第45話「フレイアとの別れ」
「はぁ……! はぁ……! ふぅーっ………つ、着きましたねっ! ここは……街ですか?」
「ああ、港町"リベイア "だ。" ロレカ王国 "西部に位置している」
闇に彩られた深い森を抜けた先には、多くの建物が立ち並ぶ。
海鳥の鳴き声に合わせ、どことなく潮の香りが伝わってくる。
二人が着いたのは海に面したリベイアという港町。
行き交う人々の足音に紛れ、心地よい波音が聞こえる場所に出た伊村は、深呼吸して外の空気を肺に取り入れる。
「そうなんですか、おれたちがいる国って、……そんな名前なんですね!」
「ああ、小さな国だが漁業や林業等は他国にも負けない程に発展しているんだ」
フレイアによると、この国は"ロレカ"と呼ばれるらしい。
海側から吹いてくる潮風を体に浴びながら、活気ある港町に納得の意を示す。
「へえ……確かにここは木とか多くて、しかもさっきから磯の香りがしてきてるし、それって海が近いからなんですね!」
伊村はエルフの森がある方向を一度見回し、今度は横を向きながら匂いを嗅いだ。
海があると思われる方向を見て道理で、といった感じに頷く。
「………さて、案内はここまでだ。私は森へ引き返そう。お前はこれから、この地図を頼りに "冒険者ギルド" へ行け」
この発言を聞いたフレイアは、少しだけしんみりとした表情になると話の内容を変える。
何を思ったのか、"冒険者ギルド" と書かれた地点までの道のりが記された地図を手渡すと、森の方へ踵を返して行く。
「えっ!? フ、フレイアさん、もう帰るんですか!? い、一緒に来て下さいよ!」
「そ、それにこの地図、"冒険者ギルド"って書かれてるじゃないですか!?」
突然のフレイアの言葉に驚愕を隠せない伊村。
渡された地図に書かれた"冒険者ギルド"という地点を凝視し、焦燥しながら言い寄る。
「そうだぞ? もう夜は明けたし、今はお前も万全の状態だ……。森にいるままでは意味がないだろう?」
「………まあ私も、そのギルドの場所まで案内したいところなんだが、森での調査もあるのでな……。あまり時間を割くのも良くないので、ここからはお前に任せる事にするよ」
だが彼女は伊村の様子を見ても、然程気に留めていない。
まるでお前ならば大丈夫だ。とでも言うかのように肩をポンと叩くと、再び歩み始める。
「ま、任せるって……で、でもおれそんな……。どうか行かないでください! こんな普通の人より弱いおれがたった一人で生きていくなんて……。正直言って………無理ですぅ!!」
しかし、伊村はそれでも納得がいかない。
今の彼を表すならまさに親離れのできない子供、恐らくは世界最弱のステータスを持つのもあってか、自立は不可能だの離れたくないだのと弱音を吐露する。
「何をぐちぐちと言っている? 昨日も言ったが、お前は物事をすぐに諦めすぎだ。心配するな………もっと自分の可能性を信じてみろ」
彼の発言に少し眉根を寄せフレイアはまた口を開く。
曝け出された駄目な所を的確に指摘して彼の背中を押す。
「………う、いや、あの……おれ別に、自分に自信が持てなくはないんですけど、でも………」
「こ、こんな弱い自分が、これから一人で本当にやっていけるのかと言われたら………っ、正直、不安なんですよ……」
だが伊村はまだ、後ろ向きな言葉を漏らす。
簡単に折れてしまいそうな弱い心を抱き、不安で一杯な顔でネガティブな言葉を口に出している。
「不安、か……。伊村、大丈夫だ。今は弱くても、必死に"努力"すればそのうち自分自身の本当の力に気付き、誰よりも強くなれる。そうなれば、お前も十分この世界で頑張れるさ」
すると、フレイアは腕を組んで少し考えるような仕草を取る。
そして、軽く微笑みながら、今後の彼の人生に対してアドバイスを行う。
「そ、そう……ですか、でも………、本当におれってこれから変われるんでしょうかね……」
その助言を聞いても尚、伊村は不安が拭いきれない。
言葉を詰まらせ、心配そうに彼女に尋ねる。
「まだ不安を感じるのか伊村? ………よし、じゃあこれだけは覚えていろ。いいな?」
そんな伊村に、フレイアがやれやれと肩を竦めた。
が、だからと言って放ってはおけない。
彼女は後で言う言葉を忘れぬよう促す。
「……どんなに辛い事や、苦しい事があっても、…………絶対に生きることを諦めるな」
強く且つ温かい眼差しを向けながら、今にも不安で押し潰されそうになっている彼に前を向いていけるように、そして心の支えとなるように格言を授けた。
「……………。あ、ありがとうございます………。うう……わかりました、おれ、こ、これから頑張ってみます……!」
伊村はほんの僅かな不安こそ残れど、それを復唱する。
大事に自らの心に収めると、お礼と共に今後一生懸命生きる事を誓う。
「ふっ、そうか……。ではそろそろ私は帰ろうと思う、じゃあ………元気でな」
彼の返事を聞いたフレイアは、どこか安堵したかのような目を見せる。
機を見計らい別れの挨拶を残した後、森に続く林道を歩き去って行く。
(………………。できればあの人ともう少し一緒に居たかったなぁ。……まあ、今そんな事を言っても仕方ない………か、行こう……)
エルフの森の林道を歩き去っていくフレイアの後ろ姿。
それを何か寂しそうな表情で見つめる伊村は心の中で、あと少しだけでも彼女と一緒の時間を過ごしたかったとぼやく。
………だが、今考えても仕方がないと区切りをつけて、地図に記された冒険者ギルドへと向かう事にした。




