第46話「グリード登場」
(涼しいなここは。海岸に近いからか……)
地図を頼りにギルドの入口までやって来た伊村。
海岸側からこちらに向かって吹いてくる潮風にあたり、爽やかそうな顔をしながら考える。
(………はっ!? き、気を引き締めろおれ! これから冒険者になるんだぞっ!! 自信だっ、自信を持つことが大事だってフレイアさんに言われたじゃないか! う………うおおおぉぉぉっ!!)
ギギィィーッ………
我に返った彼は瞬時に頭を切り替た。
フレイアに授けられた言葉を思い出し自分を奮い立たせると、決意を胸に冒険者ギルドの大きな扉をゆっくりと開けギルドへ入る。
(……うわっ、おれが入った途端に他の人の視線がこっちに……。な、なんて恥ずかしいんだ……)
伊村が入るとその瞬間、ギルド内に居る冒険者ほぼ全員が彼に視線を向け皆物珍しそうな表情を見せる。
(……、と、取り敢えず"冒険者登録"だっ! 異世界モノといったらまずそれだよね!?)
冒険者の面々の視線に気付き小っ恥ずかしさを感じた彼は、慌てて冒険者になる為の手続きをしてもらうべく受付へ行く。
以前熱中していた異世界系の作品に、"冒険者登録"なる概念があった事を思い返しながら。
だが……。
(な……、ま、まさかアレ、並んでるのか………? 全員 "冒険者登録" でっ?)
受付員の女性の前には既に多くの冒険者たちが列を成して順番待ちをしていた。
早いとこ登録を済ませちゃおう!、等と考えていた伊村がその光景を見ると途端に面食らい呆然とする。
「……では次の方どうぞー!」
しぶしぶ伊村はカウンター前の列に並び、番になるまで待つ。
15人は受付の用を済ませ去って行っただろう、遂に伊村の番が回ってきた。
(やっとか……、もう長すぎておれの後ろに人がたくさん並んでるんだけど!!)
気付けば伊村の後方には大勢の冒険者達が列を成し、今か今かと自分の番を待ち続けている。
心の中で愚痴をこぼしつつ、受付の職員の前に移動した。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あの……えっと、ぼ、……冒険者登録、です!」
受付職員へ用を問われた伊村は、多少まごつきながらも要件を伝える。
「なるほど、登録ですね! かしこまりました!」
話を聞いた受付嬢は一礼すると、カウンターの奥へ消える。
本当に大丈夫かな、と少し不安はあるが大人しく伊村は彼女が戻って来るのを待つのだった。
◇ ◇ ◇
「………はい! これで冒険者登録は完了しました!」
また時間は流れ、幾つかの書物を手に再び姿を表した受付嬢から一枚の書類を渡される。
これは冒険者となる際に必要なもので、ステータスやスキルといった個人情報を書かなければそもそも登録もできない。
律儀に伊村は項目全てを書き終え提出した。
(ふぅー!! やっと終わりか。なんかあの紙………項目のところが全部日本語で書かれてたから、そのまま日本語でやっちゃったけど……大丈夫なんだろうか?)
紙を提出した伊村は、職員が目を通す間少し不安交じりに考えた。
「…………、え!? "47"? ……ええぇっ!?」
するとギルド職員が素っ頓狂な声を上げる。
突然どうしたのか、彼女は驚愕の表情で紙を凝視していた。
(ど、どうしたんだ一体? 何かマズい事でもあったのかな……?)
その様子を見て伊村は訝しむ。
「あ、あり得ない! ……い、伊村、さん? あなた………ステータス項目の数値……、間違えてませんか?」
彼の視線に気付いた受付嬢は、紙に書かれた数値を指差して正確性を尋ねた。
「あ、あの………全て本当の数字を書いただけなんですが……?」
伊村はありのまま、包み隠さず事実を記したと答える。
「そ、そうですか……。いえ………なんと言いますか……、普通の方ならこんなステータスには決してならない筈なのですが………」
「と……、ともかく! 総合力の数値が "47" など、聞いた事もないくらいに低すぎますよ!!」
しかし受付嬢は納得していない様子。
その理由は伊村のステータスや総合力が通常と比べあまりにも低いからだ。
彼女が動揺を示していたのは主にそれが理由だ。
「えっ、ちょっ、声がデカいですってっ!」
ただ彼女はこの事を周りにも聞こえるような大きな声で言っていた。
慌てて伊村が注意するが……、もう既に遅かった。
「……おい、聞いたか? あいつ、総合力がたったの "47" だとよ」
「はははっ! ………雑魚すぎるな!」
彼の後ろに並ぶ二人の男が、総合力を聞いた途端こぞって罵倒し始めた。
(くそっ! 面倒くさいな!)
