第61話「近衛兵」
「はっ!! せいや!!」
「ふんっ! はあっ!!」
城の空き地から山田と南野の声が聞こえてくる。
二人は実戦練習として武器を手にお互い刃を交えていた。
あの日、ヴェガラ平野で行った訓練より一か月ーー
時が経つにつれ、さらに四人の実力は練り上げられていった。
二人の他、模地と神崎も素振りをして鍛錬に励んでいる。
「………んん? 何だぁ? "近衛兵"の声が聞こえてくるぞ?」
彼らは順調に勇者としての実力を身につけつつあった。
そんな時……、激しい修行に打ち込む四人の耳に、どこからか話し声が聞こえてきた。
どうやらその話し声は"近衛兵"のもの。
思わず山田が武器を振る手を止め、その方向へ顔を向ける。
「……あの塔から聞こえる。結構大きい声で会話してるみたい。……何かあったのかな?」
(気配察知は範囲外か……、ここからじゃ何人で話してるのか分からないなあ)
そして山田と同様に南野も、近衛兵のその声に反応する。
自分らの向かって右側に位置する塔、距離が離れている為、気配察知で詳細は掴めないが少なくとも二人以上で会話していることは確かだ。
「そんなの気にせずさっさと修行しなさいよ。私たちは早く強くならなきゃなんないのよ?」
気になるあまり鍛錬の手を止めた二人に神崎が言葉を挟む。
彼女の言う通り、彼ら四人は来たる魔王の復活までに、残された時間の限り只管に力をつけなければならないのだ。
「いや、なーんか怪しいんだよなあ。よし、見に行ってみるか!!」
「え、えぇ!? や、山田君やめなよ!」
だが山田は神崎の勧告を受けず、塔へ足を運びに行く。
丁度彼の進行方向にいた模地が、慌てて山田を引き留めようと試みる。
「うるせぇ! てかお前らも来いよ、あの声が気になんだろ!」
「そうだね、まあ取り敢えず行こう! みんな!」
しかし山田は模地の静止を振り切り強引に目的地へ向かう。
それに加え、模地含む三人にもついて来るよう呼びかけた。
南野も彼に同調したのもあり、四人は一時修行を中止。
自分らの寝泊まりする塔を目指す。
「そこで何をしていると聞いている!」
「私の声が聞こえんのか貴様!」
「いい加減にしろ!」
「……………………」
「す、すげえデカい声だな……。一体中で何が起きてやがるんだ……? 喧嘩でもしてんのか?」
歩みを進める毎に声の詳細がより聞こえやすくなっていく。
暫く歩き、塔のすぐ近くまで来ると中で何人が会話しているのかが聞き取れるようになる。
「確かに口論になってるみたいね。それにしても誰かを責め立ててるように捉えられるけど」
「け、喧嘩!? やだなぁ、行きたくないなあ……巻き込まないでよ……」
「大丈夫だって! でも塔で大変な事が起きてるのは間違いないね……、あれ?」
よく聞いてみると、近衛兵達はまるで言い争いをしているように聞こえる。当然、一行は訝しみ、先を急いだ。
その道程で南野が何かに気付いたような反応をする。
「………。ちょっと早く行った方が良いね! 敵なのかな……あそこから何だか嫌な気配を感じる……!」
今まで発動していなかった気配察知が射程に入り機能を開始。付近から敵と思しき気配を捉えたようだ。
その出元は勿論あの塔の中。
彼女はより一段とスピードを早め、塔の入り口へ足を踏み入れて行く。
「マジか!? そりゃヤベェかもしれねえな! アイツに続くぞ!」
小声で弱音を吐く模地の後ろを行っていた山田も駆け足になる。
一番先に進む南野に続けと2人を先導、彼らも声のもとへ向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「き、貴様はやはり! ……我らバーディア帝国の敵ッ!」
「くくく……、早計とはこの事だ……。アルメシアの五大国の一つ・バーディア帝国の兵士とはとても思えんぞ……?」
塔の一階から二人の言い争う声が聞こえる。
片方はバーディア帝国を象徴する紋章が付いた兜、灰色の騎士の鎧を身に纏っている近衛兵の青年。
もう一人も同様に近衛兵の格好をした男なのだが、何故かその顔は邪悪で不気味な笑みを浮かべ、真正面の近衛兵を煽りながら見据えていた。
