第86話「死闘」
「……ウィンドカッター!!」
ランバルトが鋭く魔法名を叫ぶと同時に、彼の周囲から幾本もの風の刃が弧を描いて飛び出した。
高速で螺旋を描きながら、東洋の全身を切り裂かんと襲いかかる。
「……おおぉッ! ふんッ!!」
だが東洋は怯まない。
咄嗟に両手を広げ、掌を前に向ける。
使うのは、もちろんあのスキル。
「スキルイーターッ!!」
キィィィィーーーンッ!!
"技能殺し"だ。
瞬間、東洋の手から先に、風の刃が接近した途端に音を立ててかき消える。
まるでその存在すら最初からなかったかのように、跡形も残らない。
「だから、魔法は効かんと……言っているだろうがッ!」
スキルの収束とともに、東洋はランバルトとの距離を詰めながら叫んだ。
その表情には、確かな怒りと戦意が宿っている。
「くっくっくっ……、やっぱり魔法じゃダメか……」
「なら、こいつでお前を暗殺してやるよ……。血の味、覚えさせてやるぜ?」
ランバルトはわずかに肩を竦めると、両手に持つ銀の短剣を構え、妖しく笑みを浮かべた。
遂に彼も剣を抜く。
「ようやくその気になったか……!」
東洋も構えを取り直す。鞘から抜かれた長斬刀が、月明かりを反射してギラリと光った。
「行くぞ! お前との一対一………正面から決着をつけてやるよッ!!」
◇ ◇ ◇
それからしばらくして、
東洋とランバルト。互いの武器が幾度も交錯し、鋭い斬撃が夜の森に響く。
キィンッ! シャアッ! ブンッ!!
金属の打ち合う音と、風を裂く軌道が、ほぼ絶え間なく続いていた。
東洋は鋭く踏み込み、斬り込む。
対してランバルトは、軽快なステップでかわしつつ、時に短剣の柄をも使って反撃を狙う。
「くけけけっ!! お前、随分と鍛えてるみてぇだな……!」
ランバルトは笑いながらも、息を乱している。
だがその目はまるで狩人。相手の隙を逃すまいと、常に東洋の一挙手一投足を見据えている。
「まさかここまで殺り合いが続くとはな……くはははっ! いいぞッ、実に殺し甲斐のある獲物だァ!!」
「!! ああッ! 俺もそう思っていたところだッ!」
東洋はすかさず応じ、荒い呼吸の中でも目の奥に力を込める。
「お前は今までの奴らとは違う……だが、それでも!」
「負けるわけにはいかんッ!!」
直後、地を蹴る。
彼の長斬刀が地をなぞり、火花を散らす。
「へっ、調子のいいこと言いやがって……!」
ランバルトはにやりと笑い、右手の短剣で東洋の剣を受け止め、左手の短剣を振り抜く。
………だが、その一撃は読まれていた。
東洋が体を捻りながら足を滑らせるようにして避け、懐へ飛び込むと、逆袈裟の一閃を繰り出す。
「なッ……!?」
咄嗟に後退したランバルトだが、頬に薄く赤い線が浮かぶ。
浅いが、確かに彼の顔は斬れていた。
「……いい切れ味だな」
しかし、すぐに彼は頬を拭いながら笑う。
痛みを感じていないのか、あるいはそれを楽しんでいるのか。
「……だが、ここからが本番だ」
シュウウウッ……!
再び風が渦巻く。
彼の周囲に現れたのは、刃のように鋭く変質した風の螺旋。
「“ウィンドスラスト”!」
呼応するように、三本の風の槍が音を立てて東洋へ突き進んできた。
「くッ……また魔法かッ!」
東洋は即座にスキルイーターを発動。
先ほどと同様に、その風槍の魔法を相殺……
したその瞬間だった。
「こいつはどうだッ!!」
風槍が消えたと同時、ランバルトはいつのまにか突進していた。
あっという間に東洋との距離を潰す。
その速度はまさに、風のごとし。
「……!! 来いよ、受け止めてやるッ!」
東洋は刀を構え、真正面からの斬撃に備える。
ギィィンッ!
激しい打撃音。長斬刀と短剣が交錯し、火花を散らす。
東洋が押し込む形で剣を叩きつけ、ランバルトがそれを受け止めながら後方へ跳ぶ。
「……ほう。真正面から受けた奴は、久々だぜ……!」
ランバルトが楽しげに舌を舐め、次の一撃に備える。
「そうか! だが、勝つのは……俺だぁぁぁッ!!」
「……いや、勝つのは……この俺だッ! ふははははは!!」
二人の雄叫びが、夜の森にぶつかり合うように響き渡った。
風が、刃が、視線が火花を散らし――
この死闘は、ついに最終局面へと突入する。




