第7話「スキル」
「さあ、次は"スキル"だな」
コルトンからステータス等の説明を聞いた北本達。
自分ら三人のステータスを確認し終えたところで、もう一つの話題に移る。
「なあ、その"スキル"というのがイマイチよく分からないのだが? 北本、一体どういうモノなのか俺に教えてくれよッ!」
だがここで東洋がコルトンの方を向きスキルについて質問した。
「お前、まだ言ってんのか……、はあー面倒くせぇ」
その様子を見た北本は、やれやれといった感じで自分の顔に手を当て呆れ果てる。
「スキルっスキルっ、チートスキルっ!!」
伊村の方は自分のスキルがどんなものなのか気になりすぎて、先程からスキルを連呼している。
「コルトン、早くこいつらに説明してやれよ……」
このシュールな状況の中、彼ら二人の様子に呆れながらも北本はコルトンに早くスキルの説明をしろと急かした。
「す、スキル………ですか。私、実はそういうのは全く持っておりません………。なので、資料等で得た知識だけで説明させて頂きますが、……宜しいですか?」
「ああ、全然良いから頼む」
自分はスキルを持っていないと困惑するコルトンを見て、三人はそれでも良いと頷いた。
「……。ありがとうございます。では、まず"スキル"とは何か………、まあ簡単に言えば"特殊技能"のようなものです」
「スキルは"先天性"と"後天性"の二種類のタイプに分けられていて、"先天性"は生まれつきで既に持っているタイプで、"後天性"は鍛錬や修行をすることによって習得出来るのが特徴です」
「また、基本的に先天性のスキルを持つ方は、約1000万人に一人の割合で現れると言われています。……つまり、このアルメシアでは先天性のスキルを持っている人はかなり珍しく、持たない人は大体、後天性のスキルを持っている場合が殆どなんですよ」
そしてコルトンはスキルについての説明を行う。
この世界ではスキルを持つには鍛錬が必要のようだが、中には生まれ持った才能で会得する場合もあるらしい。
「へぇ……、じゃあもしオレらが"先天性"のスキルを持ってなかったとしたら、"後天性"のスキルを頑張って習得しなきゃ、スキル自体使えないってことか?」
先天性と後天性のスキルについて、北本はコルトンの話の内容を補足し、彼に気になった点を尋ねる。
「はい、……そういう事です。なのでもし今、先天性のスキルを持っていなかった場合、勇者として魔王を討ち倒すというのが極めて困難になってきますね……」
コルトンが真剣な眼差しで北本へ返答した。
「なにッ!? そんなにかッ!?」
「ほー、そうなんか、魔王ってのはそんなに強いんだな……」
「ええ、………勿論そうですが、魔王以外にも勇者の障害となるモノも沢山あります! 特に魔王軍の幹部がそうでしょう」
「……アレと戦うだけでも命を捨てる覚悟で臨まなければ勝てる可能性なんてまず無いですから!」
「幹部かぁ………かっこいいなぁ〜、敵だけど………」
コルトンの話を聞いた伊村は魔王軍の幹部に憧れるが、自分たちから見たら敵だと言う事を思い出し落胆する。
「魔王軍? 幹部? 魔王って部下もわんさかいんのか……、こりゃ益々勇者っつーのが面倒くさすぎてやりたく無くなってきたわー」
北本は面倒くさそうな顔をしてコルトンに言った。
「そ、そんなっ!? ……困りますよ北本さん!? そこで諦めないで下さい! あなたのステータスは常人の何倍もあるんですから! それに……、召喚された影響できっと何らかの先天性のスキルを持っているハズなんで!!」
「ん? 召喚された人間は必ず先天性のスキルが与えられるってのか?」
と、北本はコルトンとの会話の中に気になる言葉があったのでソレについて彼へ問う。
「か、必ず……という訳ではありませんが、これまで我が国が行ってきた召喚魔法で召喚した方たちはかなりの高確率で先天性のスキルを持っていました……。全員、じゃあないですが………」
「そうかぁ分かった……、なら俺は先天性のスキルを持っておらず、"勇者"として全くもって使えない人間であるように神様に願おう」
「え、ええぇっ!? なんてネガティブな願い!? ……そしてあなたはどうしてそこまで勇者になることを嫌がるのですかっ!?」
意味が分からないといった表情で、北本に言い迫るコルトン。
「えー? だってよ、勇者になったってオレには何のメリットもねぇだろ? だったら別に無理して勇者をやることはねぇハズだ……、もしオレが元の世界へ帰っても、オレ以外の勇者なんてまた召喚すりゃ良いし」
