第59話「戦闘訓練開始」
「さて……、お前たちには"勇者"として、じきに復活するとされる諸悪の根源・"魔王"を倒し、世界を救ってもらいたいのだが、やってくれるだろうか……?」
玉座より五人を見下ろすガリオスが口を開く。
謁見に来た南野始め転移者の四人に、当初の目的である"勇者"の役回りについて問いかける。
まるで物を値踏みするような目つきをしながら、魔王と戦う使命を遂行してくれるのかを、こちらを見上げる彼らからの返事を待つ。
「おう! やってやr、」
「はい、やります! 勇者として私達一丸となり、必ず魔王を退治してみせましょう!」
「や………、やってみせます!」
山田が一番最初に返事しようとするも、それは隣の神崎によって遮られる。
なぜそうなったのかというと、山田の口調がいつものタメ口であったからだ。咄嗟に彼女がそれに気付き口を左手で塞ぐ。そしてわざと大きめな声で言いかけだったところに割り込み宣誓。その後、手をそっと戻す。
遅れて山田がその流れに沿い、取り繕ったような敬語で返答する。
(あ、危なかったなぁ裕一君……、あたしもたまにタメ口が出ちゃう時があるから、気を付けないと……)
危機一髪、危うく山田の首が飛びかけるところだった。
ガリオスの顔は一瞬、眉間に皴を寄せて不愉快そうな表情となりかけていたが、神崎の行動によってどうにかガリオスの機嫌は損なわれず済む。
そんな山田と神崎の様子に南野はホッと息を撫で下ろす。
能天気な一面のある彼女もこれはマズイ、と思っていたようだ。
勿論、ただ安堵するだけではダメだ。山田と同じ轍を踏まぬよう心懸ける。
「ほお! そうか! 勇者をやってくれるのか!! ………して、そこの二人はどうなのだ?」
ともあれ、二人の返事にガリオスはご満悦。
すると今度は、列の左奥に居る模地と南野にも同様の問いかけをする。
「は、はいぃっ! たっ、倒しゅ、たぁ……倒します! ま……魔王をっ!!」
いよいよ自分の番がやってきた、ガリオスへ模地は必死に意思を伝えるも、彼の滲み出るオーラに押されたのか汗をダラダラと垂らし言葉を噛んでしまう。が、それでも魔王打倒を最後まで言い切った。
「もちろん! ……この世界はあたしたちが救ってみせます!」
最後、南野も他三名に劣らぬ気迫で同様に宣言する。
ガリオスが自身へ目を向け、何かを問いかけるよりも早いタイミングで、だ。
「はっはっは! 全員とも勇者になる決意はあると見たぞ! 実に頼もしい!! ………おい、コルトン! この者たちの強さはどうであったのだ?」
彼らの共通した返答を聞き、ガリオスはまたも満足げに笑いその勇姿を讃える。
すると次に、彼らのステータスに関してコルトンへ説明を求める。
せっかく勇者として召喚されたのだから、何らかの強みぐらいはあるはずだ。
と、列の端で四人の宣誓を見守っていた彼に、転移してきた彼らの実力について問いを投げた。
「はっ! 私が召喚いたしました彼らは、いずれも強力なスキルとステータスを持っており、特にそのうちの一人! こちらの南野さんはステータスと総合力、そしてスキルの全てが最も優れております!」
話を振られたコルトンは、真剣な面持ちで南野達四名がそれぞれ優秀なスキルやステータスを持っている事を明かす。
中でも南野が際立ち、並外れて高いステータスと強力なスキルの双方を併せ持つ、とても優れた戦士であるとガリオスに説明を行う。
「ふっ、そうか……。まあ詳細は聞かずとも鍛錬を通じていずれ分かる。お前が言うのならこの勇者候補たちが相当な実力を持つことを期待しよう………」
「………はい、ありがとうございます」
コルトンの説明にガリオスも納得したようで、うんうんと頷きその言葉を信用すると同時に四人の成長に大きな期待を寄せる。
「さて……お前たちはさきに私が言った通り、近々封印が解かれ復活する魔王を討伐して欲しいのだが、それまでは数ヶ月の時間の猶予がある……」
再び視線をコルトンの横の四人へ戻すと、再度、復活の近い魔王を打倒するよう求める。
ただその際、復活までの"数ヶ月"という猶予期間、その余裕に言及する。
「じ、時間の猶予………。じゃあその間は……?」
模地がゴクリと唾を飲み込む。まさか、彼は心の中で何か察したようで目が点になっている。
