第58話「帝王と勇者候補たち」
「な……、そ、そんな高いのですか!? 信じられない!」
儀式成功に伴い何人もいた召喚士達が退出し、五人だけとなった建物内にコルトンの声が響き渡る。
山田と神崎、模地、三人分のステータスとスキルを確認し終えたコルトンは最後、南野の確認作業に取り掛かっていた。
ウィンドウを開き数値を見た南野から話を聞くが、その結果彼は大層驚愕しているようだ。
「え? 何驚いてるの? あたしのステータスってどう考えても普通でしょ?」
「よっ、四桁ですよ四桁! Lv1の時点でこれほどまでに高い総合力は滅多に見られません!」
惚けた顔をして一体何故彼が驚いているのか理解できていない南野。
それもその筈、彼女のステータスは他の三名を大幅に上回っていたのだ。
【名前】 南野 舞衣
【性別】 女性
【種族】 人間
【職業】 学生
【年齢】 15歳
【体調】 健康
【Lv】 1
【HP】 268
【MP】 46
【ATK】 203
【INT】 59
【DEF】 164
【SPD】 197
【CHM】 73
【MOT】 102
【LUK】 54
【DEX】 97
【総合力】 1,088
ご覧の通り、南野のステータスは大半の項目で数値が三桁に達しており、総合力も"1088"と異常な程高い。
これ程までに高い数値は北本や東洋以来だろうか。
「は!? 四桁っ!? み、南野の総合力ってそんな高いってのか!?」
南野の総合力が四桁だと聞いた途端、山田も目を丸くして聞き返す。
「総合力が四桁って、……わ、私たちより相当高いわね………」
「す、すごい舞衣ちゃん……」
神崎も模地も、彼女の総合力を聞くと唖然とした顔となって彼女を見つめている。
「みんなも……、何でそんなにびっくりしてるの……?」
そんな四人の様子に、南野は全く訳がわからない模様。
キョトンとしながら立ち尽くす。
「み、南野さん実は……、こちらの三人方の総合力の数値は、あなたとは違って……、"三桁"なんですよ……」
未だに驚きが隠せない表情を浮かべコルトンが彼女に驚いている理由を告げる。
他の三人がどういったステータスなのか、どのような数値だったのかを明かした。
「え………ええぇっ!? み……皆、総合力"一千"も超えてないのっ!? じゃ、じゃあ総合力が四桁なの、あたし一人だけ、って事?」
「は、はい。そうなり……ますね」
他の面々が自分を下回るステータスだという事実を知り、南野も驚嘆の声を上げる。
一人だけ飛び抜けた数値、彼女の声にコルトンが頷き理解を促す。
(よ、予想外だった……! まさかあたしが山田君達よりも総合力が高いだなんて! 神崎ちゃんか山田君のどっちが強いんだろうって思ってたのに……! あたしあんまり運動とかしてないのにー!?)
平均的で普通のステータスだろうと高を括っていた南野だが、想定外の事態に動揺した。
模地も勿論だが自分より他の二人の方が優秀なはず、彼女のその考えは甘かったのだ。
彼らを大きく上回るステータスを知った途端頭を抱える。
「あ、あのー……? 南野さん? もうそろそろスキルの測定へ移りたいのですが……?」
その様子を見たコルトンは急かすように声をかける。
そう、ステータスの次はスキルの確認だ。
「えっ? そ、そういえばあたしまだスキル測ってなかったっけ!? ご、ごめん、すぐやりますっ!」
ハッと我に帰り慌てて南野はその言葉に頷く。
彼女が思考中にコルトンがウィンドウの仕様を変更し終え、いつでも確認可能な状態だった。
そして、今度はスキルの確認の為、再び水晶玉へ手をかざす。
「ま、まさか南野さんがこんな強力なスキルを持たれていたとは……」
水晶玉に手を触れた結果、表示された南野のスキルは一つ。
早速彼女は詳細を確認しコルトンへ知らせる。
すると、またもや彼は呆然とした表情となった。顎に手を当て興味深そうに南野のスキルの説明文に目を通す。
「"気配察知"かぁ……。なんて便利なスキルなんだろう!」
一方南野は自分が持つと判明したスキルの利便性に感心していた。
スキル名は"気配察知"。また使用効果は、以前召喚された北本のものと同一の効果があるようだ。
