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第8話「S級モンスター」


「ん!? おい、どうしたんだ北本ッ!」


北本の目つきが鋭く変わったのを見た東洋は咄嗟に身構えた。


「……? どうしましたか北本さん?」


そして東洋と同じくそんな様子の北本を見て不思議そうな面持ちになるコルトン。


「……、"モンスター"っぽい奴の気配を感じた」

「え!? そ、それは本当かッ!?」

「…………!!」


自身のスキル・気配察知でモンスターの気配を予知した北本は東洋とコルトンにそれを知らせた。


「なんと……、まだ勇者の話がまとまってないというのに、なんてタイミングで………」


コルトンは北本たち三人に話した勇者の説明がまだ終わっていないことを口にして嘆いた。


「………なあコルトン。一つ聞きたい事がある」


すると、ふいに北本がコルトンに何かを尋ねようとする。


「何です? あ、もしかして遂に勇者をやる気になったんd」

「やらねぇよ」

「………!!?」


北本がコルトンの話を遮りながら、勇者という役目をキッパリと断った。


「お前、いや……お前ら(・・・)か………。何を企んでやがんだよ?」

「………一体何の話でしょう?」


北本が話す内容の意味が分からないとばかりに惚けるコルトン。

しかしながら、そんなコルトンを見ても北本は構わず続ける。


「惚けんなよ。さっきモンスターの気配を感じた……、このタイミングでな。そしてオレが気配を感じたってことは"そいつ"はここから"約5メートル"っつーかなり近い範囲内にいやがる………」

「そッ!? そうなのかッ!? だが、それらしき輩は今のところどこにも………」


東洋が言いながら周辺を見渡してみるが、自分とそれ以外の三人の他に、モンスターと思しき生物はどこにも確認できない。


オレら(・・・)には視えなくて当然だろ。なぜならコルトン、多分アンタがなんかの魔法を使ってモンスターを透明化とかさせてるだろうからな………」

「はッ!? き、北本! コルトンの仕業なのか!?」

「おお! 北本さん!! もしかして私を疑っているのですかっ!! 一体なぜそう思うのです!?」


当然ながら、モンスターを隠していると疑惑の目が向けられているコルトンは、自分を何故疑うのかと理由を聞く。


「……さっき、オレが気配を感じたと言ったな……? そん時東洋のヤツは驚いていたが、アンタは表情をまるで変えてなかった………。モンスターが近くにいるってのによ」


北本は近くにある茂みを横目にそう語り、コルトンの方を睨み付ける。


「え……、あ、あのm」

「それに、アンタは召喚魔法とかいうのを使えるらしいから、きっとそれ以外の魔法も使えるハズだと思ってな……。来たばかりのオレらを除けばアンタしかそれっぽい芸当はできねぇ」

