第60話「ヴェガラ平野での実戦修行」
あれから南野を筆頭とした四人は、指導官レイオンの下でおよそ一ヶ月以上に渡り戦闘訓練に励み続けた。
特に模地は、他三人とは違い全体的に身体能力が低いので、まず最初に走り込みや筋トレといった体力作りに勤しんだ。
訓練が始まり二週間が経つ頃には四人全員が自分に合う武器を使い、各々の得意分野を生かした訓練に打ち込むようになる。
彼らが選んだ武器は、山田が全長1.5メートルの茶色の金槌、神崎は持ち手に赤い布が巻かれた鉄製の槍、模地は青色の柄が目を引く通常のものよりも長い長剣、そして南野は灰と黒の配色の大剣だ。
全員バラバラの武器を扱うも、お互い模擬戦を行う等協力してその実力に磨きをかけていった。
そんなある日の朝……。
「んあ? "実戦訓練"? またそんな大変そうな修行をするんすか?」
今日も集中して鍛錬に取り組む四人のもとに指導官のレイオンが姿を見せる。彼は会話もそこそこに、城の外に出るよう促した。
一同が修行を止めレイオンの方を見るが全員顔を疲労で歪ませている。
とりわけ山田は修行に全集中していたからか、呼びかけられた事に不服そうだ。
因みに彼の上半身には、修行の成果が出たのか、まるでボディビルダーのように逞しい筋肉が付いている。
「ええ、あなた方は今から"ヴェガラ平野"に行き、実戦訓練としてモンスターを狩ってもらいます」
「種類は問いません、とにかく一端の魔物を倒せる程度の実力があるかどうか確認したいので」
レイオンは、実戦の練習と称し"ヴェガラ平野"という場所を挙げ、そこに生息する魔物を倒す事を皆へ指示した。
これは四人が一定レベルの強さの魔物を討伐できるか、それを測る為に行うようだ。
「魔物ってことは……モ、モンスター!? そんなの………ぼ、僕たちにできるのかな……」
その説明を聞いた途端、模地はビクビクと肩を震わせ不安を見せる。
「魔物と戦うなんて、この世界に来て初めてね。私たちが一体どれくらい強くなってるのか試す良い機会だわ」
(魔物か……。ファンタジー世界ならではの概念だけど、それをあたしたちが倒すって事は、つまり……生き物を殺すという事だよね? うーん………、ち、ちょっと勇気が入るなぁ……)
神崎の方は逆にやる気充分、南野は魔物を討伐する事に躊躇いと抵抗を覚えている様子だ。
そんな彼女も、緊張している模地も意欲を示す神崎も、皆特段間違った反応ではない。
これまで四人は必死に修行を積んできた、そしてその成果を確かめる為にいずれこのような戦闘をする必要に迫られる。
上面は平和だが、"アルメシア"はそういう過酷な世界なのだ。
だが人は皆多様な心を持つ生き物。不安もやる気も抱くのは当然の事。
「修行でお疲れでしょう、今すぐとは言いません。休憩を挟み体力を回復させてからでも遅くはない………」
「では、皆さんの準備が整い次第、この城を出て東に進み、ヴェガラ平野を目指しましょう!」
それに、今彼らの目の前にいるのはこれまで四人の成長と修行を見守ってきた監督役だ。
レイオンは全員に休憩を推奨すると、門の方へ進んで行く。
その際、近衛兵が使う武器庫前に立て掛けられた銀色の剣を持ち出していた。万一魔物に逆襲された場合も考慮しての保険なのだろう。四人へ安心感を与える意味合いもあるのかもしれない。
そうこうして、四人も休息を取りポーション等で鍛錬の疲れを癒すと、武器や装備を整え順次門の前へと向かう。
◇ ◇ ◇
「……ここが"ヴェガラ平野"です。この平野なら丁度いい強さのモンスターを狩れるでしょう」
一行がオルブレス城を出て何時間かが経つ。集まった事で早々に出発した彼らだが、東へ進むこと数十キロ。中々の距離を歩いたが、漸く五人は試験場所の"ヴェガラ平野"に着く。
広々とした野原に静かに小川が流れる。この地に到着した皆へ向けて説明を始めるレイオン。
「ここがそうか……な、長かったなぁ。っておい、ここ全然動物とかいねぇぞ!? しかもすげぇ静かだ!? マジでホントに魔物なんているのかよ!」
しかし山田の言うように平野にはこれといって魔物や動物の姿は見当たらない。
こんな場所で本当に訓練なんてできるのか?と周りを見回しながら疑問を抱くが、彼は気付いていない。いや、模地も神崎も同様だ。
「………いや、確実に居るね。あっちの草むらで何かが身を隠してる」
だが南野は違う。
彼女はこの平原の魔物らしき存在に早くも気付いていた。彼女の持つスキル"気配察知"で自らの周囲にある敵意や殺意を読み取ったのだ。
敵の位置は北西、警戒の色を強め皆に近くの草むらへの注意を促す。
「えぇっ!? あの草の中に何かいるの!? ま、まま………まさかっ、魔物!?」
「あそこね……、結構近くて探す手間が省けるじゃないの。逃げ出さないうちに仕掛けた方が良いわ……!」
それを聞いた模地は慌てふためき汗をだらだらと垂らす。修行しても臆病な性格は変わっていないようだ。
動揺を隠せない彼を他所に山田も神崎も其々の武器を抜き戦闘態勢に入る。
中でも神崎は南野が"気配察知"で捉えた気配は魔物だと判断し、槍を構えて前傾姿勢を取った。
草に潜む存在がその場を離れぬうちに攻撃を行う気である。また同時に四人にも先手を打つ事を勧めた。
「あ、神崎ちゃん! まだ隠れてるのがモンスターかどうかわかってないんだよ!?」
まさかもう攻撃に移るとは思っていなかったのか、南野が彼女を止めに入る。
確かに草の中にいる敵が魔物か動物かは不明瞭だ。だが神崎は止まらない。
そのまま草むらの方へ高速で突っ込んで行く。
ガサガサッ!!
