第4話「伊村綾太」
「うおおーーッ!! 朝はもうとっくに過ぎたぞーーーッ!! 早く目を覚ませェー!!」
現在、東洋たちは自分たちが召喚された場所・フィブル遺跡にてブツブツと念仏のように独り言を発し続けている眼鏡をかけた青年を起こそうと躍起になっていた。
「……それにしてもこの方、全く起きる気配がありませんね。もうかれこれ十数刻は経っているのに……」
「確かにッ、コイツ、こんな状況でよく寝てられるなッ!」
三人は幾度となく眼鏡の青年に呼びかけていたが、一向に目覚める気配が無い。
「……はぁ、……仕方ねぇか」
ここで、北本が煩わしげな顔をして呟き溜息を吐く。
そして眼鏡の青年に近付き、胸ぐらを掴むと……、
「ふんっ!!」
バチンッ!!
「………ッ!?」
彼の頬を思いっきり叩き、掴んでいた手を離し距離を取った。
「………い、いったァァァァァァァァッ!!?」
ドサッと地面に落下した眼鏡の青年は漸く目を覚ますと、北本に叩かれた頬をさすりながら周囲の状況を確認する。
「お、おおッ! やっと目が覚めたか! お前!」
その様子を見ていた東洋が多少慌てながらも、目覚めるや否や近寄った。
「え……? ちょ、……ちょっと待って? …………あ、あなた達は誰、なんですか? てかここは一体どこなんです? そしておれの頬がな、なんか痛いんですけど……?」
青年は全く状況が掴めないのかキョロキョロと辺りを見渡した後、酷く動揺しながら自分の近くへ来た東洋に次々と抱いて当然と言える疑問をぶつける。
「フン、起きたか、無駄な時間を使っちまったな」
それに対し、呆れながら北本は自分が叩き起こした彼を見下ろし吐き捨てた。
「お前……、召喚されてから長い間眠っていたんだぞッ!!」
「は……!? 召喚!? 眠ってた!? 何故!? そ、それはどういうことなんですかぁ!?」
東洋から普段聞き慣れない単語を聞き、その情報を知った途端に驚愕に染まった彼は問い返す。
「その事につきましては……、私の口から説明させて頂きましょう」
「……! あ、あなたは?」
「ええ、私はコルトン・ランガーと申します。以後、よろしくお願いしますね」
東洋のそばにいたコルトンが物腰柔らかな態度で事の経緯を話す。
また、ついでとばかりに自分の名前も教えておいた。
◇ ◇ ◇
「え……、えええーーー!!? とうとうおれ異世界に来てしまったんですねぇっ!? コルトンさんっ!?」
「い、異世界? ……はい、あなたは私の召喚魔法によって、このアルメシアに勇者として召喚されました! こちらのお二方もそうです!」
コルトンが東洋と北本がいる方を見つつ、召喚魔法によって召喚した事実を伊村へ伝えた。
「……そうですか、おれは勇者としてこの世界に召喚された……そして修行した後、魔王とバトルすると?」
「ええ、よろしければこの私がアルメシアについて詳しい事をお教えしましょうか?」
「いや……、結構です! この"伊村綾太"、人に教えてもらうよりも自分で知りたい情報を探して手に入れる方が好きなんでね!! いや、それより早くスキルとステータスをっ!!」
眼鏡の青年はさりげなく自分の名前を口にすると、コルトンに言い迫るのだった。