスを包囲していた。
「ふはははっ! お前ら………何をする気だ? 武器じゃオレに勝てないってこと、もう分かってるだろ?」
グレンは肩を揺らし、余裕たっぷりに笑う。
「そんな事、わかってるわよ」
「私たちは、魔法だけであなたを倒す」
ミセアが一歩前へ出る。杖を構え、目に宿るのは冷ややかな炎。
「はっ……魔法だと? そんなもんオレに……」
バシュゥンッ!!
ドゴォン!!
グレンが言葉を言い終わるより前に、風を切る音と共に薄緑色の魔力弾が彼の頬をかすめる。
血が一筋、顎を伝って落ちた。
一瞬の出来事に、思わず目を丸くするグレン。
「なっ……! う、動きが……鈍っ……!?」
「ふふ、意外と効くみたいね。リンカ、ありがとう」
「うん、任せて」
リンカが少し汗を滲ませながら頷いた。
何が起きたのかを理解したグレンは、顔をしかめながら足を引く。
どうやら二人が彼へ魔法を放ったらしい。
特にリンカの方は、視覚的にわかりにくい種類のものをかけた模様。
「な、なるほど……魔法使いだったか。だが、そんな小細工で……オレに勝てると思うなよ!!」
「あら、それはどうかしら」
「…………!!」
しかしミセアがそれに対して冷たく呟く。
次第に杖の先に小さな炎が灯っていく。
それを目にして、グレンは前のめりになる。
一方で、近衛兵たちは指示もなく自然と動き出していた。
二人の兵士が物陰から回り込み、グレンの死角へと入り込む。
「今だ……!!」
ガシッ!!
すると突然、彼らは自分の命を省みずに、グレンの両足首を掴むように飛びかかる。
二名の近衛兵が、彼に武器の無い状態で足元を抑えにかかった。
「なっ!? て、テメェら! 何しやがるッ!!」
いきなりの事に驚いたグレンだが、いくら足掻こうとも二人はその手を離さない。
しかもリンカに魔法をかけられたせいで、余計に身動きが取れない。
「ミセア! やれ!!」
「こいつは……オレたちが押さえる!!」
「……分かったわ。準備は整った」
グレンの足を掴んだ彼らは、ミセアへ託すように呼びかける。
率先して危険な役回りをこなす事を選んだ彼らの覚悟。
それを承諾した彼女の杖には、既に直径一メートルの火球が完成していた。
「"火球"……。逃がさないわよ」
「待っ……! そいつらも巻き込む気かァ!!」
彼女の放つ魔法は"火球"。
辺りを照らす灼熱の火炎の球体が、杖の先から生成されたのだ。
しかし、それを目にしたグレンは、命乞いより前に味方をも巻き込みかねない状況に驚いている。
「ふふ……だからこそ、リンカがいるの」
「"救出"!」
だが、彼の疑問に答えるかのようにミセアが告げた。
薄く微笑み、まるでリンカを信頼するかのような笑顔を浮かべて。
ボウッ!
瞬間、ミセアの杖から火球が勢いよく放たれた。
だが、放たれた直後、リンカの魔法が発動。
着弾する寸前のところで近衛兵たちの姿が一瞬にして掻き消え、火球の直撃範囲から脱出した。
「ば、馬鹿なあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
ゴオオオオォォォッ!!
ドシュゥーーーンッ!!
火球がグレンに直撃。
黒煙と炎が天井を焦がし、大広間が一瞬で灼熱に包まれる。
そして……その中心にいた彼は、一人黒焦げとなって崩れ落ちた。
「…………終わった」
ミセアが息を吐き、杖を下ろす。
「リンカ……よくやったわね」
「うん、なんとか……。でも、MPも体力も限界……」
リンカは少しふらつきながらも、笑顔で応えた。
そう、これが彼女達みんなで思いついた作戦だったという訳だ。
「……さあ、あとは国王様を救い出しましょう」
ミセアは静かに言うと、鎖に繋がれたままぐったりと項垂れるセルフィスへと歩み寄る。
戦場と化した大広間には、ようやく静寂が戻っていた。