「……す、すみません。だ、大丈夫でしょうか?」
もっと早く静止していれば、と決断の遅さに後悔する伊村。
そんな状況に困惑する受付、彼に頭を下げて気遣う。
「……おい、受付! さっき言ってたこいつの総合力って本当かぁ?」
しかしそこに、伊村を馬鹿にした二人が声をかけ問いを投げる。
「………え? そ、それは……あの……?」
何の遠慮もなく他者の総合力について聞かれたせいか、受付嬢は戸惑いの表情を見せ返事を遅らせている。
「ちょ、ちょっと!? ……さっきからなんなんですかあなた達はっ!?」
無論、伊村はそれを黙って見てはいない。
男らに言い寄られ口外してしまいそうになっている状況。
咄嗟に二人のいる方へ向き話しかけることで阻む。
「お前の総合力だよ、……… "47" しか無いらしいな? ハッキリ言うが……低くね? オレでも総合力は "250" くらいはあるんだぜ?」
すると男の片割れは彼の総合力に言及し、自身の総合力は "250" 程であるという事を自慢げに語った。
他人を下に見る態度を一切変えもせず。
「そんなひっくいステータスしか無いならお前、冒険者なんて向いてねぇだろ? はっはっはっはっ!」
更にもう一人も同様に伊村を罵倒。
嘲笑を上げて神経を逆撫でする発言をした。
「………おお? そうか? ……俺はそいつが全くの役立たずとは思わねぇけどなぁ?」
「あぁ? ………!?」
「! あ、あなたは!?」
その時、二人組の横より若い男の声が聞こえた。
見るとそこに居たのは深緑色の髪に爽やかな顔をした青年。
緑を基調とした色合いの革鎧を装備したその青年の姿を目にした受付と男たち……否、それだけでなく他の冒険者達も何故か面食らったかのような表情を浮かべ思わず後退る。
「え、えっと………。お、おれに何か用ですか……?」
青年は伊村の前まで来てふーん、と呟く。
伊村がよく見てみれば青年は自分よりも10センチほど高い背丈で鎧の下に黄緑のカーディガンを着用し、腰に革の鞘に収めた剣を差していた。
「………まあな? ちょっとお前に興味が湧いたんだ」
伊村から用件を聞かれると、軽い口調で青年は答える。
「き、興味……? おれにですかっ!?」
「そうだぜ? さっきお前の総合力を受付が言ってたよな? "47" だそうだが……、合ってるよなっ?」
特に深くない理由に思わず伊村が聞き返せば、青年が口にしたのは総合力。
先程嬢より言われてしまった自らの総合力を聞いて興味が湧き、こうして話しかけてきたようである。
「………は、はい。そうですよ? って!? まさか……おれに興味が湧いたってのはっ!?」
問いを肯定した直後、彼の質問の真意に勘付いた伊村が一気に目を見開き尋ねた。
「ああ! 俺はお前のその総合力に興味が湧いたんだ! ……なんせ、聞いたこともねぇくらいに滅茶苦茶低ッくいからなっ!!」
案の定と言うべきか、青年は彼の総合力の低さに興味を持っていた。
しかも態々本人の前まで出向き数値を聞きに出る。
「やっぱりそうなんですか! あー全く! みんなしておれを馬鹿にしてくるなんてッ!! 最低ですよ、人として!!」
それは伊村の逆鱗に触れるには十分すぎた。
明らかな怒気を含んだ声で伊村は青年だけでなく、その場の冒険者ら全員に総合力が低いだけで皆が笑い者にしていると非難した。
「まあそうキレんなって? 悪かった悪かった、気ぃ悪くさせちまって……。あ、まだ名前を教えてなかったな。俺は" グリード "! ………" グリード・フルベース "だぜっ! よろしくなっ!!」