「なっ……! ここへ何しに来た! 何が目的だ!!」
他の近衛兵とは明らかに様子が異なるその男。
青年がその男を強く睨みつけながら目的は何だと詰問した。
「さぁな? 何が目的なんだろうな? ………!! くくくく! どうやらワタシの思惑通りこちらへ来たようだな、勇者たち………」
「あのー! すいません! 何かあったんですかー?」
その質問に対して男は惚けて見せる。
それとほぼ同じタイミングで、南野を筆頭にあの四人がやって来た。
「さあ、何も? クックック………」
(この人……明らかに何かおかしい……。他の人とは違う雰囲気を感じるような……)
南野の声かけに返答し彼女にも惚ける男。
だが何故か薄笑いを浮かべている。その様子に南野は違和感を覚える。
「おい、あんたら! 兵士なんだろ!? 揉めんなよ! ……あと声もうちょい抑えろ! オレらは修行中だぞ!!」
そこへ山田が会話に参加し、声量について近衛兵の二人に詰め寄った。
模地は相変わらず不安げな顔で見守るだけだが、神崎も眉根を寄せ近衛兵達を見つめている。
「言いたい事は終わったな? では、眠れ……!」
「なっ……!?」
「え!? は、はやーーー」
山田の言葉を聞き終えた男は、四人へ確認するように呟く。
その様子に南野達が疑問や不快感を抱くのも束の間、恐ろしい笑みを浮かべ素早く移動を開始。呆然とする四人の下へ瞬時に近付くと、彼らの前で両手を翳した。
するとそこから紫のオーラが放出され、たちまち四人の意識が遠のき、なす術なくその場に倒れてしまう。
「冥土へ行く時間だ。"転移魔法"・発動!」
それだけでは終わらず、男は四人を眠らせた直後、何とも禍々しそうな黒色のローブを着た姿へと変貌。
懐から杖を取り出し下へ向け魔法陣を展開し、魔法を発動する。
見る見るうちに、南野達は泥沼に沈むように下へ下へと吸い込まれて行く。
10秒もかからずして彼らの姿を消失させた。
「!? ゆ、勇者様!? お、おのれ! よくも我が国の大事な戦力をッ!!」
四人が消えたその光景を目の当たりにして近衛兵の青年は激昂する。
剣の柄に手をかけ引き抜くと、切先を男へ向けた。
彼とてれっきとした近衛兵。普通とはかけ離れたどう見ても正常ではない男の容姿を前にしても怯まず戦意を高める。
まして、襲撃を受けたのは未来の勇者候補として自分ら帝国が丁重に世話していた転移者・南野達だ。
ここで男を取り逃がせば自分の命も危うい。本気で仕留めにかかるのも当然だろう。
「くくく……、ワタシの目的はこれにて達成されたも同然だ……。さて、この勇者共は魔界屈指の魔物の巣窟へと送り込み、モンスターの餌としてやろう………」
「な、何!? 魔界だと……! 一体何者だ貴様は!!」
だが男は全く動じない。
それどころか逆に彼のもとへ迫って行く。
「おお、そうだ……目的は果たした事だ。隠す意味も無い。……冥土の土産に教えてやる」
「………ワタシの名は"アスクレマス"。かつて"四代目"魔王様に仕えた…………、"魔王軍最高幹部"だ」
そして、何一つ表情を崩さぬまま要求に応え自らの名を明かす。
男の正体はなんと、魔王の側近である、"魔王軍最高幹部"だったのだ。
「………では、さよならだ。この世からな。………クハハハハッ!!」
ボオォォォオンッ!
名乗るのと同じタイミングだった。
アスクレマスという男は凄まじい速さで青年へ接近、彼の首元を掴み、上半身に左手をかざした直後、紫色の光球が射出され直撃した瞬間、一気に爆発した。
青年は即死だった。あたりに残ったのは男のみ。
不適な笑みを貼り付け、踵を返し歩いて行く。
「"絶望の迷宮"………ワタシですら手に負えぬ程の魔獣が多く巣食う迷宮に、勇者共を転移させる策は成功した。後は奴らの死を待つのみだ……」
場にいた者全てを処断した男は、先程まで南野達の居た場所に顔を向けて一人呟く。
程なくして、ブツブツと呪文を詠唱して前と同じ魔法陣を出現させると、黒や紫のオーラを出しながらぱったりとその場から消え去った。