「人並外れたステータスだけでなく、戦闘において非常に優秀なスキルを持っている……」
「実に素晴らしいです!! 南野さん、あなたは是非勇者になって勇者としての使命を果たしていただきたいっ!」
このスキルの性能を思案していたコルトンが南野を褒め称える。
勇者を全うするに相応しい逸材だ、と彼は他の三人を差し置き高く称賛した。
「えぇ? そ、そうかなあ……?」
「いやいや! あなたなら近い将来、必ずや魔王を倒すことができるハズです!!」
褒められた南野は少し照れ臭そうだ。
コルトンは続ける。彼女ほどの戦闘能力ならば魔王は打倒できると断言した。
「うーん、確かにそうだろうけど……? あ! でもコルトンさん! 勇者はあたし一人だけじゃないよ?」
「山田君とか神崎ちゃんとか……あと潮君! 四人で魔王を倒すんだよ!」
南野はその言葉に納得するも、模地たち他三人も勇者として数えようと忠言する。
自分がとても強いのは理解しているが、彼らと揃って戦うからこそ意味がある、と。
「み、南野……! お前、オレらよりもめちゃくちゃ強いだろうに、オレたちを勇者としてみてくれるってのかっ!?」
「当たり前だよ! あたしたち友達じゃん!」
山田含む三人が一斉に南野に顔を向けて感嘆の表情を浮かべる。
そのうち、山田が彼女へ問いを投げかけると、彼女は満面の笑みを浮かべて答えた。
「うう……、舞衣ちゃん……僕みたいな雑魚の事も気遣ってくれるなんて……。ううっ………」
自分ら全員で試練を乗り越えよう、南野のそんな気持ちが含まれた言葉を受け模地は涙ぐむ。
自らを弱いと自虐しつつ、大事な仲間として扱ってくれる彼女の優しさに胸を打たれた。
「う、潮君……、そんな泣かなくても………」
彼の感涙に少し困惑しながら南野は彼を宥める。
そんな状況の中、コルトンが彼らの間に入ってきた。
「………皆さん、お話し中に失礼しますが、そろそろ時間が差し迫ってきました。これからあなた方にはこの"バーディア帝国"の国王様に会っていただきます。準備はよろしいですか?」
コルトンが語るのは国王への謁見の話。召喚が成功したとなれば、その報告も兼ねて勇者を連れて行く必要がある。
彼は四人へ呼びかけた。
「え? これから王様に会うんですか? あたしたちって……?」
「マジかよ……って、あ! おい今"バーディア帝国"とか言ったな? なるほどお〜、ここはそういう名前の国なんだな!」
「ええ、この場を出発して数十分ほど歩くと"オルブレス城"に到着しますので、そこで一度皆さんは帝王様に謁見して頂きたいのです」
しかし、まさか一国の主に会いに行くとは思わなかった、といった感じに南野は呆然とする。
他の面々もまた一様に驚愕と緊張を含んだ顔となる。
山田の言葉が示す通り四人共召喚地の国名を知って、俄然その度合いは高まっていく。
「え、謁見……! 王様に……っ、大丈夫かなぁ、凄く緊張してきた…….…」
「国王って……もし私たちが無礼な態度を取っちゃったら、い、一体どうなってしまうのかしら……?」
模地と神崎は互いに不安と懸念を抱いている。
当然だが、彼らは王などという高い身分の人間に会った事は一度もない。細かい礼節なんてのは分かるはずがない。
「いいえ、心配は無用です! 謁見の前に私が皆さんに正しいやり方を教えますので……」
だが、二人の心配事に気付いたコルトンが助言する。
礼儀作法や立ち振る舞いは事前に彼が教えてくれるらしく、今の四人の不安を払拭させる。
「さあ、そろそろ行きましょうか! 王都"メサイン"の中央部、"オルブレス城"までしっかりと私についてきて下さい!」
そうして全員を納得させるとコルトンは、早速といった勢いで四人の前へ出て出入り口へ歩を進めて行く。
まず目指すはこの帝国の王都"メサイン"だ。
山田を先頭に南野達はコルトンの後ろを追従するのだった。
◇ ◇ ◇
それから数十分は経過しただろうか。
「こ、これがオルブレス城……、すっごい大きいお城だなあ……」
「こ、こんなデッケェ城に王がいるってのか……?」
四人は遂に王都"メサイン"へ到着。街中を進むこと暫し、彼らの目の前に巨大な建物が聳え立つ。
そう、帝王の住むとされる"オルブレス城"だ。
