第37話「黒魔法玉の効果」
「わ、分かった、教えるッ! 俺はここに食事しに来たんだッ!」
ミセア、と名を告げた少女にテーブル席を利用した理由を言うよう促された東洋は、慌ててそのワケを説明する。
「そんな事言わなくても分かるわ。わたしが知りたいのは、何であんたがこのテーブル席を使っていたのか……という理由だけ」
しかしミセアはこんな分かり切った理由など不要と断じる。
肝心のテーブル席を使用した訳を明かすよう彼に求めた。
「それは……、俺がこの食堂に来たときはほぼ満席で、それでこのテーブル席だけ誰も居なかったので使う事にした………だけだぞッ!」
東洋はあらぬ誤解を生まぬように気をつけながら弁明する。
「……他の席が空いていなかったのね。だからこのテーブル席にしたと……?」
多少疑いの目を東洋に向けながらもミセアは問いかけた。
「あ、あぁ! これはわざとでは無いんだッ! 人が使っている席だとは知らなかったんだッ! …………お、そうだ……この"黒魔法玉"をやるからどうか許してくれッ!」
申し訳なさそうな顔で東洋は釈明、聞き入れてもらう為交換条件としてポケットから黒魔法玉を取り出し彼女に見せ許しを乞うた。
「そう……、って、それ"魔法玉"!? しかも黒じゃない! ……それをわたしにくれるの? ねぇ!?」
ミセアはその黒魔法玉を目にした瞬間、どういう訳か驚愕の表情になり思わず問いかけて反対側の席へ座る。
「……え? あ、あぁそうだぜッ! 依頼の報酬で貰ったやつだがなッ! そいつをやるからその代わりにこの事は勘弁してくれよッ!?」
ミセアの態度の一般ぶりに動揺しつつ、魔法玉を差し出しながら東洋は問いを肯定。
そして、彼女に自身の過ちを水に流すよう頼んだ。
「い、依頼の報酬でっ!? こんな……買うだけで数十万Gもする代物をそんな簡単に手に入れたのね………」
彼の掌の上にある黒魔法玉をじろじろと観察しながら、コレを依頼の報酬で入手したという東洋に信じられないといった表情で呟くミセア。
「なッ!? すッ、数十万Gだとッ!? 黒魔法玉とはそんなに高いものなのかッ!?」
彼女の話に出てきた数十万Gもの大金……思わず東洋は驚愕する。
その後、本当に魔法玉がそこまで高い価値があるのか尋ねた。
「わたしが持ってる魔法玉は少なくともそれくらいの値段だったから、この黒の方もきっとそうだと思うわ……」
ミセアは黒以外の魔法玉を購入した際の価格を思い返し推測する。
どうやら魔法玉というアイテムは、かなりレアな高級品のようだ。
「そ、そうなのか!? ああぁ、俺はなんてレアなアイテムを手に入れてしまったんだッ!」
手の上の玉を見て嘆くように東洋は口にすると、ゴトンと魔法玉をテーブルに置く。
「そうね、……依頼の報酬で手に入れたなんて、とてもそんな方法で入手できたとは思えないわ。どこを探してもなかなか見つからなかったのに」
東洋の置いた黒魔法玉を、憧憬の目で見つめながらミセアは語る。
「ははは、そうかッ! 話を戻すが、テーブル席の件はこれで許してくれるのか?」
彼女の話を一通り聞いた東洋。
再び話を本題に戻し、黒魔法玉を譲ったら本当に許してくれるのか確認を取った。
「勿論、この黒魔法玉はありがたく頂くわ。そしてあなたが前の席に座った事もチャラにする」
するとミセアは軽く微笑み、東洋がテーブル席を使用した一件を許容すると、置かれていた黒魔法玉を手に取る。
「ほ、本当かッ!? 良かったぜ……これで問題無く食事ができるッ!」
自分のしてしまったミス、それを許してくれた事にホッと胸を撫で下ろす東洋。
彼の顔に笑みが溢れる。
「そういえばあなたって珍しい名前してるけど転移者? それとも転生者? どっちなの?」
ふとミセアは彼の名前について疑問を抱き、このように尋ねてきた。
「ん? 俺は転生者では無く"転移者"だぞ。昨日、召喚?って奴でこの世界に来たんだ」
自身の出自、それに関係する事柄を聞いてきた事に一瞬言葉を詰まらせるも、こことは全く違う世界から来た転移者だと一切の嘘をつかずに答える。
