第53話「召喚士の策略」
時は北本、東洋、伊村が召喚されたその日の夜の事だった。
「………そうか。"召喚"は成功したか」
「はい、何度か試したところ……、夕暮れ前にはグリシア大陸北端の我がバーディア帝国王都"メサイン"近郊の遺跡にて別世界から勇者候補となりうる方々を召喚する事ができました」
ここは異世界アルメシアの東部に広がるグリシア大陸。
その地に領土を持つバーディア帝国。
帝国の王都 "メサイン" の中央部にて聳えたつ、"帝王"が住まう居城・オルブレス城の玉座の間で天窓に映る夜空を王座から静かに見上げている大柄な人物が短く呟いた。
まるで二本の角のように斜め上に鋭く伸びたサークレットの部分が特徴的な蒼の王冠を被り、黒と紫の柄が入った豪華で鮮やかなコートを着用している、まさに威厳ある出立ちだ。
そんな彼の前には赤紫のローブを羽織った青年が片膝を立てた姿勢で跪き謁見していた。
この青年は、遡る事数時間ほど前現実世界より北本らを召喚し、彼らへこの世界における基本情報やステータス、スキル等を教え、不覚にもその後全員に反逆された召喚師"コルトン"であった。
「ふっふっふっ……、遂にこの私が……"ガリオス・バン・ラグリオン"がこの世で最高の権力を手にする時が来たのだ……!!」
コルトンの報告を耳にして嬉々とした表情で喜びに打ち震える男、彼の名は"ガリオス"。
この国の帝王の座に就く彼の野心は世界最高の権力、つまりアルメシア全体における高い権力を我が物にする事。
「よくやったなコルトン! では早速だが、そいつらをここまで連れて来い!!」
「い、いえ帝王様、あの……大変申し上げ難いのですがーーー」
もはや狂気じみた笑みを浮かべるガリオスは、はやる気持ちが抑えきれない様子のままコルトンへ命じる。
しかし、彼の犯した失態を帝王ガリオスはまだ知らない。
細々とコルトンは自身の功罪を明かす。
「なに!? 転移者が我の指示に逆らっただと!!?」
事の経緯を聞かされたガリオスは目を見開き驚愕する。
彼は途端に眉間に皺を寄せ不快感を示す。
「はい、残念ながら……。その三人からはキッパリと勇者になるのを断られてしまいまして………」
「こちら側の情報漏洩の防止の為保険として用意した、"S級モンスターの"フォレストベアー"にかけた"透明化の魔法"及び"使役の魔法"を解除し襲わせ………我々の脅威となる前に、そして何より民間の方に目撃される前に始末しておきました」
コルトンは申し訳なさそうに顔を曇らせながら顛末を詳細に知らせる。
「な……なんという事だ! せっかく召喚が成功したというのに! コルトン、貴様の召喚はやはりまだ"不完全"だったようだな!!」
「私の命令に従わぬ人間を呼び寄せてしまうとは! ……こうなったらもう仕方あるまい。召喚の儀は他の者にやらせるとしよう!」
彼の手で召喚された北本ら三人だが、一斉に反逆したことにより口封じとして始末を行わざるを得なくなった。
だが、この不手際を知ったガリオスは顔を右手で覆い怒髪天を衝く。
そして力強く玉座から立ち上がると、次回以降の召喚に彼を抜擢しない方針を口にした。
「なっ!? ………お、お待ち下さい!! チャ、チャンスを下さい!! 次こそはっ! 次こそは命令に実直な勇者候補を召喚してみせますっ!!」
「チャンスをくれだと……? その顔……自信があるんだろうな? よい、言ってみろ」
慌ててコルトンが静止する。今度こそ、今度こそはと必死の形相で弁明した。
これが功を奏したのか、表情はほぼ変わらないながらもガリオスは彼の顔を一瞥すると、何か策があるのかと思いその意見を聞きに入る。
「は、はい! 儀式を私と……他、複数人の召喚士で行うのです!!」
「……召喚魔法を複数人で? それで上手くいくというのか?」
「ま、まだ一度も試した事はありませんが……、私と同等かそれ以上のMP量の召喚士が二人以上居れば勇者候補の人間性も含め諸々の成功確率は上がるでしょう!!」
コルトンは一旦呼吸を整えた後具体的に話す。
彼が言うに自分一人ではなく同じ召喚士二人以上が召喚の儀式を行う事で、魔法成功確率だけでなく過度な疲弊や、それが原因で起きうる自分らに従順といえぬ輩が呼ばれるというパターンが減少。
これにより不必要にかかっていた負担が軽減されるだろうと推測した。
「…………。よし、いいだろう。引き続きお前に任せよう。だが!! それでもしまた失敗した場合はどうなるか………承知しているだろうな?」
これまでの説明を黙って聞いていたガリオスは少し沈黙してから口に開く。
召喚の儀は彼に引き続き任せることにした。
ただし、二度目の失敗を犯した際は相応の仕置きを加えるという忠告付きではあるが。
「っ……! はい………覚悟の上です! 必ず成功させてみせます!!」
その言葉に冷や汗を浮かべつつも、断固とした表情で意思表示するコルトン。
「………うむ。時間は、残り一日以内だ。それ以上は過ぎるなよ?」
彼の決意を前にガリオスは頷き、少しの時間の猶予を与え再び念を押す。
「……! わかりました! 時間を頂き光栄です! 一日あれば十分です!!」
コルトンはドンと胸を叩き頭を下げ、真剣な表情で返答する。
こうして彼はガリオスの圧を感じながらも、与えられた機会を無駄にしない為速やかに行動を始めるのであった。




