第44話「道中」
「ここは……、他の場所より随分整備されてるんですね?」
翌日の早朝……起床して早々、伊村はフレイアに森の外へ連れて行かれる。
所狭しと生い茂る多様な植物、その間を通り抜け光の少ない地帯を脱すれば、見えてくるのは草の禿げた獣道。
「ああ、当然だろう。この辺り一帯はエルフの森としては、最も街に近いところに位置するからな……」
そこを通り出口を目指す中、伊村は森について気になった点を尋ねる。
すると彼女は、距離的に他よりも外部に近い為そう見えるのだと答えた。
「へぇ、そうなんですか! じゃあこの道を進んでいけば最終的に町に着けるということですね?」
「つまりはそういう訳だ。……だが、決して"安全"に通れる、という訳ではないがな」
納得した伊村が次いで質問する。
このまま道なりに進めば、人の住む場所へ辿り着くのかを。
しかしフレイアは問いに頷きつつも、周囲をしきりに警戒する様子を見せている。
「……? そうなんですか? こんなに何も無さそうな道なのに……」
果たして何の存在を感じ取っているだろう……。
伊村は疑問に思いながら、森の中を延びる道を通り行く。
◇ ◇ ◇
「む……! 気を付けろ。魔物が来るぞ……!」
特に問題も起きず順調だった道中。
だがここで突然フレイアが伊村へ注意を促す。
「まっ!? 魔物ですか!? ………けど一体何処にいるんです!?」
彼女は携帯していた剣の鞘に手をかけ、集中力を高めている。
伊村も前後左右と何度か視線を移して周囲を警戒してみるも、それらしき姿はこれといって見つけられない。
やむなく彼女へ敵は何処にいるのかと慌てながら聞く。
「すぐに分かる、……と言ってる側から出てきたな」
フレイアがグルリと、林道の左端にある茂みの方を睨みつける。
すると茂みの奥から伊村を一回り上回る大きさを誇る、体が豚、頭部はまるで象のように発達している奇妙な生命体が姿を現し、二人の前に立ち塞がった。
「な………、何ですかアレはっ!? 豚……? 象……?」
「な、何だかどっちなのかよく分からないですけどとにかく、……魔物ですよねアレは!?」
自分たちの眼前に現れたソレを目にし、突然の出来事に動揺しながら敵の正体を尋ねた。
「間違いなく魔物だぞ。………それにアレは、昨日私が捕獲した "ファントボア" の群れの一匹だ……」
フレイアは彼の問いかけに頷き肯定。
その見立て通り目の前の象と豚が融合したような生命体は魔物であり、続けて名前も明かすと、素早く剣を抜き放ち臨戦態勢へ入る。
(や、やっぱり……、あの "ファントボア" っていう魔物………。昨日おれが食べた野菜炒めに入ってたヤツかっ!)
彼女の言葉を耳にした瞬間、昨日の夜に自身が食した料理に入っていた肉はあの魔物の肉だという事を彼は今になって理解させられるのだった。
「フ、フレイアさん……。お、おれ………下がってた方が良いですかね?」
今にもこちらへ突っ込んできそうな魔物を前にして、恐る恐るフレイアへ伺う伊村。
だが彼女は何やら赤色に淡く光る剣を前方に構え、既に戦闘の準備を整えている。
「そうだな……、この魔物は結構強い。残念だが今のお前が戦っても全く歯が立たんだろう。しばらく私の後ろに下がっててくれ……!」
彼の言葉に同調し、退避しておくように指示する。
………それと同時だった。
赤い剣を構え、一気にファントボアへ距離を詰めて行く。
その速度は凄まじく、辺りに地面を蹴った反動で土埃が舞う程だ。
(あ、あれが本物の剣かっ!? 初めて見た!)
フレイアの姿を見て伊村は驚愕の他、憧憬や感動といった感情を抱く。
初めて見る剣に興奮が止まらないらしい。
ブゴオオオォッ!!
対して彼女の動きに反応し動きを始めるファントボア。
雄叫びに近い鳴き声を出すと、鼻の下に伸びる鋭い角を向けこちらも真っ直ぐに突進して行く。
「!! き、来たっ!?」
「はっ!」
敵が勢い良く突っ込むのを目にした伊村は思わず声をもらす。
だが次の瞬間、彼女は力強く地面を踏み付けファントボアの真上へと高く跳び上がる。
(飛んだっ!? フレイアさんが跳んだぞっ!?)
無論伊村もそのジャンプ力に驚愕。
目を見開き呆然としている。
「……ふっ!」
魔物もそれに気付くと、鼻の先からバランスボール大の火球を彼女に向けて撃ち込む。
ズババッ!
しかし彼女はその火球を剣で一刀両断。
だけで終わらせず、二、三度斬って四散させる。
そして剣を両手に持ち替えると、先と同じ体勢でファントボアの胸部めがけ剣を突き刺した。
「うおお、なんてスピード!」
伊村は彼女の素早い身のこなしに驚きながら、戦いの決着を確信する。
ブアァ……
剣で深く刺されたファントボアは短い断末魔を上げると、血を流してその場に倒れ生命活動を停止した。
「…………、終わりだ。………さあ、行くぞ伊村」
フレイアは絶命を見届けると、刃を抜き刀身に付着した血を振り払い剣を鞘に仕舞う。
武器を収め鎧についた汚れを軽く落とすと、何事もなかったように伊村に声をかける。
「………。す、凄い! めちゃくちゃ強くないですかフレイアさん!?」
一方の伊村は、先程の戦いぶりを見ていた為か、歓喜の表情を浮かべ彼女の高い実力を称賛する。
「お前も頑張って修行をすれば、別にこれくらいは強くなれるぞ?」
彼とは対照的に、全くいつもと変わらない様子のフレイア。
修行さえ積めば普通に自分と同等になれると教え、ぐんぐんと早い足取りで再び林道を歩いて行く。
しかし明らかに伊村が置いて行かれている。
「あっ、ちょ、ちょっと待って下さいよ! 早いっ! 早いってェェェーッ!!」
それを見て大急ぎで彼女に追いつけるように林道を進み出した。