「恐らくは、何らかの魔法を使って魔物を透明化したりしてオレらからバレないようにしてたつもりだろう……。どうだ? 違うか?」

「………くっ!」


北本に言い寄られて、まるで詰まったかのような声を出すコルトン。

……すると、しばらくして口を開いた。


「………勇者は、どうしてもやってくれないんですね?」


急にコルトンの声のトーンが変わり、目つきも先程とは打って変わり冷静な様子を見せる。


「あぁそうだ、オレ、いや………オレらには特に何のメリットも無いからな………」


自分だけではなく東洋、そして伊村が勇者になる気は無いとさらっと断った北本。


「もう一度だけ問います。やっていただけませんか?」

「やるかよボケ」


その後も、三度目はないと言わんばかりにコルトンが北本に同じ話を持ち掛けるも、またもやきっぱりと拒否される。


「お、おい、本当にやらないのかッ!? 勇者はッ!?」

「当たり前だろ。別に一般人より強えぇからという理由でオレらがやる意味なんてねぇし、クソほど面倒くせえわ」


東洋が聞くと北本はやる意味がない上に面倒だと即答した。


「……た、確かにそうだがッ!」


東洋は北本に反論する為の言葉が見つけられず、北本の意見を肯定する。


「はぁ……仕方がないですね、あなた達は私が長きに渡る努力の末にようやく召喚できた"勇者"たちだったのに………」


コルトンは小さく口にすると自身の右手を前に挙げ、ブツブツと呪文のような言葉を唱え始めた。


「……? 何する気だよ? コルトン」

「な、何か言ってるぞッ!? 気を付けろ北本ッ!!」


北本は一連の行動を怪しみ、東洋はコルトンへの警戒を強める。


「ああ……、もし勇者が反逆を起こした際すぐに制圧できるように用意しておいたS級モンスター(・・・・・・・)をこんなにも早く使う時が来るなんて………」


コルトンは言い終わるのと同時に先程から詠唱していた呪文のような言葉を唱えた。

その直後………。


グオオオーーーンッ!!


東洋たち三人の右手側に群生していた樹木が薙ぎ倒され、山吹色の身体の巨大な熊が姿を現した。


「で、でかい………。それにS級モンスター(・・・・・・・)だと!?」

「お、おい………これはヤバくないかッ!? 俺たちはまだこの世界に来たばかりだ! まだ戦闘訓練など一度もやっていないッ!!」


その光景を目にした二人は途端に驚きと絶望に支配され、思ったことを口にした。


「………言っておくが、もうお前らには生きる希望は残っていない。あの大きな魔物はS級モンスターだ……、一度暴れ出したら国一つを滅ぼすほどの攻撃を気が済むまで行う。奴等の平均的な総合力は"一万"以上、到底お前らじゃ勝ち目は無い………」


敬語を止め、冷淡な口調でコルトンは吐き捨てる。


「おいおいマジかよ……!」

「い、一万以上だとッ!?」


その言葉の中にあったS級モンスターなる存在の総合力に動揺する二人。


「ぁ……ああぁ………。なんてこった……!!」


北本たち三人から少し離れた場所で伊村は蹲り、身体が小刻みに震えながら怯えて呟く。


「あぁ……もうダメだ、おれたちはここであのモンスターに喰われて死ぬんだぁ……!」


青ざめた顔をした伊村は、自分たちの未来を予想して絶望に打ちひしがれる。


「さて……、上に報告しに行くか。勇者共が反旗を翻したと………」


コルトンが空を見上げて言うと、さっさと歩いてその場から離れようとする。



「……!? 待てよお前!! どこへ行く気だ!?」


グオオオオッッ!!


北本がコルトンを静止しようとするが熊の魔物の上げた咆哮(ほうこう)によってかき消される。


「くぅ! 北本! どうやら今は、それどころじゃ無いみたいだぞッ!」


熊の魔物を睨みながら東洋は北本に言った。そして、それとほぼ同じタイミングで熊の魔物がのそのそと動き出す。


「………見たところ、動きは大して早くないみてぇだな。東洋! さっさとコイツをなんとかするぞ!!」

「あ、あぁッ! ……だが、ヤツの総合力は1万以上だと言っていたぞ!! お、俺たちに勝機はあるのかッ!?」


東洋はコルトンが言っていた言葉を思い出して少し心配になる。


「………東洋、オレは……オレのスキル・幻影を使って"逃げる"、お前はあのモンスターをなんとかしろ!」

「あぁ……分かったッ! …………ってオイ!? 俺は囮かよ!? バカヤローーーッ!」


さらっと北本が、自分を囮に使って逃げるつもりだと言うことに気付き、東洋は思わずツッコミを入れる。


グアアアーーーッ!!


しかし言い合っている場合ではなかった。

熊の魔物がピタリと立ち止まり伊村の方を向きその方向へ再び移動したのだ。


「!? おい! アイツ伊村の方に行ってないか!? 大変だッ! すぐに食い止めねばッ!!」


東洋は言うと焦った様子で駆け出し、熊の魔物を伊村から遠ざけようとする。


「……!? おい、東洋! 死にに行く気か? やめておけよ。あの魔物に狙われたアイツはもうダメだ……! 戻れ!!」

「うおおおお!!」

「おい聞こえてんのか! おい!」


それを見た北本は咄嗟に東洋を止めようとするも彼は聞く耳を持たず、熊の魔物に攻撃を加える。


「ぬんッ!」


ドガッ!!