すると次の瞬間、草むらの奥より体長1メートル程の中型サイズの蛇が五匹現れる。体色は緑、草原とほぼ同化する色だ。
道理で見つかりにくい訳だ。
「!? 魔物じゃ、な……い?」
「!! へ、蛇!? ……しかも結構大きい!」
攻撃の直前に姿を見せた事により、神崎の槍が止まる。
攻撃を一旦中止、驚きの声を上げる南野と共にその蛇の群れを凝視する。
「おお、あれは"ウィンドスネーク"です! "F級モンスター"に分類される魔物で、今のあなた方なら力を合わせれば倒せますよ!」
「私は手を出しませんから、四人で頑張ってあの魔物を倒してみて下さい!」
レイオンが言うにはあれはれっきとした魔物らしい。
"ウィンド"と付く事から風属性の魔法も使えるかもしれない。
四人が警戒を持ちつつ五匹へじりじりと距離を詰め、戦闘開始の時を待つ。
睨み合いだ、双方の視線が交錯する。
「うし、お前ら! 力を合わせればいけるんだってよォ!」
蛇達が魔物だと理解した山田が、声を張り上げ三人の戦意を高揚させる。
その直後、ウィンドスネークの居るところまで背中の大槌を両手に装備し向かって行った。
「やっぱり……。やるしか無いようね!」
納得したように頷き神崎もそれに続く。
槍を構えその蛇に向かって特攻を始める。
「え、ちょっ! ふ、二人共! し、仕方ないか!!」
数秒のうちに二人も魔物へ攻撃を仕掛けた。
取り残された模地は一度は呆然とするも、いよいよ覚悟を決めたようで剣を正眼に彼も戦いに参加。
「よーし! あたしもやるぞぉ! あの魔物達を倒そう!!」
手前の三人の攻勢に乗り、南野も動く。
鈍重かつ大きな大剣を携え、同様に魔物の群れのもとへ突撃する。
決意を固めたように、いつもより表情を引き締めて。
◇ ◇ ◇
「オラァァッ!!」
ガンッ!!
「くそッ! ………外したか!! すばしっこい蛇だな!!」
山田、神崎、模地、そして南野の四人が魔物へ攻撃を仕掛けた。
まず先陣を切った山田が勢い良く振り下ろす。
金槌の鈍い音が響き渡るも、ウィンドスネークは素早く身体をくねらせその攻撃を回避する。
ヒュオオォォォ!!
「な、何だありゃ!? アイツ……口から何か出してやがる!?」
山田の方へ首を向けると、口から風が吹く音が聞こえてくる。
なんと、ウィンドスネークの口の上に青い色のエネルギー体が出現していた。
「!? この音……まさか"風"の音!? 山田! 離れて!」
風の渦巻く音を奏でるソレは言い表すならば『旋風』。
神崎が叫んだ通り、その敵の周りの空気は変わり、あの旋風へ集約されつつある。
見るからに攻撃の前段階だが、山田はまだ攻撃の反動でその場からすぐには動けない。
そもそも彼の武器は重く、空ぶった時のリスクは大きかった。
バヒュウウウンッ!
神崎の声かけも虚しく、攻撃は放たれる。
口にあったエネルギー体は、細かな刃状の発光体を纏う空気砲へ変化し、山田に向けて一直線に射出されたのだ。
「おわっ!? 危ねぇ!? ……とんでもねえ蛇だ!!」
しかし間一髪、山田は神崎の声を聞いた瞬間から少しだけ引き下がていた。
これが功を奏したのか、攻撃は腹の近くを横切り、ギリギリで躱す事に成功する。
「はあぁーーっ!」
ズバッ!!
