第52話「伊村の修行」
「……んじゃ! すぐに修行を始めるぞっ!!」
拳を手のひらに押し当て、グリードが気合十分といった顔で口にする。
「えっ!? も、もう始めるんですかっ!? ま、まだ心の準備が……!?」
やる気満々で修行開始を告げた彼を見て伊村は慌てた。
まさかいきなり鍛錬するとは思ってなかったようで、少しだけでも猶予を得ようと試みる。
「当たり前だろ! ……と言ってもまず先に、お前の長所と短所を見極める必要があるな!」
「よし! ……取り敢えず今のお前は何が一番得意で、何が苦手なんだ?」
だが修行を始める前に一先ず、伊村の得意不得意について確認を行う事になった。
「と、得意な事……ですか? うーん………」
(そう言われてもなぁ……、おれってアルメシアに来てから何も良いと思ったとこなんて無いんだけど……)
(ステータスもSPDとATKがちょっと高めってだけだしなあ……。まぁとにかく、言ってみるか………)
伊村は腕を組みしばらく無言で考える。
この世界に来てからというもの、これといって強みになるような要素など一切ない。
寧ろ他より大幅に劣っている場面が目立つ。そんな自分など非力にも程があった。
……思案した末、ステータスの中で一番高かった二つの項目を言ってみるのだった。
「……ち、長所と言えるのかどうか微妙なんですが……、SPDとATKのステータスが高かった気がします!」
恐る恐る、伊村は数少ない長所と言える点を伝える。
「……おおそうか! SPDとATKが得意なんだなっ!?」
それを聞いたグリードは笑みを浮かべ再び確認を取る。
「はい……、まあ……普通の人ほどでは無いのですが……」
あまり自信こそないものの、欠点しかないとあちらに思われぬよう長所となりうるところを告げた。
「へへっ! それでもお前には得意な事が二つもあるんだからそう気にすんなっ!!」
その後ろ向きな言葉をグリードは笑い飛ばし、気に病むことは無いと元気付ける。
「そうですかね? そんな事言ってもらえるなんて嬉しいんですが、………! そうか! その得意な部分を主に鍛える事で手っ取り早く総合力を高めるというんですね!?」
励ましの言葉を貰った伊村は直後今回の修行の要点に気付く。
「そうだぜっ! そうやって初心の冒険者たちは強くなってったんだからなっ!」
彼の言う通りだとグリードが肯定。
苦手部分を含めて全体的に鍛えるのではなく、長所を重点的に伸ばす修行をしていくことが大事なのだと述べた。
「そうなんですか! ……あれっ? なんかおれならやれそうな気がしてきました!」
彼の話を聞いた伊村は段々と自信が付いてきたのか、自分ならできそうだとやる気を増している。
「よーしっ! その意気だぞ伊村っ! じゃあ早速ここで修行を始めるぜっ!!」
意気込む伊村を称賛するとグリードは拳を天に突き上げ、修行の開始を声高に宣言した。
「うおおっ! やってやりますよーっ!!」
伊村もそれに同調し意気揚々と声を上げる。
かくして伊村の修行が始まる………
◇ ◇ ◇
「ダメだぁーっ! もう無理疲れましたっ!!!」
……しかし、訓練広場で修行を開始してから僅か10分足らずで早くも彼は根を上げた。
「ATKを上げる修行がこれって……、やっぱりきついですよぉ!!」
どうやら今行っているのはATKを高める訓練。
ギルド側が用意してくれたという緑色の豚の魔物・オークを模した人形を的にひたすら殴りつけていたのだが……
あまり継続せず弱音をはいた訳だ。
「諦めるな! 大丈夫だ、お前ならまだやれるっ! きっと本気で打ち込めば絶対にATKを上げる事ができる! さあどんどん打ち込めー!!」
この言葉を無論グリードは近くで聞いていた。
真剣な表情で伊村を叱咤激励すると、修行の再開を促す。
◇ ◇ ◇
「はぁ……! はぁ……! とっ、遠い……っ!!」
更にそれから時間は経ち、二人はギルドより裏へ行った先にある遊歩道で、今度はSPDを高める訓練としてグリードを先頭にひたすら走り続けていた。
「まだ行けるかっ!? ……伊村っ!!」
伊村の前を走って行くグリードが、後方を走る彼へ問いかける。
「……はぁっ! ……はぁっ! いえ……あのっ……! まっ……もう長い時間走ってますよね!? お願いだから休ませて下さいよ!!」
だが伊村は明らかに息を切らしている。
苦しそうな顔で休憩を乞う。
「な……い、伊村……お前 走り出してからまだ"2分"しか経ってないぞっ……?」
しかしグリードはそれを聞いた瞬間驚愕。
その場に立ち止まると、走り出してから経過した時間を口にした。
「え……? ま、まだそれくらいしか時間経ってないんですか……? め、滅茶苦茶疲れたんですがっ………。おれってそんなに体力低かったっけ……?」
なんと時間はたったの2分しか経過していなかった。
想定を下回る自身の体力の無さに動揺しながら胸を押さえる。
「い、意外な事が分かったが………よく聞け伊村! 自分の短所、つまり苦手な所を改善させて行くのも修行だっ!」
「どうやらお前は体力とかそういう部分が不得意そうだから、今後はその辺りも徹底的に鍛えていくぜっ!!」
この様子にグリードは意表を突かれたような顔をする。
とはいえ、修行は決して苦手分野を伸ばさないわけではないと彼に言い聞かせて再び走り出した。
先程よりも速いスピードで。
「そうか……おれの苦手なところも直す必要が………って、ち、ちょっと待ってくださいっ! あの人また置いていくなんてっ! てか早いっ! お……追いつけなーいっ!!」
伊村は先の体たらくで痛感したのか、納得したような顔で彼の言葉を覚えておくことにした。
しかしもうグリードは何メートルも先を行っている。
慌てて伊村も彼に追いつけるように必死になって遊歩道を駆け出して行った。
こうして、グリードの下での修行が始まった。
果たして伊村は今後、どれほどの強さを手にする事ができるのだろうか………。