そんな伊村を青年が宥めると、思い出したかのような顔になり自身の名前を名乗った。
一応その時に謝罪も行った。
「…………。伊村綾太、ですッ!」
詫びはされたからか、未だ不満こそ残るものの一先ず伊村も名を明かす。
「伊村……か! おっ? その名前! ……転移者だなっ?」
彼の名前を聞き、頷くグリード。
だがその名前はアルメシアでは極めて珍しいものだ。
当然ながら彼はこの世界で生まれたのではないと気付き問うた。
「はい? ……あ、あぁ! そんな感じですけど?」
伊村は一瞬疑問を抱く。"転移者"とは何なのか。
聞いたことはあるが、どういったものだったか……
だがすぐに自分は召喚魔法により召喚された時点で"転移者"なるカテゴリーに入るという事を理解し質問に肯定する。
「おお、やっぱりそうだよな! 聞いたことねぇ名前だと思ってたぜっ!」
予想が当たったグリード、想像通りといった表情で口にした。
「て、転移者!? ……こんなヤツがっ!? とてもそうは見えねぇぞっ!」
「信じらんねぇ! コイツが転移者なら、俺らよりも総合力が高くなきゃおかしいだろ!?」
すると、彼の一言を聞いた男二人が一様に批判する。
グリードの姿を見て彼らは揃って硬直していたのだが、転移者だと知った途端に表情を変え信用などできないと言い放つ。
「そ、そんな言い方しなくても……。けど確かにそうか………おれは弱いし惨めで臆病な人間なんだk」
「おいおい! お前らそういう事を言うなよっ! 伊村だってこれから強くなるかもしれねぇんだぞっ!」
「え、えっ? グ、グリード、さん?」
伊村は彼らの発言に反論しようとするが、その途端一気に不安に駆られたのか自分自身を自虐し縮こまる。
と、その時グリードが二人の発言を咎める。
彼は伊村が力を付ければ良いだけだと今度は擁護に回った。
「………伊村、こんな連中に惑わされんじゃねぇぞ? お前は強くなれるっ! ……絶対になっ!」
再び伊村へ視線を向けたグリードは、何とも爽やかな笑顔で伊村を諭す。
「……で、でもおれはっ! あの人たちの言う通り冒険者に向いてないでしょう!? ………実際、総合力だって"50"すら届いてないんだし!!」
男達の言っていた発言を振り返り、伊村がネガティブな言葉を吐く。
説得力のないモヤモヤとした助言を聞いても、自分が今後強くなる自信など到底持てるはずがなかった。
「………そうか、わかったっ!!」
そんな台詞を聞いたグリードは、何かを決意したかのような顔で口にする。
果たして今度は何を言い出すんだ、かと思えば突然彼は急に伊村へ接近した。凄まじい速度の動作、その距離はほぼゼロ。
伊村の顔が彼の首元にぴったりくっ付く。
「………伊村! こうなったら仕方ねぇっ! お前を俺のパーティに入れてやる! ……それでお前が強くなれるって事を皆に証明してやろうぜっ!!」
次の瞬間ガッ!と右腕で伊村を抱え込むと、早足で冒険者ギルドの出入り口まで向かい始めた。
「……プハッ!? え、えっ? ちょっ、ちょっと待っ……!? ……力、強っ!?」
伊村がグリードに担ぎ込まれたのを理解した頃には、もうギルドの扉のすぐ近くまで移動していた。
彼はそんなグリードの握力の強さと大胆さに吃驚すると共に、離れようと足をばたつかせる。
「さあ来いっ! 俺の仲間たちのところへ連れてってやるぜっ!!」
しかしグリードの力は強く解放ならず。
そのままギルドの扉を開けると、猛スピードで外へと出る。
「グッ!? グリードさあーーーんっ!?」
彼の声はギルド内に虚しく残される。
結局、グリードは出入り口の扉を開けて外へ走り去って行った。