その時、後ろにいた南野が凄まじい速さで接近。
まだ反撃の姿勢に入る段階だった山田に代わり、持っていた大剣で攻撃した一匹の胴体を一刀両断した。
「お、おお……すまねえ南野!」
「お礼は後だよ! 今は戦いに集中しよう!」
「あ、あったり前だ! ……やってやるぜ!」
呆然とする山田だったが、南野が倒したのを契機に持ち直し残りの敵に再び戦いを挑んで行った。
「ぼ、僕だって! やればできるんだ! し、修行の成果を見せてやるっ!!」
「"折半"!!」
先頭を行く彼ら三人に背中を押されたのか模地も勇気を振り絞る。
足を動かし南野達の隙を窺うウィンドスネークの残り一匹、そちら目掛けて彼は右手を振り翳した。
それは、今までの修行でずっと発動の練習をしてきた己がスキル"折半"だ。
プツッ!
その瞬間だった。
攻撃対象のウィンドスネークの身体は真っ二つに分かれ、ピタリと動きが止まり、切断面から赤黒い血液が噴出する。
もう動く気配はない。戦いは一瞬で決した。
彼は一撃で魔物を倒す事に成功したのだった。
「う………。や、やった……! い、今まで全然出来なかったけど、やっと僕のスキルが発動したぞ!」
模地がそれを確認すると、凄惨な死に様に少し心を抉られる。
それもそうだ、初めて魔物を倒したのだから。
兎に角、彼は気持ちを切り替えると、スキルがまともに発動できた事へ喜びを見せた。
◇ ◇ ◇
シュウウウ……。
それからもう少し時を置き、ウィンドスネークの群れは赤黒く夥しい血液を流し全滅。ピクリとも動かず其々胴体や頭を両断されていた。
そう、彼らを南野達四人は無事に討伐する事ができたのだ。
「……やったぜ! ウィンドスネークを倒したぞぉ!」
魔物の群れを倒せた事が余程自信に繋がったのか、歓喜の表情で山田は口にした。両の拳に力を込め言葉にする。
「………っ!! な、何だ!?」
山田が喜んでいるまさにその時だった。
皆の周辺に散らばるウィンドスネーク5匹の死骸が淡く光り始めた。
「わっ、眩しい!? モンスターが光ってる!?」
「光った!? もしかしてまだ生きてるの!?」
思わずその場の全員が目を瞑り片手で両目を覆う。
だが模地と南野の二人は、発光に驚くも即座に武器を構え臨戦態勢を取る。
まだ魔物が生存しているかもしれないと考えたようで、念のため他の者達の前へ揃って移動する。
「……! 魔物の光が収まった? ……やっと死んだのかしら?」
彼らが警戒する中、ウィンドスネークの死骸から出た光は収束する。
そして、再び元の姿に戻った。
結局生きておらず、光以外は何も起きていない。
流石にもう死んでいるのか?神崎は怪訝そうな目をして呟いた。
「あのウィンドスネークが発した光は……魔素ですね」
「……殆どの魔物は必ずこの元素を持っていて、絶命するとあのように魔素が体外に放出されて大気に帰るのです」
その時、魔物が発光についてレイオンが説明を行う。
聞くところによると、あの光の正体は"魔元素"と呼ばれるらしい。
大気中に構成されているありふれた元素のようで、この世界の魔物が絶命すると、ソレが体外に出て大気に戻るという。
「成る程……、魔素が出てるからもう魔物は生きてはいないんですね。……なら安心しました」
世にも不思議な魔素の仕組みと原理、レイオンの説明を受け神崎は納得し頷く。
魔物がとっくに死んでいる事を理解した神崎は、"魔素"といった知識も得られた事に満足そうな笑みを浮かべ口にする。
「それにしても、まさかあなた方が一ヶ月という短期間でここまでの強さへ成長するとは、正直驚きました。……さすがは勇者候補!」
レイオンは話を変え、先の戦闘の一部始終へ移る。
鍛錬を通し、備わった力を活かした南野たちの戦いぶりを彼は高く評価した。
「では、今回の実戦訓練はこれにて終了です! 後は皆さんで、勇者に相応しき実力を身に付けていって下さい!」
彼らのその高い実力と成長性を認めると、今後の戦闘訓練の方向性を伝える。
遂に四人は指導官レイオンから称賛されるまでの力を身につけた。
これを、今回のこの経験を更なる自信と糧に、南野達は勇者として相応の力を付けるべくより一層邁進するのであった。