「転移者だったのね。確かによくよく見れば、あなたのその黒い髪にその格好……アルメシアではまず見られないわね………」
彼の言葉を受けミセアはこの世界ではまず見られないチャックが飛び出た奇妙な学生服に、彼以外はまず見かけない黒い髪へ視線を向けて転移者である説得力に納得がいった。
「そうだろ? この服は"学生服"と言うんだッ! ……じゃあ今度は俺からも質問するが、その黒魔法玉は一体何に使うつもりなんだッ!?」
彼女の口から出た一言、それへの補足として着ている学生服の名を教えると、東洋からも彼女へ黒魔法玉の使用用途について質問した。
「この黒魔法玉はわたしの魔法の"強化"に使うのよ。……魔法使いだから当然よね」
そんな問いに対しミセアは、手に持つ魔法玉に視線を移した後何に使うのかを答えた。
「ほー魔法………って、え? 魔法の……強化ッ? 黒魔法玉は魔法を強化できるのかッ!?」
黒魔法玉の使用用途を聞いた東洋は大袈裟ながら東洋は両手を上げ吃驚仰天。
無論、彼はミセアに聞き返す。
「ええ、この黒魔法玉を"魔元素"とわたしの"MP"で包み込んで……」
ミセアはそこまで言うと、手に持っていた魔法玉を再び机に置き両手を玉に向けてかざし神妙な面持ちで両手から紫の瓦斯体……"MP"のエネルギーを放出。
空気中に漂うとされる"魔元素"と混ぜ合わせた後、黒魔法玉全体を覆った。
「お、おおぉーッ、凄いぞ! 何かミセアの手から紫のエネルギーのようなものが発せられているッ!」
東洋はミセアの"MP"と"魔元素"が混ざったエネルギーが、黒魔法玉を覆っている光景を見て感嘆を受ける。
「その後は………」
ボウッ!!
「くッ!? なッ、何だ一体ッ!? ……これはッ! 黒魔法玉が光っているのかッ!?」
なんと、突如として黒魔法玉が淡く発光、ミセアの"MP"と"魔元素"のエネルギー体が吸い込まれるように黒魔法玉内へ消える。
……かと思うと、次の瞬間一気に黒魔法玉から放出されミセアを包み込みしばらくすると徐々に光が弱まっていった。
「よし………光った、これで強化が完了したわ!」
やり遂げた感じでミセアが言うと、テーブルに置いていた黒魔法玉を肩に提げていた鞄に仕舞い込んだ。
「………! お、終わったのかッ!? "強化"はッ? いまいち何が起こったのかよく分からなかったのだがッ……?」
愕然とした顔で一部始終を目にしていた東洋は、強化は終了したのかと問いかけた。
「黒魔法玉をMPと空気中にある魔元素というエネルギーを練り合わせたもので包み込んだのよ。で、黒魔法玉がそれを取り込んで、わたしの魔法を強化したって事」
するとミセアは多少煩わしそうな表情をしつつも、黒魔法玉が何を齎したのかを丁寧に説明する。
「そ、そうなのか、大体だが分かったッ! ……ちなみにミセア、この黒魔法玉はどんな魔法を強化してくれたんだッ!?」
少し難解なミセアの説明を聞き東洋は無理矢理ながら頷くと、今度は黒魔法玉は何の魔法を強化したのかを問うた。
「"無属性魔法"よ。火とか風とか電気とか………そういう属性魔法とはそもそもカテゴリー自体が異なる魔法系統」
「わたしは"火属性"と"風属性"の二つの属性魔法が得意なんだけど、無属性魔法だけがどうも苦手で……、どうしても強化したかったの」
この質問に対し強化したのは属性魔法とは全く異なる無属性魔法だと答え、ソレを何としてでも強化したかったと彼女は明かした。
「無属性魔法……? それは一体どんな事ができるんだッ?」
しかしその無属性魔法は初耳だ。
東洋はきょとんとした顔で無属性の主な効果について質問を投げかけた。
「無属性魔法にはとにかく色々な効果があるわ。例えば、洗濯物とかを瞬時に乾かす"ドライ"や、呪われた道具とかを解呪する"ディスペル"……。まあ他にもたくさんあるから後は自分で調べて」
彼の疑問に対しミセアは分かりやすく一例を述べると、彼女は大きな欠伸をかき眠たそうに眉を細める。
「なーるほどそうか! 分かったぜッ! ……説明ありがとう! 無属性魔法って凄いんだなッ!!」
黒魔法玉だけでなく無属性魔法についても知見を得れた東洋は、彼女に礼を言うと魔法の奥深さに感銘を覚えた。




