第87話「金属操作」
東洋が森でランバルトと激突していたその頃……
廃屋内の大広間では、ミセア、リンカ、そして近衛兵たちが、もう一人の暗殺者と対峙。
両者の間に緊張が走っていた。
「………さて、どいつから殺すとしようか?」
壁に開いた穴の前に立つその男は、スキンヘッドに鋭く光る目つきの巨漢。
「どこからでも来い、ただし、近付いた瞬間お前らの首は飛んでるだろうがな」
男は不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりとミセアたちを見渡していた。
「ッ……!」
すると、男の挑発的な態度に、近衛兵の一人が怒りを露わにする。
たとえ言葉には出さずとも、その歪んだ顔を見るだけで激昂している事は理解できる。
彼はゆっくりと剣を構えると、大きく踏み込み……
「うおおーーっ! 国王様の命を狙う不届き者め! 覚悟しろぉッ!!」
勢いよく前方へ突進していった。
「はっ、そんな分かりやすい動きで……この俺を仕留められると思うなよ?」
だが男は冷ややかに吐き捨てると、右手をスッと掲げる。
「……!? な、なんだ……!? 剣がっ……!?」
その瞬間、突進していた近衛兵の剣が、なぜか突如として手から離れる。
まるで吸い寄せられるかのように、彼の剣は男の手元へと飛んでいった。
「えっ……!? な、なんで!? 武器が……勝手に……っ!」
この不可解な現象に、一同驚きに彩られる。
男を除き、思わず言葉が出てしまったリンカをはじめ、ミセア達全員が目を見開いてそれを見つめたまま動きを止めた。
「……フン」
男は剣を片手で軽くキャッチすると、鼻で笑いながら呟いた。
間違いない、おそらくこいつの仕業だ。
ミセア達は奪われた剣の一連の動きで、それを理解する。
「どうだ? これが俺の力だ。普通の奴には真似できねぇ芸当さ。……名乗ってやるよ」
男はゆっくりと歩を進め、ミセアたちの方へと近づきながら名乗る。
先ほどの現象は、やはり男が引き起こしていたようだ。
「俺の名はグレン・トゥルス。“金属操作”の先天性スキルを持つ者だ」
男は名前を明かす。
そして、自らが持つスキルを自分から教えた。
自分一人でお前達くらいは倒せる、という余裕の表れか。
「金属操作……?」
彼の口にしたスキル名を聞いたミセアが小さく呟くと、グレンは薄ら笑いを浮かべたまま、近衛兵たちを煽るように続ける。
「武器を持って俺に近づこうって? 無駄だ。お前らの剣も槍も、すべて俺の手元に吸い寄せられる」
「き、金属を引き寄せるって……!? そんなの反則だろ……!」
「こっちの攻撃が通じねぇじゃねぇか……!」
「ど、どうすりゃ……こんな奴に勝てるんだ……」
忽ち近衛兵たちの顔から血の気が引いていく。
恐怖に足を取られ、武器を取り落とす者も出始めていた。
そんな中、ミセアは冷静な目でグレンを睨みつけていた。
顎に手を当て、何かを考えるように数秒黙り込んだ後、ぽつりと口を開く。
「……まだ、諦めるのは早いわよ」
「え? ミ、ミセア……? 何か……考えがあるの?」
近衛兵たちと同じく顔を恐怖に染めていたリンカが、不安げに隣から問いかける。
「……あいつに剣で近づいても意味がない。近接戦じゃ、どう足掻いても不利。だけど……勝てないわけじゃない。打つ手はある」
ミセアは鋭い目でグレンの動きを観察しながら、声を潜めて続けた。
「武器が効かないなら――答えは一つ。“魔法”よ」
「……っ!」
彼女の言葉を聞いたリンカは一瞬目を丸くし、それから理解したように頷く。
「なるほど……! 魔法なら、金属じゃない……あいつのスキルは届かないかも……!」
「そう。わたしとリンカで、遠距離から叩くしかない」
ミセアはグレンから目を逸らさぬまま、声をさらに落とし、後方の近衛兵たちに視線を送る。
「あなたたちも。武器を捨てて、少しでも離れて。あいつの引き寄せが届かない場所まで下がって」
「で、でも……!」
「戦う気があるなら、いまは従って」
ミセアの強い言葉に、近衛兵たちは息を飲みながら頷く。
彼女の眼差しには、確かな戦術眼と覚悟が宿っていた。
(……リンカ、火と風。私は雷と水。……あいつの動きを止めるのは、わたし達の役目よ)
ひそひそとミセアはリンカへ作戦の詳細を話す。
その内心に灯ったのは、確かな勝算だった。
この戦い――“金属操作”を封じられるか否かで勝敗は決まる。
「……オレに勝てるとでも思ったのか?」
グレンが嘲笑を浮かべながら、ミセアたちを見据える。
「ええ。勝つわよ。お前を………ここで終わらせる!」
ミセアの冷たく落ち着きある声が、大広間に響き渡った。