と言いながらコルトンに自論を展開する北本。
「い、いやいやいや!? あなた達以外の勇者はそう簡単には召喚できませんよ!? 現にもう何度も召喚魔法をやって数え切れないくらい失敗してきたんですから!!」
「へいへい、分かった分かった。勇者やりゃあいいんだろ? 仕方ねぇな……っていうか大分 話が逸れたなぁ、………お前のせいで」
北本は適当に返事をすると、話の逸れた原因をコルトンと決めつける。
「あなたが原因でもありますっ!!」
「あ、あのー……早く自分のスキルを確認したいんですが……?」
わーぎゃーと北本とコルトンが言い争っていると、伊村が二人の間に割り込んできてそう言った。
「そうだ! なぜ口喧嘩しているんだッ! その前に伊村の言う通り、確認すべき事があるだろう!」
それと同時に東洋も二人に意見をする。
「そ、そうですね、すみません………すぐに確認の為の準備を行いますので……」
二人にスキルの説明を促されたコルトンは言うと、自身の後方にある岩に置いてあった水晶玉に手を触れて、何やらブツブツと呪文のような言葉を唱え始めた。
「ふぅ、……そういやお前ら居たんだな。全然気付かなかったわ」
北本が自身の近くに居る伊村と東洋に言った。
「最初からいました! どんだけコルトンさんに夢中になっているんですか!」
やや不機嫌そうに北本に対して言う伊村。
「は? 夢中になってなんかねぇよ。言葉の意味を履き違えてんじゃねぇ」
それに対し、別にコルトンへ夢中にはなっていないと不満そうに北本は反論した。
「……ん? どうやら準備が終わったようだぞッ?」
東洋が言うとコルトンがいる方を指差して、二人にそう教える。
「やっとですね〜、一体おれどんなスキルを持ってるのか楽しみだなぁ〜!」
伊村は楽観的な口調で言った。
「………お待たせしました。こちらの水晶玉に手を置くと自分のスキルがどんなものなのかが分かります、では早速お試し下さい」
コルトンが言い終わると待ってましたと言わんばかりに伊村が水晶玉に手を置いて自分のスキルを確認してみる。
「積極的だなー………アイツ」
目を細めながら北本は呟く。
そして、くるりと水晶玉とは正反対へ顔を背け、二人が終わるのを待ち始めた。
◇ ◇ ◇
(……よし来い! チートスキル来い!)
現在、伊村が手を置いた水晶玉には"スキル確認中"と日本語で表示されている。
伊村はソレをみて逸る気持ちを抑えながらそう思った。
「………ん、おおっ!?」
「!? こ、これは………」
数秒後、水晶玉には伊村の名前とその下にスキル一覧と表示されたものだけが映し出されたが、そこにはスキルと呼べるものは全く無かった。
「…………え? う、嘘でしょ………おれ、スキル………持ってないの?」
伊村はこの結果に落ち込み、声を窄めて呟く。
「は、はい………申し上げにくいのですが、恐らくあなたは先天性のスキルは何一つとして持っていないようですね………」
「そ、そんなぁ…………」
伊村はガックリと肩を落とし、トボトボとその場を離れていった。
◇ ◇ ◇
「よし! じゃあ次は俺だッ!!」
伊村が可哀想な程に残念な結果で終わった後、今度は東洋が水晶玉に手を置いてスキルを確認する。
「ワクワクするなッ!」
しばらくして、水晶玉に映し出された東洋の名前の下のスキル一覧には一つだけ、"技能殺し"と表示されていた。
「ん!? 何か書かれてるぞ? "技能殺し"……?」
東洋はスキル一覧に表示されている"技能殺し"というスキルを凝視して言った。
「こ、これは………、東洋さん、どうやらあなたは"先天性"のスキルを持っているようですね!」
コルトンが驚愕の表情を浮かべながら東洋に言う。
「そうなのかッ!? いやあ参ったぞー、俺なんかが先天性のスキルを持っていいのかッ? コルトン?」
ここまできて先天性のスキルを使うのが若干不安になって来たのか、東洋はコルトンに聞いた。
「良いんですよ東洋さん、そもそもあなたも次期勇者の一人なんですから。………それに、スキルを使いこなせば十分強くなれるハズです。持っていて損は無いでしょう!!」
などと言って東洋を論ずるコルトン。
すると今度は東洋が水晶玉の方に視線を戻し、再びコルトンに話しかける。
「そうか………、おい待てよ、技能殺しの効果が分からんッ! 詳しく教えてくれないかッ!?」
東洋はコルトンに、自身のスキルの効果を説明して貰おうと頼む。
「スキルの使用効果ですか………えーと、ここを指でタッチすると出てきますよ」
