第32話「冒険者」
「………? "若王"……?」
目の前の大きな椅子に腰掛けているセルフィスと名乗る若い男を見ながら、男が口にした言葉に疑問をこぼす東洋。
「ああ、今から5年ほど前にこの国の王に就いてからそう呼ばれている……。その時はまだ私は20代になって間もなかったからな、……国民たちからそのような呼称を付けられるのも無理はないだろう。はっはっはっはっはっ!」
自身が若王と呼ばれるようになった所以を軽く教え、一通り彼に話し終わると自分でも面白可笑しく思ったのか一人で大笑いする。
「そ、そうかッ、あッ……そうですか、てことはここはやはりルガロ公国の王城なんだn、……なんですねッ!?」
日常的に東洋はタメ口で話していたので、言葉遣いを気にする事など殆ど無かった。
なので話を聞いてる中ついいつものタメ口が出かけたが、途中でそれに気付き何回か訂正し敬語に言い直す。
「……ふっ、そうだ。地下の牢獄からこの城に来たときは大層吃驚した事だろう?」
ここが王城で合っているかを尋ねる東洋。これにセルフィスは少し微笑すると、その通りだと頷いて肯定する。
牢獄の階段を上がり王城へ出た際に抱いた感想、これに関して聞き出した。
「お……は、はいッ! 牢獄のとは全く異なっていて訳わからんかっt……、訳がわかりませんでしたッ!」
しかし東洋はまたしても少しタメ口になりかけたので、慌てて敬語に戻して返答。
王城内の様子を見て思った事を口にした。
「………。そうか! やはりそう思ったか。確かに少し複雑な構造だが……、この王城と牢獄は南東部の階段で直接繋がっているのだ。牢獄のみを城下町に配置すれば、危険な囚人が脱獄し、民間人に危害が及ぶ可能性があるからな!」
東洋より感想を聞いたセルフィスは予想していた通りの発言を得れて満足そうな笑みを浮かべると、牢獄を繋ぐ通路が見える窓へ目を向けながら王城地下に牢獄を作った理由を語る。
「そッ、そうなのk……、そうなんですかッ! 確かにそうですねッ!!」
彼の話を聞き返事をする際、案の定敬語を忘れそうになるがすぐに言い直して共感の意を示す東洋。
「……………。あー、その、先程から気になっていたのだが、……君はもしかして、いや、もしかしなくとも"敬語"を使うのは苦手か?」
ここに来てセルフィスは東洋へ問いかける。
ちょくちょくタメ口が出そうになる等、あまりにも敬語を使い慣れていなさそうな様子が気がかりになった彼は本人に伺った。
「………えッ、い、いや、俺あっ……、自分は敬語はできr……、できますッ!」
これに対して東洋は否定。
だが今回も明らかに敬語を使いきれていない。
なんとも拙すぎる口調………少しの間の後、セルフィスは溜息をついて話し始める。
「………敬語を使わずに話しても良いぞ? 君もその方が話しやすいだろう?」
「………へッ!?」
次の瞬間、彼が出した言葉に東洋は思わず声を漏らす。
なんと、セルフィスはタメ口の使用の許可を出したのだ。
「私の事もセルフィスか若王と言う呼び方で良い。………というかもうこれから敬語では無くタメ口で話そう、そうした方が良い……確実に」
まるで念押しするかのようにこれからタメ口で話をするよう強く勧めるセルフィス。
目を見開き驚く東洋を置き去りに、今後の為にと言葉を付け加えた。
「分かりましt、……分かったッ! じゃあありがたくこれからそうさせてもらうぜッ!」
「ああ、それで良い。…………さて、そろそろ本題に入りたいが良いかね……?」
多少の逡巡の後、東洋は彼の言葉に甘え敬語を使わずに話す事を決める。
それを受けセルフィスは数回頷くと一拍置き、別の話に入った。
「……んッ? 本題!? あ! そういえばどうして俺をこんなところまで移動させたんだッ!?」
看守の先導で牢獄からここまで移動した時の事を思い起こし、セルフィスに肝心の疑問を投げかける。
「ああ、その事なんだが、一度捕まえた君をここに呼んだのは訳がある……」
「………まず確認の為に聞くが、君は"勇者召喚"で召喚された"転移者"で間違いないか?」
