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四勇冒険記 〜勇者として召喚された者たちの果てなき旅路〜 【2月以降に次話投稿予定】  作者: K.R.
狙われた若王編

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第82話「ノウンの谷」


アリアナとオルベンスからセルフィス王の救出を託された東洋は、それから数時間、休む間もなくルガロ砂漠を西へと走り続けていた。


そして今、彼は砂漠の中央――赤褐色の岩肌が連なる渓谷地帯の手前に立っていた。



「――ほぉ! オルベンスが増援を送ってくれたのかッ!」



そこには、セルフィス奪還の支援として駆けつけた十名の近衛兵たちが整列しており、その中に東洋の仲間であるミセアとリンカの姿もあった。


「まさかお前たち二人まで、俺と一緒に来てくれるなんて思ってなかったぞッ!」


東洋は驚きと喜びの入り混じった表情で、彼女たちに言葉を投げかける。



「……国王様が誘拐されたんだから、仕方ないでしょ?」

「そうそう! それに、東洋はもう私たちの仲間だし、黙ってなんていられないよ!」



ミセアとリンカは、オルベンスの命令に従って来たというよりは、**“仲間だから”**という理由で参加していた。


「おお、ありがとなッ!」


東洋は拳を握り締めてうなずき、頼もしそうに仲間たちを見渡す。



「……よしッ! 行くぞ! あの渓谷を越えた先に、セルフィス王がいるッ!」



◇ ◇ ◇



渓谷に入ってから二十分が経過。東洋たちは薄暗く鋭い岩肌が連なる断崖地帯を進んでいた。

崖に沿って続く小道は複雑に入り組んでおり、滑落すれば即死必至な断崖もあちこちに顔を覗かせている。



「大丈夫かお前ら? まだ歩けるかッ!?」



振り返って仲間たちに声をかけた東洋の顔には、やや汗が滲んでいる。しかしその声には疲労の色はない。


だが、その背後で足を進めていた近衛兵たちの数人は、呼吸が荒くなっており、明らかに体力を削られているようだった。


「おいおい、もうバテてるのかッ!? これじゃセルフィス王は救えねぇぞッ! 気合い入れろォッ!」


東洋は語気を強めて激を飛ばす。


「はぁ、はぁ……、と、東洋……ま、まだ大丈夫だよ!」


リンカは肩で息をしながらも笑顔を作り、東洋に応える。


「さすがは“ノウンの谷”……。もう足が棒みたいになってきたわ……」


ミセアは足を押さえながら、周囲の風景に目を向ける。


「……ん? “ノウンの谷”? それ、この渓谷の名前かッ?」


東洋が聞き返すと、ミセアは小さく頷いた。


「そうよ。底が見えないほどの崖がいくつもあって、過去に何人も落ちたって話よ。……死亡者や行方不明者も、ね」

「……なるほど、確かに気を付けなきゃなッ!」


彼は顎に手を当て、慎重に足場を確認するように前へ進み出す。


「さぁて、もうひと踏ん張りだーッ! 休んでる暇はないぞッ!」


彼は仲間たちを励まし、先頭に立って歩を進めていく。


「うおおッ! 必ずセルフィス王を取り返すぞーッ!!」


東洋の雄叫びが、渓谷に反響する。


「な、何であんなに元気なの……?」

「……もはや体力バカね」


後方で、リンカとミセアが呆れたように小声で囁く。



「……む!? こ、これは……急な斜面だな……ッ!」



しばらく進むと、小道の先に崖に沿って切り立った傾斜が現れる。

思わず足を止めた東洋が、後ろを振り返る。


「お前ら、気をつけろよッ!」


そう言いかけたその瞬間――



「……あっ! な、何だアレはっ!? 岩か!? しかもデカいぞ!!」



傾斜の上方から、巨大な岩がごろりと転がり落ちてくる。


「ッ!? なんだとッ!?」


突如迫ってくる巨大な質量に、東洋は目を見開き立ち尽くす。


「東洋、下がって!」

「危ないよ!? 退かなきゃ!!」


ミセアとリンカが必死に呼びかけるが――


東洋は、退かない。

むしろ両腕を広げ、真正面から構えていた。


「ま、まさかあの岩を……受け止める気か!?」


近衛兵たちもその異様な光景に言葉を失い、最前列の兵士が息を飲む。



「うおおおぉぉッ! 止まれぇーーーいッ!!」


――ズンッ!!



地響きと共に、東洋の目の前で岩が止まった。

……信じられないことに、彼は両の手でその岩を受け止めていたのだ。


「……と、止まった……!? まさか……東洋が……?」


ミセアが呟き、リンカも目を丸くしている。


「よっしゃあーッ! 受け止めたぞォッ!!」


岩の質量に微動だにせず、東洋が声を張り上げる。


「なっ……!? 岩を……それも一人で……止めた……!?」


近衛兵たちは一様に驚愕し、口を開けて東洋の後ろ姿を見つめた。


「やっぱりね……」

「ですよねー……」


ミセアとリンカだけはどこか冷静だった。

何度も彼の“人間離れした身体能力”を目にしてきた彼女たちにとって、もはやこれは“日常”なのだ。


「うおおらああッ!!」


東洋が両腕に力を込め、一気に岩を押し上げて投げる。

数トンはあろう巨岩が、崖の下へと落下していく。


「………さて! 行くぞお前らッ!」


手に付いた砂をパンパンと払い落としながら、彼は歩き出す。

背中越しにまだ唖然とする近衛兵たちへと呼びかける。



「足元に気をつけろよ! この先はもっと荒れてるかもしれねぇからなッ!!」



……セルフィス王の救出劇は、まだ始まったばかりだ。


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