第64話「入団試験の説明」
「ここが入団試験の会場か……」
市場を抜け、しばらく道を進んだ北本。
ついに目的の入団試験が行われるとされる会場へ到着する。
入り口にはマリバが先に着き、石造りの要塞のような建物を見上げている。この建物、辺りの家屋等と比較しても抜きん出て巨大である。
彼はその大きさに呆気にとられていた。
「北本さん、どうです、なかなか広いでしょう? あの建物の中にはあなたと同じ受験者がたくさんいますよ」
その言葉を聞いたマリバが歩み寄り、北本へ声をかける。
彼の反応を伺い、さらに会場内には彼と同じく入団を目指す者が大勢いることを明かした。
「うおぉ、そりゃヤベェな……。てっきりそんな受ける奴なんていねえと思ってたのに………」
マリバの話を聞いた北本は目を丸くして息を呑む。
騎士というハードルの高い職に就く関係上、そこまで受験者などいないだろう。
と、北本はこのように考えていたが、その予想は見事に外れたのだった。
「……では、私はこれから団内での打ち合わせがあるので、これで失礼します。あなたの入団試験、合格すると良いですね。健闘を祈ります!」
試験会場を静かに見つめる北本に、マリバは一言残してその場を離れる。
どうやら彼も騎士団員として忙しい身であるらしい。少し駆け足で団の拠点へと向かって行く。
(………、入団するにはこういう試験も受けにゃならねえんだろな、とは思ってたが、実際やるとなると面倒くせえな………。けど、仕方ねえ、か)
会場から離れて行くマリバ。
北本は彼の後ろ姿を一瞥し、一人思考する。
試験を受けなければ、入団はできない。それは予想がついていた。
しかしいざ受けるとなれば、緊張ゆえかとても億劫に思ってしまう。
だが騎士を目指すにはこれはもはや避けては通れぬ道……
一刻も早く元の世界へ戻る手がかりを得るには、団へ入団し、信頼と実績を積まねばならない。
やるしかないのだと腹を括り、彼は入り口の扉を開き中へ入る。
(……!! おおぉー。広れぇ……)
会場の中は想像以上の広さであった。
1階は数百メートルはありそうな大広間、2階には石製の手すりがぐるりと取り囲む通路が設けられている。
さらにその中央部には、団の関係者が使うのだろう演説台が堂々と置かれていた。
(……多分あいつらが受験者だな。早いとこあそこへ行って並ぶか……)
大広間には既に多くの志望者が集い、試験開始の時を待っていた。
彼らをざっと一瞥し、北本はその群衆へ合流する。
(……確かマリバは、あと数分で入団試験の説明が行われるとか言っていたな……)
入団試験の説明は間もなく行われるようだ。
彼は群衆の後列へと並び、その時まで静観する。
「お、おい!? あいつ見たことあるぞ!」
「ああ、確かあの人……シレーノのギルドにいた冒険者だ……」
すると、前方に立つ受験者の二人が、後ろへ並ぶ北本の顔をちらりと見るなり驚く。
二人の片割れ、他と同じく入団希望者の青年が控えめな声で語るのは、北本に関する話。
(……何だ? オレの事を話してんのかこいつらは?)
青年は緑髪に整った端正な顔立ちをしている。
彼らの話し声に気付いた北本は、詳細な内容を聞く為しばらく耳を傾ける。
「は!? ぼ、冒険者なら何で騎士団の入団試験を受けに来てんだ!?」
「分からない……、でもこの間知り合いに会いにシレーノのギルドに立ち寄った時、彼の総合力を聞いたんだ」
「"1264"らしいが、こんな数値は聞いたことが無い……!」
片方の男はどこで見たか不明だが、もう片方の緑髪青年はギルドで見かけたという。
青年は北本が冒険者登録をする場面に偶然そこに居合わせており、その突飛した総合力を知ったようである。
「せっ、1264!? 俺よりめちゃくちゃ高けえ! じゃあ、この入団試験に来たのはまさか……!」
「騎士団の人の誰かに勧誘されたから……だろうね」
どうしてもう冒険者になったのに、さらに騎士にもなろうとしているのか……。その理由を青年は冷静に推測する。
彼は的確に北本が入団を目指すことになった経緯を当てた。
ああ、実に面倒だ。見抜かれた北本の心境はこうだったに違いない。
肩を竦めてやれやれと小さく呟き、前に居る二人に近付いた。
「………まあ、そう言う事だわ。別にオレは地位とか名声とかが欲しくて入団試験を受けに来たワケじゃねぇからな? この"フィブリア騎士団"とかいうやつに入れば沢山"金"が手に入るって言うから、それに乗っただけだぜ?」
そして、二人の会話に入ると、自分の口でもそれを認めつつ、給与以外は無欲だということを強調する。
「!! や、やっぱそうなんだな!? アンタみてえな冒険者は初めて見たぜ!」
「……なんでそんなに驚いてんだよ? "1264"だぞ"1264"! こんぐらいの数値なら別に他にも居るだろ?」
会話に入ってきた北本に驚くと同時、男が感嘆ともとれる言葉を口にした。青年も同様のリアクションを取っている。恐らく男と相違ない感想を抱いているのだろう。
一方の北本は、惚けたような顔をしながらさも当然の如く話す。
総合力四桁なんて、然程驚くほどの数値ではない。と持論を展開した。