するとセルフィスは柔らかな表情を少し変え、冷静なトーンで話を始めた。
まず彼は腕を組んで話を聞いている東洋に"転移者"かどうかを尋ねる。
「そうだ! 間違いないぜッ! ……俺が"勇者"とかいうヤツだって事はもうアンタ達にバレてるし、隠したところで無駄だって事は分かっているぞッ!!」
問いかけられた東洋は、今更隠そうとしても意味が無いと悟り嘘偽りなく認める。
「やはりそうか……。バーディア帝国からは野放しにしておけばいずれ自分たちにとって新たな脅威となるという事で、君らを捕らえたらこちらに引き渡すように言われているのだが、……私にはどう見ても君が悪事を働くような人間には見えないのだよ」
東洋が捕縛された理由……実は外交関係のあるバーディア帝国から、セルフィスの治める国が"転移者"である東洋ら三人を捕らえ次第引き渡すように要求されていたからであった。
しかし彼には今こうして話をしている東洋が、これから自分たちの脅威となり得る存在だとは到底思えないらしい。
「あっ、悪事ッ!? 俺は悪人なんかじゃないぞッ! ……本当だッ!!」
転移者が良からぬことをするかもしれない、そのように言われた東洋は慌てて弁明する。
大袈裟と思える程腕をバタバタさせながら。
「うーむむ、バーディア帝国には君たちを捕まえたらあと5日以内に引き渡さなければならないんだが………」
「どうも君の瞳からは……揺るぎなき真実と確たる信念の気持ちが伝わって来るようだ。………、よし……分かった」
その必死振りが伝わったのか、深く悩む彼は真正面に立っている東洋顔を見ると何かを決意したような表情となり椅子から立ち上がった。
そして、
「君を信じてみる事にしたよ、"転移者"である君をな……。ただしその代わり、これからこの国で "冒険者" として活動してもらおうと思う」
「…………なッ!?」
セルフィスはこのように口にした。
冒険者として公国内で活動する事を条件に、東洋の言葉を信用するとしたのだ。
無論、こんな事を持ちかけられるとは思わなかった東洋は驚嘆する。
「し、信じてくれるのはありがたい……! だが、ぼ、冒険者……になるのか!? 俺がかッ!? 確かに興味はあるが……冒険者以外の選択肢はないのか!? 理由を聞かせてくれッ!!」
他の職業でも良いのに、どうして自分が冒険者として活動する事を信用する条件にしたのか、東洋はセルフィスへ尋ねる。
「あぁ……、理由ならばある。冒険者というのは基本的に依頼を受けることによって自分の欲しい金銭やアイテム等を入手する事ができるのだが、君は"ソレ"になって主にこの国での依頼を達成していってほしい」
「依頼を達成する事によって君がここで生活をする上で欠かせないGを稼ぐ事が出来るのだ。他の職をこなすよりかは、単純かつ需要があるぶん収入を潤沢に稼げる。……まあ一定の"実力"は求められるが」
冒険者は依頼をこなす事で金や道具等が入手でき、また仕事である'依頼"をこなす際に優先的にルガロ公国内での依頼を達成してほしいと頼んだ。
一区切り話し終えた彼は、さらに東洋に一歩近付き話を続ける。
「……先ほど私は "君を信じてみる" と言った。だが冒険者になってこのルガロ公国の様々な依頼を遂行してくれれば、その時には私は本当に君の事を信用しよう」
「……もしその冒険者をやってくれるのなら、君をバーディア帝国側にも引き渡さないように最善を尽くしてみよう。……どうだ? 引き受けてくれるか?」
先程の話で口に出した言葉を最初に使い、冒険者として活動してほしい理由が公国の為であり東洋自身の為にもなる事を告げた。
その後セルフィスは、東洋に提示した信用する条件を引き受けるかどうかを問い、少しの間だけ様子を伺う。
「…………………」
「………分かった。あんたの言う通り、やってやるぜ冒険者ッ! なかなかに面白そうだ、興奮してきたぞッ!!」
顎に手を当てて多少思考を巡らせる東洋だったが、暫しの戸惑いの末に彼は"冒険者"になる事を決意したのだった。




