第76話「総隊長の自己紹介」
これで最後です!
「えっ!? ド……竜喰い!!?」
竜喰いと自ら名乗った黒髪の総隊長。
するとその時、彼の言葉を聞いた北本以外の三人は、雷に打たれたように目を丸くし、硬直した。
「……? どうした、お前ら何でそんなに驚いてんだよ?」
しかしそれは、北本にとっては訳が分からない。
ぽかんとした顔で彼らに問いかける。
「きっ、北本くん!? ………知らないのか!?」
「はあ? 何を?」
セシルが驚愕した表情で聞き返すが、北本は全くピンと来ていない。
その様子に、セシルは視線を逸らして何故か頭を抱えた。
「おいおい!? いくら転移者だからってアレぐらい知ってなきゃおかしいって!?」
ネイヤスも目をひん剥いて叫ぶ。まさにあり得ない、といった様子で。
どうやら彼らにとっては常識レベルの話らしい。
「……いや、だから何が? お前らもっと具体的に言えよ」
北本は三人の反応の大袈裟さにやや苛立ちつつも、きちんと問い返す。
彼らに一体何が言いたいのか、といった風に聞く。
「"竜喰い"よ! レブル王国の国民なら誰もが知る英雄の異名! ホントにあんた……何も知らないの!?」
今度はディローザが身を乗り出すようにして訴えかけてきた。
その熱量に、北本もようやく話のスケールに気付く。
「うわー、マジか……そんなすごい称号だったんか。“竜喰い”って」
「ほ、本当に知らなかったなんて……」
北本が感心したように口を開いた。
彼は完全に初耳だったが、逆にここまで有名だと知ると、無知を通り越して面白くなってきた。
北本のそんな返しにディローザは呆れ半分、驚き半分の声を漏らす。
「………、どっ、ドラゴンイーターさん! あ、あなたは……本当に、かの有名なレブル王国の英雄……、なんですか!?」
そんな中、セシルがやや震えた声で本人に直接尋ねる。
「……いや、たしかにそうだが、それはもう昔の話だ。……それに、私はそれほど優れた騎士ではないさ」
だが、彼……ドラゴンイーターは淡々と、しかしどこか寂しげに答えた。
自分自身を決して高く評価せず、抑え目な声色で控えめな自己評価を下す。
「ええ? ど、どういう事っすか?」
二人の会話を聞いていたネイヤスは、困惑したように口を挟む。
「………確かに私は、君たちの言う通り、先の戦で多くの凶悪なドラゴンを斬り伏せた」
「結果……その戦果が評価され、竜喰いという呼び名を与えられた」
さらりと語られた言葉だったが、北本の頭にはその一節だけが妙に引っかかった。
(……おいおい。今、さらっと”ドラゴンを斬った”とか言ったよな……? そりゃあ”竜喰い”なんて異名も付くわけだよな……)
あまりに現実味の無い話の内容に、思わず北本はドラゴンイーターの顔を二度見する。
「……だが私は、騎士になる以前の記憶がないんだ。本名も、生まれた場所も、家族も……何一つ分からない」
ドラゴンイーターは静かに、話を続ける。
「つまり、“竜喰い”と呼ばれる前まで、私は名前すら持たなかったということになる」
この言葉を口にしたと同時、場が一瞬、静まり返る。
「な、名前が、無い……!?」
セシルが思わず絶句する。
「うぇーー!? マジっすか!?」
「う……嘘、でしょ……?」
ネイヤスとディローザも、思わず同時に声を上げた。
(記憶喪失……ってやつか。この感じ、嘘ついてる感じじゃねぇな……)
北本はドラゴンイーターの表情を見つめながら、その言葉が本心から出たものだと感じ取っていた。
「……だから私は、“名無し”と同じようなものだ」
フッと笑みをこぼし、自嘲気味に彼は呟いた。
「そ、そんな……」
セシルが言葉を失う。
「でも、今はこうして騎士として剣を握っている。過去が無かろうと、名が無かろうと――誇りを持って生きているつもりだ」
「名など何の苦にも感じていないから、もはやそれで十分だと、私は思っているよ。……では、改めて。明日から共に戦う仲間として、よろしく頼む」
「「はい!!」」
北本以外の三人が、揃って元気よく返事をする。
(ふぅ。………すげぇ奴がいたもんだ)
◇ ◇ ◇
「ーーさて、これで全員の自己紹介が終わったな」
ダクターが声をかけ、全員の視線が自然と集まる。
(……ふう、やっと一通り終わったか。にしても総隊長ってのは、どいつもこいつも……濃いな)
北本は、他四人の総隊長達の自己紹介を回想する。
彼らもドラゴンイーターに負けない、否、それ以上の個性的な面子である。
(まず………紫髪の死人みてえな顔色した奴。第2騎士隊の総隊長“ウラド・ミラーヴィス”。……あれ、完全にアウトだろ)
最初に、総隊長の一人、紫髪のヴラドという男は自ら「魔物解剖が趣味」と言い放つと、周りを気にせずにたりと笑っていた。
大方まともな感性ではない。
(いや……“サイコパス”って単語、久々に脳内に出てきたぞ……)
次に浮かんだのは、藍色髪の目つきの悪い青年。
名は”スレイン・リンクベイ”、第3騎士隊の総隊長だ。
(あいつ………オレらのこと、ガチで見下してたよな……)
彼は「総合力が1000以下なんて論外」や、「お前ら本当に騎士になる気あるのか?」など、矢鱈と北本達四人を煽り蔑むばかりだったという。
(煽り性能高すぎだろ……オレより余裕でひねくれてるとか、マジ勘弁してほしいんだが)
(他の二人はオレが知ってる奴らだな、まず左端にいたデb……、スキンヘッドの巨漢は“ケイオス・バーミリオン”、第4騎士隊の総隊長って言ってたが)
(あれは……一言でいうなら、デカくて優しい)
(「同じ隊になったら飯奢ってやるからな〜」と満面の笑顔で言っていたが、むしろそっちの方がこっちの胃を圧迫してくる)
(……そのまんま、太っ腹ってか。文字通りな)
(最後、一番右に立っていた金髪の美形騎士。“ルト・メイラー”、第5騎士隊の総隊長らしいが)
(いや……あれは見た目が完全に女だった。おとなしめで、礼儀正しくて、声も顔も、完全に”それ”だったわ)
(だが………、「実は……僕、こう見えて男なんです」と言われた瞬間、全員が固まった)
(いやいやいやいや……騙された。あれはもう、反則だろ……!)
と、総隊長についてまとめると、北本は額に手を当て、心の中で叫んだ。
(……ほんとに総隊長ってのは、ろくな奴がいねぇな!!)




