第56話「勇者候補の役目」
「!! "事情"……そういやァお前確かオレらをこっちから呼び出した、とか言ってなかったか!? 一体どういう意味だよオイ!!」
コルトンの言葉を聞いた山田は一拍置いてから目を見開き驚く。
その理由は彼が少し前に話した内容。あの時あたかも自分らが呼び出したかのような言い方をしていたからだ。
これについて、山田は声を荒げ詳細な説明を要求する。
「!! ……そうだわ! あなたたちが私たちを連れ去ったりしたんでしょ!?」
彼に続き、神崎もコルトンを糾弾する。
もしや自分達四人をここへ攫ったのではないのかと厳しく追及した。
「………はい、"ある意味"その通りでしょうね」
「この場ではっきりと言わせていただきますが……、神崎さん、山田さん、模地さん、南野さん………。皆さんはこの"アルメシア"にいずれ復活する"魔王"を倒すべく、異界から"召喚"された"勇者候補"なのです!」
山田と神崎の二人から責められたコルトン。
すると彼は一瞬、どこか煩わしげな顔になるとあっさりと自分達のした行動の非を認める。
そして、彼等をどうしてこの場に呼び寄せたのか……真剣な表情で四人に説明した。
「は!? "魔王"だって!? そんな奴がいんのか!?」
「それに……、今 私たちを異界から"召喚"したとか言ってたわよ……? 俄には信じ難いわね………」
この世界を脅かす存在、"魔王"。
コルトンの話に出るや否や山田が真っ先に驚愕する。
彼だけでなく他の三人も一様に衝撃を受けていた。
だがこれも当然の反応か。何故なら彼らはこれまで現代日本で生活していたのだから。信じられないものを聞いたといっても過言ではない。
一同驚きに包まれる中で、神崎は動揺を見せる。
「ええ、……気持ちはわかりますが、あなた方を召喚したのは事実です。召喚士であるこの私、そしてここに居る者たち計16人であなた方を別の世界からこの世界へと、"勇者召喚"という魔法を用いて召喚したのです」
「そ、そうなのね……。じゃあ魔王とかいうのを倒すまで私たち帰れないの……?」
コルトンは頷くと、彼女に納得してもらえるように説明した。
信じざるを得ない、諦めた様子で話を聞いた神崎が声色を落とし鬱屈とした表情をしながら再び彼へ質問を投げる。
「あ、いえ……確かにそうなんですが………」
先程までの強気な態度とは打って変わり、弱腰な姿勢となった彼女を前にコルトンは言葉を濁して答える。
彼の言葉は"否定"ではなく"肯定"だった。
「う、嘘でしょ……、今日は家に帰ってからやる事がたくさんあったのに……」
コルトンから返ってきた言葉に神崎はショックを受け、眉をひそめて俯き弱々しく呟く。
「そ、そんな……、もう家に帰れないなんて嫌だよ!!」
「おっ、おい模地!? やめとけって!」
それは模地も同じだ。だが彼は彼女以上に現実が受け止められず、酷く取り乱して魔法陣の上から離れようとした。
慌てて彼の行動を目の当たりにした山田が背後から腕を回して引き止める。
(……みんなやっぱり元の世界に帰りたがってるんだね)
(けど、別にそんなに慌てなくても良くないかな。だってこの世界には、日本に居るよりもっと楽しい事がいっぱいありそうな気がするから!)
