第77話「騎士団の初任務」
今回は一回だけ投稿します。
総隊長との顔合わせを終えた北本たち四人は、その足でレアーノ基地へと戻り、そこで各々の騎士隊配属を知らされる。
セシルは“第2騎士隊”、ディローザは“第3騎士隊”、ネイヤスは“第5騎士隊”。
そして北本は“第1騎士隊”への配属となった。
(……で、俺は“第1騎士隊”で、いきなり魔物の掃討任務ってか)
任務内容は、王都近くの“ガルガン森林”に出現した危険な魔物の討伐。
北本は他の騎士たちと小部隊に編成され、現地へと向かっていた。
(だがまさか、初日から実戦任務をすることになるなんてな)
他の騎士団員らと森林の中を進んでいる北本。
木々が生い茂るガルガン森林を進む中、北本は面倒くさそうに足を運びながら、初仕事までの早さは予想外だったと感想を抱く。
「おい、一番後ろの騎士! お前が新しく入隊した……、北本! ……だな!?」
するとその時、突然先頭を歩いていた橙の髪の男が振り返り、北本を呼びつけた。
「ん? ……ああ、そうだが」
「おお、そうか! 俺がこの第1騎士隊の小隊長……、"ヴィンクス・アドレイ"! よろしく頼むぞ!」
彼はこの小部隊の隊長……“ヴィンクス・アドレイ”。
北本が返事すると、男は快活な口調で自己紹介を行った。
「ああ、……まぁよろしく頼む、隊長」
それに北本は気の抜けた調子で答えると、再び無言で前を歩き出す。
無論、周囲への警戒は怠らない。
「……んっ!? あれは!」
森林北部の小道に差しかかった瞬間、ヴィンクスが剣を抜きながら声を上げる。
前方には、ぶんぶんと羽音を響かせる巨大な蜂の群れ。
あれが今回のターゲットなのだろう。他の騎士たちも続々と剣を抜き臨戦態勢へ突入した。
(……蜂か。あの縞模様、鋭い針……間違いなく毒持ちだな)
「出たな! 討伐対象“ロスト・ビー”だ! 王都近くまで出張ってきて、民間人に被害が出ている! いいか、必ず殲滅するぞ!!」
魔物の尻には鋭く尖った針があり、それを見て北本は冷静に"毒針"だと判断し警戒。
その中でヴィンクスは意気込み、後ろの騎士たちに先んじて蜂の魔物の群れに突撃して行く。
今回討伐する魔物、その名は“ロスト・ビー”。
「よし、俺たちも行くぞ!」
「うおお! 一匹残らずぶった斬ってやるぜ!」
ヴィンクスのその言葉に続けと言わんばかりに、他の騎士たちも次々と彼に続いて駆け出していく。
雪崩れ込むように一斉に魔物へ進撃する。
(はあ……やれやれ。突っ込む前に、動きくらい観察した方がいいんだがな)
北本はひとつ息をつき、スキル《幻影》を発動。
その場から姿を消し、敵の動きを冷静に見極める。
「あれっ!? 先輩、新入りのアイツが急にいなくなりました!」
「は!? こんな時に一体どこにいったんだ!?」
北本の近くに居た騎士たちは姿が消えたことに気付き、騒ぎ始める。
突然の事なのでまあ無理もないが、彼に気を取られたせいで、集団戦から外れ、前方へ迫る敵への対応が遅れた。
「お前ら! 騒いでる暇があるなら戦え! 手を止めるなっ!!」
「す、すみません!」
それに振り返って気付いたヴィンクスが怒鳴る。
戦闘への集中が低下していた騎士たちは、慌てて前線へ戻り、魔物との戦いに参加した。
◇ ◇ ◇
キィン!!
ガン! バキン!
ザクッ!
(…………。ん? あの魔物……針を飛ばした後、再生までの間、少し動きが鈍くなってるな………)
ロスト・ビーの群れとの戦いが始まり、しばらく経った。
北本はじっと姿を消して魔物の動きを注視し続けていた。
彼が観察する間、魔物の群れと騎士達は甲高い金属音が辺りに響くほどの苛烈な戦闘を展開している。
すると、魔物が武器として持つ針へ注目。
針を攻撃として飛ばした後、一から針を形成しようと再生中に、一瞬だが隙が生じていることに気付く。
(………。やってみるか!)
