第41話「欝欝たる過去」
(…………、苦しい。何でおれってこんな……)
暗く、何も見えない闇に包まれた謎の空間に黒い髪の青年が一人佇む。
不安という感情で埋め尽くされた表情をして、曇り切った外の景色を見つめ続ける。
彼の名は伊村綾太。アデンの使用した転移魔法で移動したは良いものの、地上から離れた座標に投げ出されたが故に勢いよく頭を強打。
気を失ってしまったのが事の経緯だ。
(おれって死んだのかな。……あーあ、なんて不幸な人生だったんだ畜生………)
(人には迷惑かけてばっかだし、全然強くもなかったし………)
伊村は真っ暗な空間を遠い目で見ながら、アルメシアに召喚される前の人生を振り返る。
(何年か前、学校の先生にあれがこうなったのも全部お前のせいだとか言われ、………それでおれは悪くないって理由で歯向かって、だからそんな奴がいっぱいいる学校に行きたくないって言って、家に引きこもってばっかりになって…………)
伊村の召喚前の生活は、なんとも筆舌に尽くし難いものであった。
アルメシアへ召喚される数年前までは普通に高校生として学校に通っていた。
だがある日、教師から謂れのない理由で咎められそれに彼は反発。
以来登校する気力がわかなくなってしまい、結果としてほぼ毎日のように部屋に引き籠るようになったという。
(思えば家族もおれには冷たかったな……。父親からは暴言を吐かれ、母さんからは晩飯のときは何故かおれには少ししか飯をくれなかったし………)
それだけに留まらず家族からも酷い仕打ちを受けてきたらしく、伊村は親や教師らから除け者にされながら生きてきたようだ。
(………いや、何現実逃避してんだおれ。は、ははは………)
(…………。けどみんな、必要以上におれの事避けてただろ……)
だが伊村を蔑ろにしていたのは、学校の教員や家族だけではなかった。
(道路歩くだけで周りの人が皆おれからわかりやすいぐらいに距離取ってたし、………風邪ひいた時に病院に行ったらいつも医師がまるでおれのことを異常者と会ったような反応をしてたし………)
(…………あと"友達"ってのもだーれも居なかったな。おれから声かけて仲良くしようとしても、あっちの方から離れられるからどうやっても無理だし……)
(………………。結局、どこにいても、皆がおれを除け者扱いするだけで、あの世界に居場所なんて無かったな………)
街に住む人々や病院の医者、そして同じ学校の生徒たちも何かと彼を無視したり距離を置いたり、また話しかけたとしても軽く一蹴するという行動を取られていたようだ。
(だからおれは………なんか最近人気になってきてる"なろう"とか、そんなサイトにある異世界ものの小説を毎日読んで現実から逃げてきたんだ……)
伊村の周りの人間には、もはや誰一人として彼と普通に接してくれる者などいなかった。
その為かこうした日常から逃げ出す為に、彼は現実世界とは異なる別世界が舞台である流行りの小説を購読するようになっていた。
(………そんなとき、久々に学校に行って………それで、帰りにいつも通る道を歩いてたら……。急に足下に魔法陣みたいな模様が出てきて、気が付いたらこの世界に召喚されてたんだったか)
伊村は召喚される直前まで、自身が取っていた行動を思い起こした。
どうやら彼は当日、珍しく学校に行って授業を受けていたらしくその帰り道にアルメシアへ召喚された模様。
(思えば自分が世界を救う勇者として異世界召喚されたんだってわかった時は………おれも人の役に立てるような事が出来るんだって思ってあまり表には出さなかったと思うけど……、すんごく嬉しかったなぁ………)
初めて勇者として召喚されたと理解した当初は、自分にも他人から必要とされる役目を務める事が出来ると思ったらしい。
なのでその時の彼は内心喜びを隠せずにいた。
(でも………実際はめちゃくちゃ低っくいステータスで、スキルすら持ってなかった……)
(はあ………こんな雑魚すぎる人間が勇者なんて名乗れる訳がないよなぁ……。おれってどう頑張ってもただの役立たずにしかなれないんだなぁ……)
だが彼の総合力は既に知っての通り、たったの "47" 。
その数値は北本及び東洋のものと比べても明らかに低く、この弱さではとても魔王を倒すのが仕事である勇者の役目は果たせない。
沈み行く自信と共にため息をつき自虐する。
(考えてたら余計に疲れたな………、あ! そうだ。いっそのこと、ここで何も考えずに寝てしまおう……! それがいい!! ここ………何か知らないけど妙に落ち着くし!)
しばらくの間身の上を振り返っていた伊村は、もうそれ自体に疲弊してしまう。
そこで彼は今いるこの真っ暗な空間で無念無想のまま眠れば疲労が取れると考え、早速その場に寝転がり睡眠を取ろうとした。
するとその時………。
(………。あれ? 何だこの光は?)
伊村の目の前に白色に輝く謎の光が出現した。
徐々に大きくなっていき、光は彼と変わらぬ大きさへ膨れ上がる。
(……普通に眠らせてくれよ全く。……って、ん!? 急に光が大きく……ッ!!?)
自らの休眠の妨げだ、と不満を抱きつつ再び目を閉じる。
……がその直後、彼の身体は突如眩い光に取り込まれ瞬く間に全身を包まれしまったのだった。