東洋は、伊村から約3メートルの距離まで近付いていた熊の魔物の右肩の部分を自身の右脚で蹴りつける。

…………が、


「ぐあああッ!? 痛ああああああッッ!?」

「……!? 東洋!?」


熊の魔物の皮膚が硬かったのか、蹴りを入れた右脚の爪先を両手で抑えて痛がる東洋。


オオオオオッ!


直後、熊の魔物が自分の肩を蹴った東洋を鋭い眼光で睨み付けると彼が居る方向へ振り向き、前脚の爪を立てた状態で振り下ろし攻撃した。


「……ッ!?」


ザクッ!!


右脚を抑えていた東洋は直前までその攻撃に気が付かず、熊の魔物の前脚の爪が当たる寸前で身体を背後に反らして避けようとするが行動が遅かった。

彼の腹部は爪で引き裂かれ、大量に血が噴出した。


「チッ!? クソがっ!!」


北本は東洋が熊の魔物に腹を引き裂かれたのを見て、彼を急いで救出しようと動き出す。


「………くっ! ダメだ、意識がッ! 遠……く、なっ……て………」


ガクリと東洋は頭を地面につけ、目を閉ざして意識を失った。


「ウォォォォッ!」


東洋がやられたからなのか、或いは激情に駆られたのか、はたまたヤケになったのか……全速力で北本が熊の魔物へ向かい、空高く跳び上がり真正面から右手で熊の魔物の顔を殴り付け、腹部を蹴り上げる。


ブオアアッ!!


「……!?」


しかし、熊の魔物は突然口から炎を吐き出し、北本を焼き尽くそうとしてきた。


「く! コイツっ、火炎放射が使えるのかよっ! ………オラァ!!」


彼はそう言うと同時、炎を掻い潜ってから熊の魔物の胸の部分を両手で数回ほど殴り付けた。


オオアッ?


だが、熊の魔物にはまるでダメージが入っておらず北本はそれに動揺し空中にいる為か、体勢を崩してしまう。


「……クソ! 全然効いてねェ! HPどんだけあんだこのクソ熊ッ……!?」


北本が台詞を言い終わるタイミングで熊の魔物は北本の身体を前脚で抑えた後 彼の身体に爪を立てる。


「うあああああっ!? くそっ、離れろこのっ!! ……ガフッ!?」


噛みつかれた北本は必死に抵抗するも、鋭い爪で腹部を切り裂かれ力無く地面に落ちた。


(お、オレの……身体が…………し、死ぬのか? ………こんな……とこ……で………)


そして北本は直に意識を保てなくなっていき、数秒後には視界がフェードアウトしてしまった。



* * *

          


「う、……うそだっ、あの………、あの二人が………、おれよりもステータスが高い東洋さんと北本さんがぁ…………」



東洋と北本の二人が熊の魔物によって倒されてしまい、残すは伊村ただ一人となった。

東洋、北本と立て続けに戦い無傷で彼らを倒した熊の魔物は、最初に自分が標的としていた伊村へ視線を向けると尻餅をついて茫然自失になっている彼の居る方へのそのそと近付き始めた。


(い、イヤだ………。こんなとこで死にたく無い! ………生きて、絶対に生き残ってやるんだよォ!!)


先程まで呆然と立ち尽くしていた伊村は熊の魔物を倒せなければ元の世界へ帰ることができないと思いようやく戦う決意を固めた。


「るあああああッ! 邪魔なんだよお前ェェェ!!」


彼は言うと、熊の魔物に向かって決死の覚悟で攻撃を仕掛ける。

……しかし、熊の魔物はその攻撃を避けようとはせず、


「ウォラァッ!!」


そのまま伊村の右ストレートが熊の魔物の左胸の部分に当たる。


ザシュッ!!


「ぐぉあぁっ!? ………な、ぜ、全然、効いて……ない………!!」


………だが全く熊の魔物の身体には傷一つ付かず、伊村は熊の魔物の左脚の爪で胸部を貫かれて地面におもいきり叩きつけられてしまう。


(あ……、あ、こ、声が……出………ない、それに……、なんか………眠く……なってき……た………)


叩きつけられ、地面にうつ伏せの状態で倒れた伊村は段々と意識が遠のいていき、しばらくすると全く動かなくなった。


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