少しのあいだ、攻撃を仕掛けるタイミングを思案していた北本は決意を固める。
そして、静かに剣を構え、魔物たちのもとへ接近する。
「………うらあぁっ!」
ズバッ!!
一方のヴィンクスは、複数の魔物を単騎で相手取っている真っ最中。
己が大剣がうなりを上げ、耳に障る不快な羽音を奏でるロスト・ビーを二匹まとめて一刀両断した。
しかし――
「こいつら! まだ来るか!」
前方から、さらに3匹のロスト・ビーが襲いかかる。
周りには彼の他に数名、戦闘中の騎士達はいるが、目もくれていない。
強い者から潰す、集中狙いか。
だが……
ザシュッ!
「らあっ! この野郎!」
その程度でやられはしない。
怯まずヴィンクスはそのうち2匹の攻撃を防ぎ、大剣で薙ぎ払い木の幹へと叩きつけた。
隊長という肩書きの通りの実力を、しっかりと彼は備えている。
あまりの威力に魔物は一撃で動かなくなる。二匹揃って絶命したようだ。
「むっ………!?」
すると、最後の1匹がヴィンクスに向けて毒針を発射する。まるで弾丸のように超速で発射され、一直線に彼のもとへ飛来する。
まさか本体から分離して飛んでくるとは思っていなかったのか、ヴィンクスは少し虚を突かれてしまう。
「……おおお! ぬうあーっ!」
キィィーン!!
「毒針なんぞにやられるほど、やわな俺じゃねぇぞ!」
針が至近距離にまで接近したところで、ヴィンクスは大剣を力の限り振り上げ、ギリギリでそれを弾き飛ばして反撃に出る。
まさにその時だったーー
「はああっ!」
ザンッ!!
次の瞬間、彼の前に今まで身を隠していた北本が横から現れ勢いよく地面を蹴り抜く。
そして、わずかな時間で懐へ潜り込むと、毒針を出したばかりで動きの鈍っているロスト・ビーの頭部から腹部を剣で斬り払ったのだ。
「………む!? 北本!?」
北本がいきなり現れた事への動揺と、戦闘における緊迫感が場を支配する。
「お、おお! お前、なかなかやるな!」
「敵の数も減ってきたしな、頃合いのタイミングを見計らっただけだからなオレは」
よくみると、魔物の頭数は既に七匹程度とかなり減ってきており、北本はタイミングを見て魔物を倒したのみ、と自分への評価は受け付けない。
「そ、そうか……。まあとにかく! 残った奴らを倒すぞお前ら!」
ヴィンクスは頷きつつ北本から離れると、他の騎士たちと戦闘を繰り広げている敵を斬る為に、再び剣を構え戦線へ走っていく。
◇ ◇ ◇
日が傾き始めた頃、北本達は多少時間こそかかりはしたが、数十匹もの魔物の群れを全滅させる事ができた。
「………、終わったか」
小道のあちこちに散らばる大勢のロスト・ビーの死骸を見て、リラックスした様子で肩の力を抜き、息をつく北本。
そこへ、隊長のヴィンクスが歩み寄る。
「ああ。ロスト・ビー……際立って強くはないが、やたら鬱陶しい魔物だったな」
彼も同じく肩を回しながら、うんざりしたように答える。
いくら隊長と言えど、あの大群しかも毒持ちの相手への対応は少し手を焼いたようだ。
「よし、ともあれ任務完了だ! お前ら、王都に帰るぞ!」
だが、何だかんだ掃討任務は無事完遂できた。
ヴィンクスの号令に応じて騎士達が立ち上がり、撤収を開始。
その様子を見て北本も後に続き、森から歩き去って行く。
「………ふっ」
(騒がしい騎士隊だな、………けど、まあ、こういうのも悪くねえな)
小さく、可笑しげに笑みをこぼす北本。
騒がしい仲間、無骨な上司、面倒な任務。
だがどこか、居心地は悪くない。やり甲斐もある。
そんな感覚が、北本の胸に静かに灯っていた。
……彼はまだ知らない。
この騎士団での任務の日々が、自身をどう変えていくかを――
果たして、彼は騎士団で活動して、出世はできるのだろうか。
次週からはいよいよ東洋パートに入ります!