落ち込む二人を見て南野は一人思案する。目を閉じて今自分が出来る最善の行動は何かを考えた。
そうして彼女が思いついたのは……
「まあまあ、皆! 大丈夫だって!!」
三人を落ち着かせる事だった。
溌剌な表情をしながら南野は他の三人の方へ向いて声をかけた。
「「!! ………南野?」」
「ま、舞衣ちゃん……?」
下手を打てば元の世界には二度と帰れないかもしれない状況下での楽観的思考だが、悪く言えば能天気、良く言えば常にいつも通りのテンションでいられる彼女に、三人は思わず彼女の方へ顔を向けた。
特に模地は彼女とは仲が良いのか、ピタリと逃亡を止めて下の名前で呼んだ。
「その魔王ってヤツを倒したら日本に帰れるんだから! 一旦落ち着こうよ?」
南野は屈託のない笑顔を形作って皆を諌めようと試みる。
この世界で魔王を倒しさえすれば、全員無事に帰られるので不安になる事は無いと説いた。
「だけど! それまでどのくらいの時間がかかるっていうのよ!?」
しかし魔王を倒せば帰れると言っても、すぐに倒しに行くとは限らない。魔王を倒すまでどれだけの時間を費やすのか、それが不透明な以上期待などできない。
神崎は食い気味に反論する。
「そ、そうだぜ! ここに来てからもう"10分"くらいは経ってる! もし時間の流れがあっちと同じなら、とっくに放課が終わって授業が始まってる頃だぞ!」
「ああぅ……、終わったぁ……先生に怒られちゃうよ僕達………」
彼女に続き山田も所要時間の問題を指摘。
自分らとは対照的な思考回路を持つ南野に、一番肝心なところをどうするのかを言い放つ。
三人の話し合いの間に立つ模地に至っては、遅刻が原因で教師に叱責されると怯え出している。
「…………、ん? 時間……?」
二人の反論を聞き、南野はポカンとした表情になる。
まさか対抗策でもあるのか、三人がそう思った途端、たちまち彼女は目を丸くした。
そして、その場にいる全員の周囲を一瞬の静寂が包みーー
「あっ……そ、それはっ、…………ヤ、ヤバーーーイ! ………そういえばソレっ! 考えてなかったああぁぁぁーーー!!」
直後、南野は頭に手を当て、しまった!と大きな声で叫んだ。
そう、彼女は時間の事など全く頭になかったのだ。
彼女、南野舞衣は陽気で楽観的な性格で周囲を和ませる存在であったのだが、それと同時に変なところで抜けている癖がある。
今回のアルメシアへの召喚、見知らぬ場所へいきなり呼び出された事に対する不満や怒り、危機感よりも、寧ろ未知の場所へ来た事による好奇心と冒険心が先走ってしまった結果、"こうなった"。
「結局駄目じゃねぇかぁーっ!?」
その体たらくに山田は呆れた様子で突っ込みを入れる。
「ぜ、全然時間なんて気にしてなかった! あぁやばいやばい!! どうしようみんな!!」
「本末転倒ね、話にならないじゃないの……」
「夢なら覚めてほしい……」
南野は分かり易く焦り始める。
その慌てように神崎は溜息をこぼし落胆を示す。
遠巻きから彼らのやり取りを見ていた模地も、彼女の体たらくを前に絶望に染まった顔をして小さな声で呟いた。
「……あの、皆さんもしかして……、召喚される前の世界の時間の経過について気にされていますか?」
そんな状況を先程から黙って見ていたコルトンが彼らへ声をかける。
「何? そうだけど……今更どうやっても無駄なのよ………」
四人を代表して神崎が返事するも、その表情は暗雲立ち込めるもので、彼女以外の三人もまた同様であった。
「ああ! やっぱり! ……そんなに心配する必要はありませんよ!!」
「勇者召喚の儀式によって召喚された方々が以前までいた世界は、こちら側の世界と比べて物凄く時間が経つ速さが"遅くなっている"と聞いておりますので!!」
返事を受けてコルトンは胸をドン!と叩き笑みを浮かべる。
四人の不安を払拭するのが狙いなのか、彼らにとって有益な情報を明かした。
その内容とは、向こうの世界とこの世界とでは時間の流れが異なるというものだった。
「え、そ、それって本当なのですか……?」
彼の説明に模地が信じられないといった顔で尋ねる。
いきなりこんな事を言われても、根拠も証拠もないので無理もないが。
「いえ、それが本当かどうかはよくわかりません」
「ですが……、少し前にこの場所で異空間転移の儀式を行いその後帰還してきた召喚士によれば、体感時間がかなり遅いと仰られていたので、おそらくはあなた方の世界も召喚から今まででまだ"一分"たりとも時間は経過していないはずでしょう。あくまでも推測ではありますが」
コルトンは自らが語った話の詳細を述べる。
絶対にそう言える訳ではないが、誤りとも言い切れないとした。
嘘か誠か、ただの可能性の話に過ぎず、しかしもしかすれば真実かもしれないという希望が四人の中に生まれる。
「へ、へぇ〜! そうなんだ、はは……」
(……なんとか無事に問題解決したみたいだけど、みんなの前で恥ずかしい失敗しちゃったなぁー……)
この説明を聞いて、落ち着きを取り戻した南野がやや声を詰まらせてはいるが安堵した様子で笑う。
また心の中で、彼の話により現在起こっていた現実世界との時差の問題が一先ず終結した事にホッと胸を撫で下ろす。
それと同時に自分が他の三人を宥めようとして失敗した際の事を思い返し羞恥している。
「そうかっ! ハッハッハー!! なら一安心だぜ!」
「そうなのね! はぁ、余計な心配して損したわ……」
「う、嘘じゃないよね……? という事は遅刻にならずに済むんだ僕達……!」
コルトンの諫言もあって、四人の不安は完全に取り払われる。
模地、山田、神崎が其々胸を撫で下ろし、皆いつも通りの様子に戻っていくのだった。