その巨大な外観に山田と南野は少し圧倒されている。
「そうです。この"オルブレス城"の2階にある玉座の間にて、皆さんが来るのを心待ちにして居られるでしょう」
先頭より会話を耳にしたコルトンが、山田の疑問に答える。
どうやらあの城の2階の玉座の間にて、帝王とやらは君臨しているようだ。
「へえ……、じゃあ早く玉座の間まで行かないと大変ね」
彼の言葉を聞き、神崎が納得し頷く。
言うと同時に神崎の歩行ペースが早まる。
「うう……、やっぱり緊張が収まらない……!」
その時、模地はとても緊張していた。
身体を小刻みに震わせ不安で一杯の表情となり、弱々しい声色になっている。
先の城の大きさを見て余計気圧された形だ。
「潮君大丈夫だよ! 何とかなるって!」
極度の緊張状態となった模地を落ち着かせようと後ろの南野が和やかな口調で元気付ける。
「舞衣ちゃん……、よ、よし! 頑張ってやるぞお!!」
これが功を奏し、模地は勇気を貰い奮い立つ。
言い聞かせるように意気込む。
「さて、心の準備はよろしいですか? ………入りますよ!」
そして、コルトンは城の門の前に立ち後方の皆へ確認を取る。
左右の門番へ目配せし通行を了承させると、程なく門が開き四人を引き連れ城内に足を踏み入れる。
「ひ、広いなこの城……、まさか2階に行くだけでも30分くらいかかるなんてよ……」
城の中を進み、五人は城2階、玉座の間とされる部屋の前にまで到達。
オルブレス城の内部の構造はとても豪華絢爛で、煌びやかな装飾が多数施された洋風の造り、城と呼ぶに相応しき内装に山田が思わず息を呑む。まあ、見た目だけでなく面積も広大だったようだが。
「ゲームとかで出てくるお城ってこんな感じなのかな?」
山田に次いで、模地も城の装飾等に目を惹かれる。
そして、彼は日本にある王道RPGのようなゲームに出てくる城はこうした飾りを取り入れているのか、と感想を口にした。
「まさに、ザ・ファンタジーのお城! ……って感じだね!」
さらに南野も二人の言葉に協調し、思ったままの一言を残す。
「でも、この城……なんか雰囲気が変な気がするわ。ちょっとやけに静かだし、兵士とかメイドとかどことなく表情が暗k……、」
しかし、神崎だけは三人とは異なる部分が気になっていた。
彼女は先程から自分らの周辺で城内を警備している兵士や、辺りの清掃をしているメイドたちの顔をチラッと見たようだが、いずれの者も顔色に深く影を落とし、あまり気力を感じられなかった。
これらを訝しみ神崎が疑問を提起するも、その言葉を言い終わる前に……。
「さあさあっ! いよいよ玉座の間ですよ皆さん! マナーについてはまず王の御前まで進んだ後、"良い"と言われるまで片膝を立てて顔を床に向けて下さい。それだけ守れば大丈夫です!」
コルトンがそれを遮るような形で彼女の台詞に割り込み謁見を始める告知をする。
皆へ簡単に礼儀作法等を教えると、未解決かつ不可解な点を残しつつ、コルトンを先頭に四人は帝王の居る玉座の間へ入る事になった。
玉座の間の中へ入った五人は、玉座から少し離れたところで歩みを止め、それぞれ一列に並び全員とも片膝を立てて顔を床へ向ける。
彼らの前に頬杖をついて座る男こそ、バーディア帝国国王である"ガリオス"その人である。
玉座の間には彼を始め、約10名の兵士と数名のメイドが玉座両脇で綺麗に整列していた。
さらにガリオスの真後ろには、彼と同じ王族なのだろうか、豪華な飾りの付いた服に身を包んだ女性が五名静かに佇んでいる。
「………良いぞ、面を上げよ」
荘厳とした室内、暫し流れる沈黙を破りガリオスが許可を出す。
自身の前で足を曲げ首を垂れていた五人へ顔を上げるよう促した。
「私は、"ガリオス・バン・ラグリオン"だ……。よくぞ召喚に応じ勇者となる事を決意してくれた………。礼を言うぞ、はっはっはっは!!」
彼らと話すなりガリオスは一笑する。
彼が喜ぶ理由、それは自分がコルトンへ命じた勇者召喚が一度の失敗を経て再び成功したこと……それもあるが、何より今回は反逆せず素直に指示に従いここまで来た事も主な要因だった。
勇者として役目を果たしてくれそうな人材を呼び寄せられた事への感謝の意を伝え、大きな声で笑った。




