第84話「戦闘開始」
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「………お、俺を誘き寄せる……だって!? そのために……それだけのために、こんな非道な真似をしたのかお前らはッ!」
セルフィスの言葉を受け、東洋は怒りを爆発させた。
無関係な人間を、しかも国王という立場の人間を巻き込んだこの卑劣な計画……それが自分を狙ったものだったと知り、怒りを抑えられるはずもなかった。
「……帝王様に素直に従ってさえいれば良かったんだ。お前が魔王討伐という使命から逃げたから、こうなったんだよ」
冷ややかに言い放ったのは、スキンヘッドの暗殺者だった。
どこか薄ら笑いを浮かべたその態度に、東洋の怒気がさらに膨れ上がる。
「なッ……!? それだけの理由でセルフィス王をあんな目に!!」
「ふざけるな……狙うなら最初から俺を狙えってんだよ! 絶対に許さねぇ………お前ら三人まとめて叩き潰すッ!!」
憤怒を滲ませた声を上げると、東洋は長斬刀を手に駆け出した。
最も近くにいた紫髪の暗殺者へ一直線に突進する。
「!? 東洋! ちょっと、考えなしに突っ込まないでよっ!」
「まったく……また一人で突っ走って!」
ミセアとリンカが叫ぶも、東洋の勢いは止まらない。二人もすぐにそれを諦め、すぐさま東洋の援護に入る。
「お、おい! 俺たちも加勢するぞ!」
「「おおおーッ!!」」
近衛兵たちも動き始め、緊迫した空気が大広間に充満していく。
「あの黒髪の太眉が“暗殺対象”か……フン。俺の出番すらいらねえな」
一方、紫髪とスキンヘッドの後方、無言で様子を伺っていた白髪の青年は低く呟き、短剣を両手に構える。
隈の浮かんだ瞳に不気味な光が宿る。
「うおおぉぉッ!! はあぁッ!!」
東洋が男に斬刀を振り下ろす。激しい金属音が響いた。
「っと、危ねぇな……どこ狙ってんだ?」
だが、男は片手の短剣でその一撃を受け流し、間髪入れずに左の拳で彼の腹を打つ。
「ぐ……ッ!」
だが、東洋は怯まない。
腹部への一撃を無理やり受け流し、剣にさらに力を込めた。
「こんなもん効かねぇッ! 俺の剣を舐めんなよッ!」
バキィンッ!
そのまま凄まじい剣圧が相手の短剣に圧し掛かり……
鋼の刃がなんと、真っ二つにへし折れる。
「な、なんだと!? この俺のナイフが……ッ!? ぐっ……!」
動揺した男の視線が、自らの武器に向いた瞬間……
東洋は一気に懐へ飛び込み、斜めに剣を振り抜いた。
ズバッ!
「がっ……は……」
胸元から肩にかけて深々と袈裟斬りを喰らった男は、呻き声を上げ、血を吐きながら床に倒れ込んだ。
「ふう……! 一人、片付けたアッ!」
東洋は呼吸を整える暇もなく、白髪の青年へと視線を移す。
「次はお前だあああッ!!」
気合を込めて叫ぶと、地面を踏み鳴らし、青年に向けて突進しようとする。
「おっと、どこ行くつもりだ? 次は俺だろうが!」
それを阻むようにスキンヘッドの男が前へ出る。
「待ちなさい。あなたの相手は私たちよ」
「……ふっ、そう来るか。なら最初に倒すのは、お前らで決まりだ」
だが、その間に割り込む者たちの姿が。
ミセアとリンカ、近衛兵達だ。彼らが男に立ちはだかり、東洋をサポートする。
それに苛立ちを隠さず、男は背中から巨大な槍を引き抜いた。
男の動きに合わせて、周囲の空気がピリつく。
「くっくっくっ……」
すると、その直後……
白髪の青年が静かに笑った。
と思えば次の瞬間、大広間の壁を蹴り上げて破壊する。
ズシャアアァンッ!!
両手の短剣で穴を開け、彼はそのまま廃屋の外へ姿を消した。
「なッ!? おいコラ! どこ行きやがるッ!!」
東洋は驚きの声を上げながら、壁の崩れた先に走り出す。
だが、青年の姿は既に森の奥へと小さくなっていた。
尋常ではない速さで、闇に紛れるように姿を消していく。
「……東洋! あの男はあなたが追って!」
ミセアが前方の男を見据えながら、東洋に声をかける。
「この場は私たちでなんとかするわ! あんたは、そいつを逃がさないで!」
「……わかった! でも気を付けろ、あの槍使い……手強そうだッ!」
どうやら自分たちだけで男の相手をするつもりのようだ。
彼女のその言葉に迷いはない。
東洋は一度だけ振り返り、仲間たちの姿をしっかりと見届ける。
この後の戦いを託し、自分は逃げていった暗殺者の一人を追うことに専念することにした。
「うおおぉぉーッ! 待てコラァーーーッ!!」
勢いそのままに、彼は壁の向こうへと飛び出し、森へと駆けていく。
その背中を、ミセアとリンカ、そして近衛兵たちが見送った。
「さあ……こっちはこっちで大仕事よ!」
ミセアが杖を構え、スキンヘッドの男と対峙する。
戦いは、二手に分かれて本格的に始まろうとしていた。