東洋に聞かれたコルトンは水晶玉に表示された東洋のスキル・"技能殺し"を指で触れると、水晶玉全体の映像が変わりスキル説明と表示されている画面に切り替わった。
「そうか、すまん! 助かるッ!」
「え、ええ、……どうも」
コルトンに礼を言った東洋は水晶玉に表示されたスキル説明の下の"技能殺し"の使用効果等を記したものと思しき文章を読み上げる。
「えーと……、『技能殺し・使用者以外のあらゆる魔法及びスキルによる攻撃を無効化する。・効果範囲は使用者の周囲約50cm・Lvが上がる事によって効果範囲が拡大する」
「また、このスキルは基本的に自動発動で、使いこなせば効果範囲をある程度狭める事ができたり、スキル発動のON/OFF状態を切り替える事もできる。』………なんだこれは!? すんごいスキルだなコルトンッ!?」
東洋は嬉々とした表情でコルトンに伝えた。
「はい……、魔法使いなどの敵に対してはかなり強力なスキルですねコレは!」
目をキラキラさせながらコルトンは返答する。
「これで魔王なんか余裕だなッ!」
「そうですね! やっと私たちにも希望が見えてきましたよ!!」
コルトンはまるでこれまで自分たちが低い成果しか上げていないように聞こえる台詞を言った。
「へっ! それは良かったな、コルトンッ!!」
東洋の方もコルトンに同調しながら返した。
◇ ◇ ◇
「よーし! 次はお前だろッ? ……北本!!」
「へーへー、どうせオレはろくなスキルは持ってねーんだ……。伊村と同じパターンだよ………」
北本は言いながら水晶玉に手を置き、自分のスキルを確認する。
すると水晶玉にスキル一覧が表示されて、一番上から順に、"幻影"、"気配察知"、"状態異常耐性"、"底力"というスキルが並んでいた。
「な、何だよコレ………、なんでオレだけこんなにスキルがあんだよ……チクショー!」
北本はヤケクソ気味に言い放つと、スキル一覧から一度目線をずらす。
「なんと………スキルを四つも……!? 北本さん、やはりあなたは只者ではないですね!!」
「いやオレ、そもそもこんな事、全く想定して無かったんだが………チェッ」
北本は会話の最後の方でコルトンにも聞こえる程の音量で舌打ちをすると水晶玉のスキル一覧に表示された四つのスキルを指で触れて説明画面に変えて、スキル説明の真下に表示された幻影というスキルの使用効果を記した文章を読み始めた。
「………、『幻影・使用者の身体を、実体から幻に変える。幻にするには心の中で発動と呟くことで出来る。実体に戻るには心の中で"解除"と呟くことで幻の状態が解除される。・効果範囲、なし・使いこなせば自分以外の武器や道具、人間も幻の状態にすることができる。』」
北本は幻影というスキルの使用効果を読み終わった後、大きな溜息をつき、残り三つのスキルの説明文を一気に読み始める。
「えーー、『気配察知・敵対者の殺気等を感知できる、基本的に感知次第自動発動する。・効果範囲、使用者の周囲約5m・Lvが上がる事によって効果範囲が拡大する。』……、『状態異常耐性・状態異常魔法やスキル等の攻撃による体調の悪化を軽減する、このスキルは習得すれば常時発動する。・効果範囲、なし』………」
「『底力・残りHPが四分の一以下になると自動的に発動し、約10分間だけATK・INT・RES・DEF・SPD・LUX・DEXがそれぞれ二倍の数値まで上昇する。・効果範囲、なし』、はぁー………、なんか………オレのスキルって、地味に強くねぇか?」
北本は自分のスキルの説明文を読み上げ終わると感想として言い残した。
「う、うおおおお! 確かにスゲェぞ北本ォ! 俺にも分けてくれッ!」
東洋は北本が持っているスキルを羨ましがり言った。
「す、すごい………、"幻影"というスキルだけでも十分凄いのに、それ以外の三つのスキルも全て習得難度がB以上のレアスキル……、間違いなく北本さん!、あなたが勇者となるに相応しい!!」
北本のスキルの詳細を聞いたコルトンは言うと、北本に近寄る。
「ん……?」
すると同時に、北本はふいに周囲に視線を送る。
「おや? どうしましたか?」
「………………」
(何かが近付いてるな……ここに!!)
そう、北本が持っていたスキル『気配察知』が早速発動したようである。
北本は自身の近くから自分ら以外の何者かの気配を感じ取り、左右に数回ほど視線を移し警戒をし始めた。
そして北本は気配察知で予知した気配が徐々にこちらに向かって接近して来ていることを感じ取り、そちらから距離を置いた。