第36話「魔法使い登場」
「どうぞ! 討伐依頼の報酬の銅貨15枚と黒魔法玉です! お疲れ様でした!」
太陽が傾き始めた頃、公国内の冒険者ギルドに東洋は到着。
無事依頼を終え帰還した彼は依頼報告専用カウンターにて依頼完了を報告し、討伐報酬である15枚の銅貨(1500ゴールド)と"黒魔法玉"という漆黒色の水晶玉のような道具を職員から貰った。
「おう、ありがとうッ! ………これが"黒魔法玉"かッ!」
(くそ、ポケットがパンパンだッ! 今度大きな鞄とかを買っておくか……ああ失敗したッ!!)
東洋は受け取った銅貨と初めて目にした魔法玉に視線を落とす。
一言礼をし、懐にある布袋に仕舞う。
だが袋が一杯で全ては入りきらなかった。
しぶしぶながら、彼は学生服のポケットに突っ込むことにした。
途端に丸く膨らむポケットを見て今更ながら流石に無理があるかと思う東洋。
こういった黒魔法玉等のアイテムを大量に仕舞えるような鞄を準備しておいた方がいいと彼は決意するのだった。
「さて! そろそろ行くかッ! ………ッ! ぐぬぅッ!? あああぁぁぁ……!」
こうして彼がカウンターを後にしてギルドを出ようとした瞬間、唐突に腹部が音を立てる。
途端に東洋は顔を歪め呻き声を出す。
(こッ! これは……空腹感か!? そういえば俺はこの世界に来てからまだ何も食べ物を口にしていないッ!)
(しかも、ついさっきまで討伐依頼をやっていたから余計にィィィッ! ………マズいなこれはッ!)
この世界に召喚されてから何も口に入れておらず、その状態で数時間かけて依頼を遂行した事により空腹感が遂に頂点に達してしまったのだと東洋は状況を理解する。
(くッ! どこか、どこかに料理屋は無いか!? もう限界だ! ………んッ? あれはァッ!)
なので彼は近くに飲食店等が無いか探しに行こうとした。
するとギルド内のカウンターがあるエリアから奥の空間に、いくつかのカウンターとテーブル席が設置された食事スペース的な場所がある事に彼は気付く。
(おおぉ〜ッ、あの場所はきっと"食堂"だな! よし、距離も近いし丁度良い、あそこで食べようッ!)
そこで昼食をとろうと決めた東洋は、空腹によりやや顔を引きつらせながらも足早に目的地・食堂へ向かった。
◇ ◇ ◇
食堂に着くと、そこは依頼を終えた冒険者たちが仲間たちと楽しく会食をしておりとても賑わっていた。
(お! 意外に繁盛しているなッ! ……まあとにかく空いている席は無いか探してみようッ!)
その様子を一瞥して益々食事するのが楽しみになった東洋は一先ず、自分が座れる席が無いか探し始める。
「あそこが誰も座っていないな! よし、あの席にしようッ!」
すると室内に設置されたテーブル席の中で、二人掛けの誰も使っていないものがあったので東洋はそこで食事を決めた。
(ふうッ! さて、何を注文するか? メニューは………っと、ふむふむ………、コレだなッ!)
テーブル席へ腰を下ろした東洋は早速、注文すべく隅に置いてあるスタンドからメニュー表を取り出しどれを頼むかしばらく考え始める。
(決まりだ、この料理にしよう! 美味しそうだしなッ!)
チリーン!
少しして、注文するものを決めた東洋は隅に置いてある呼び鈴を数回程度鳴らしウェイターを呼んだ。
「いらっしゃいませ、もうご注文はお決まりですか?」
「あぁ、もう決めてあるぜ! これを頼みたいんだがッ!?」
東洋は駆けつけたウェイターに聞かれると、テーブルに置いていたメニュー表を手に持ち自分が注文したいメニューを見せた。
「"ラボロターキーのチキンライス"ですね、畏まりました。……以上でよろしいでしょうか?」
東洋が見せたメニュー表には、鶏肉のような食材と細長い形状をした米を良い塩梅に混ぜ合わせた見るだけでも食欲を唆られる美味しそうな料理が載っていた。
ウェイターはそれに目を通し懐から伝票らしき道具を出すと、手早くメモを取り東洋にその他について尋ねる。
「おう! もうこのメニューだけで十分満足出来そうだぜッ!」
東洋はこの料理のみを注文するようでウェイターに対し上機嫌気味にガッツポーズを取り、漸く食事にありつける事を心待ちにするのだった。
◇ ◇ ◇
ウェイターが注文を承ってから少しの時が経ち、東洋は今か今かとテーブル席で待ち続けている。
(………ん? 誰だッ? この席に近付いてきているが……? 一体何の用があって……)
そんな中、彼の座っているテーブル席に何やら見知らぬ女性が向かって来ている事に気が付いた。
「見覚えの無い女だがn、」
「………、誰よあんたは?」
「……んッ!?」
東洋はどうして顔も知らぬ人物が、自分の席へ近付いて来るのか疑問を浮かべていた。
……が、それが理由で女性がすぐ近くまで来た事に気付くのが遅れてしまい思わず声を上げつつ、言葉を発している途中で話しかけてきた事に驚く。
注意深くその見知らぬ女性の容姿を見ると桃色の髪に膝下までのやや短い丈のロングスカート、そして薄黄色のブラウスを着用している事が判明する。
「何でわたしの座っていた席の反対側にいるのよ?」
見知らぬ女性は東洋に話しかけた後、彼が座っているテーブル席を見て尋ねた。
「何ィー!? ……こ、このテーブル席はアンタが使っていたのかァーッ!?」
この発言に今自分の座るテーブル席二つはもう既に人が利用していたという事実に東洋は衝撃を受けつつ彼女に聞き返す。
「ええそうよ、そこの前の席を使っていたの。……けど数分くらい前に急に眠気に襲われたから顔を洗いに行ってて、戻ったらあんたが座ってたって訳。………本当にあんたは誰なの?」
すると自らが席を立った理由を明かしてから、彼女は半ば面倒くさそうに素性を尋ねてきた。
「おッ、俺は東洋五郎だッ! ……そういうアンタはなんて名前なんだッ!?」
女性から何者かを問われた東洋は多少慌てつつも自身の名前を名乗り、またあちらにも名を名乗るよう促す。
「へぇ……珍しい名前ね。……ミセア、"ミセア=フェレヴィード"って言うの、これでも"魔法使い"よ」
「……さあ、教えてあげたんだから早くわたしの前の席を使った理由を答えなさい?」
彼女は自分の名前を告げると、間髪入れず自身の向かい側の席を使用した理由を言うよう彼に求めた。