「奴が復活してからでは遅い、今すぐにでも討伐しに行って欲しい……と、言いたいところだが、この世界に来たばかりでまだ力不足であろう? その間は、お前たちを"勇者"の名に恥じぬ強さへ、"指導官"を遣わして鍛えさせるつもりだ」
「そうすれば魔王の討伐も、然程無理な話ではなくなろう……」
自分らの本音を言いつつも、復活までの間は討伐には行かず、実力を身につける為に鍛錬に励むべきだとガリオスは話した。
彼らの鍛錬の教官として、"指導官"なる者を付け戦闘の訓練をさせると告げた。
彼の言葉には一理ある。召喚されたばかりの段階ではまだ未熟、そんな状態では道中の敵にやられ命を落としてしまうかもしれない。
それではせっかく苦労して召喚したのに全てが台無しだ。
そんな思惑があるのかどうかはさておき、それならば時間のあるうちに、安全な場所で十分に実力をつけてから魔王の討伐に行った方が良い。
この判断には確かに、と四人も納得し頷く。
「え? きっ、鍛える……!? ぼ、僕たちを、ですか……!?」
が、少しの時間差で模地が反応。
自分らを鍛錬するなんて初耳だからだろう、驚いて思わず顔に不安を浮かべて目の前の彼へ聞き返す。
「そうだ、勇者となるお前たちならば十分成長できるだろう。存分に力を磨いていくといい」
ガリオスはその問いを肯定すると、模地のみならず、四人全員に向けて今後の成長と内に秘められた素質に対する期待を込めた言葉を送る。
「……んん? さっきから気になってたんすけど、その指導官?は一体何なんすか?」
だがここで山田が疑問を投げかける。
彼が気になったのは、今話題に挙げられている"指導官"なる役職だ。
「要約するならばお前たちの"教育係"のようなものだ。……指導官の指示に従い実戦経験を積めば、魔王に対抗できうる強さが身につくだろう」
「へぇなるほど……、教師みたいなモンか……。教えてもらい、どうもありがとうございやしたぁ」
その疑問に応じガリオスは具体的に説明する。眉を顰め、山田の口調に少しばかり不服を抱いてそうだが。
言うには"指導官"とは教官的な存在と見てもらって差し障りないようだ。
いつになく集中して聞いた山田が納得すると、少し砕けた敬語で礼を口にした。
「………。さて、私からの話は以上だ。これにて謁見を終えよう。……勇者候補の者たちよ、明日から指導官の下で各々 修練に励むように!!」
そして、ガリオスは話を切り上げると、コルトンへ目配せする。
程なくして、彼は玉座の間から退出し謁見は終わりを迎えた。
◇ ◇ ◇
「………模地さん、遅刻ですよ?」
四人がガリオスに謁見してから次の日を迎え……。オルブレス城は4階の、通路先に繋がる分塔3階にて、就寝した四人は起床する。
近くの兵に聞けばそこは近衛兵らが寝泊りしたり、修練を行ったりする場所。帝王の命令で彼らに貸すように言われているらしい。
役目を終えたからかコルトンが王城を後にしたのもあり、先導の居なくなった彼らは今、塔の外の広々とした空き地に来ていた。
「はあっ……! はあっ……! ぜえっ、ぜえっ、す、すみませんっ! ……ってあなたはもしかして?」
青く快晴の空、眩しい太陽の照らす朝に遅刻を指摘する声がする。
起床した四人の中でも模地は一番最後に起き、慌てて三人の居る場所へ走って来て息を乱しながら全員に謝った。
その時、彼の耳に聞き馴染みの無い声が。
見れば自分らの他にもう一人、知らない人物が居た。
息を整えてからその人物に話しかける。
「ああ模地、やっと来たか! そうだ、この人がオレらに戦闘の技術とかを教えてくれるっつー"指導官"さんだぜ?」
模地の声を聞き、山田が待ちくたびれた顔で声をかける。
山田は既にその人物が誰なのか知っていた。否、細かく言えば他の二人も同様に既知のようだ。
模地以外の三人と共に居る彼こそ、昨日ガリオスの言っていた"指導官"であった。
「模地さん初めまして………、ワタシがあなた方四人の戦闘訓練における指南役……。『指導官』の"レイオン"です」
「これから皆さんを責任を持って立派な勇者となれるようしっかりと指導していきますのでよろしくお願いしますね」
山田の紹介に呼応し彼は自己紹介を行う。
そうすると、遅れてきた模地を山田達三人の隣に並ばせ、和やかな笑みを向け改めて挨拶した。
かくして、彼らは指導官のもとで強みを引き出し鍛錬に打ち込み始める。
勇者に相応しき力をつける為に、四人は修行の日々を送るのだった。