「いや四桁は珍しいって!? アンタ以外にそんな奴とは会った事がねえぞ!!」
この返事に間髪入れず男がツッコミを入れる。
彼の言う通り、総合力四桁を超す人間などほとんどいない。
「確かに……、これはかなりの才能だな……。 ん? 二人共、もうそろそろ入団試験の説明が始まるようだ!」
二人のやり取りを静かに聞いていた青年も、北本の才覚を称賛する。
すると、群衆のざわめきがシン…と静まり返った。
その理由は、二階の演説台に男が立ったからだ。
顔には額から頬にかけて大きな傷が付き、筋骨隆々の中年くらいの齢と、見た目だけなら威圧的な印象を受ける。
男は荘厳な表情を浮かべ、自らの下で集う受験者たちに視線を移した。
「………、これより入団試験の説明を始める!!」
男は台に立つや否や沈黙を破る。
北本らの見上げる中、大声で試験の説明開始の号令を出した。
「…………だがその前に、試験において冷やかしは無用だ。やる気の無い奴は今すぐこの会場から出て行け! フィブリア騎士団の入団試験に参加する意欲のある者だけ、ここに残るのだ!」
演説台に立った男は説明に移るかと思いきや、まず、目下の受験者達に向けて睥睨する。
入団する意思のある者のみ選別すると宣言したのだ。
……すると、自信がなくなったのか、会場に集まった者のうち数十人が退出。
彼らは覚束ない足取りで出て行った。
「………。やはり何人か居たようだな。試験に対する心構えの出来ていない者が!」
そんな彼らを見送りながら、残った受験者達に向けて男は言い放つ。
その声は非常に冷淡で、厳粛な雰囲気を漂わせる。
「まあ良い、今この場に残った者達で入団試験を受けるぞ……、む、忘れていた。そういえばまだ俺の名を言っていなかったな!」
すると、男は思い出したように口にする。
まだ自己紹介をしていなかったと気付いたのだ。受験者達は男が果たして誰なのかを知らない。教えておく必要は大いにある。
オホン!男は咳払いし、全員に向け名乗ることにした。
「俺はこのフィブリア騎士団の団長、"ダクター・ヘルニオス" だ! 今回の試験では、この俺がお前たち全員の持つ力を試してやる!!」
男の正体は騎士団の団長であった。
彼は名を明かすと、直々に試験官を務めることを表明する。
「では、まずは説明から始めようーーー」
こうして、ダクターの口から試験内容が説明される。
果たしてどんな試験をやるのか……、北本は彼を見上げながら具体的な概要を知るべく耳を傾ける。
◇ ◇ ◇
「ーーー以上、説明は終わりだ」
ダクターは腕を組み堂々と告げた。
彼は時間をかけて入団試験についての説明を行い、会場の者たちの理解を促進させた。
(成る程な……、要約するとこういう事か……)
事細かな説明を受け、北本は顎に手を置き思考を巡らせる。
彼は説明で知った試験の特徴を改めて整理する事にした。
ダクターによると、入団試験には大きく分けて三段階の審査がある。
まず最初に、騎士としての"才能"があるかどうかを試す第1審査。
次に、移動する事の多い騎士には必ず必要となる、"体力"を調べる第2審査。
そして、試験の最後には、騎士を務める上で重要となる"戦闘能力"を試す第3審査がある。
最初に挑む第1審査は、この会場裏手にある団の訓練場にて、受験者たちが長距離移動時に使用する馬に乗り、如何に馬を上手に使いこなせるかを調べる。
もし馬に乗ろうとして拒絶されたり、乗ってから激しく暴れられる事が連続した場合、その時点で騎士としての素養は無いものと判断され、失格になるという。
次に行う第2審査は、総距離約500メートルはあるという訓練場を計50周走れるか調べる。
途中で体力が尽きて倒れるか、リタイアを申し出ると失格になるらしい。
シンプルに体力が問われる試験内容、ここで脱落する者は多そうだ。
最後の壁、第3審査は、これまでの審査を無事通過してきた受験者同士で模擬戦を行い、騎士に相応しい実力があるかを確かめるという。
ここで負けた受験者は無論失格となり、勝ち残った受験者のみが晴れて騎士団への入団を認められるようである。
(………試験が三段階もあるとか全く以って面倒くさすぎるが、これをやらなきゃ騎士になれねぇ……。やるしかねぇか、クソッタレ!)
説明内容を把握した北本は、三段階で構成されている事について煩わしく思う。
だが、その試験に合格しなければ騎士団への入団は叶わない。
彼としては珍しく試験に向けて奮起する。
「せっかくここへ集った事だ、待つのは嫌だろう。早速だがこれより試験を開始する! まずは第1審査、この会場裏にある訓練場で行う! 者ども集合するように!!」
北本達は各々が緊張に彩られた面持ちを浮かべる。
聞いた限りでは厳しく険しい道のりになりそうだ。彼らが硬直するのも納得と言えよう。
そんな中、団長が試験の開始を高らかに宣言。
全員の緊張を解くような迫力ある声、彼は演説台を離れ、建物を出ていく。その後を、ぞろぞろと志望者達はついて行った。
まず最初、第1審査が行われるという場所へ、北本達は満を持して移動を開始するのだった。




