第31話「東洋と若王」
「!! な、なんだここはッ!?」
看守の大男の後をついて行き、しばらく進むと二人は広々とした大広間に出た。
(……こ、今度はなんか広いとこに出たぞ!? マジで一体どこに向かおうとしているのだこの男はッ!?)
東洋はその大広間の隅を進んで行く看守の大男を見やり、疑問を抱く。
「……せめてどこまで行くのかぐらい教えてくれッ! お前は一体どこに向かっているんだッ!?」
嘆願の表情をしながら、目の前を行く看守の大男に再び聞いてみる。
「………、…………」
しかしやはり看守の大男は東洋の言葉を無視して黙々と彼の前を歩いて行く。
(これでもダメか! "封印魔法"ってのはなかなかに厄介だなッ! もういい、諦めよう! 何度話しかけても無駄だという事が今ので分かったッ!)
何回か大男に話しかけても言葉を返すことすらなかった。
封印魔法は思った以上に面倒な魔法だという事を思い知った東洋。
それ以上大男に話しかけても全くもって意味が無さそうなのでやめておく事にする。
◇ ◇ ◇
「で、デカい扉だ……、この扉の先に誰か居るのかッ!?」
さらに豪華な装飾のなされた通路を進み始めてから数分が経過。
看守と東洋は前と同じような造りをした大広間に出て、左右両端に一列に並ぶ騎士のような格好をした者たちが立つラインから中央の道を通る。
そうしてしばらく進んだ後、約五メートルはある朱色と黄金色の木材でできた大きな両開きの扉の前まで東洋は辿り着いた。
「………、前へ行け。そのあと、兵士が扉を開けるのを待て」
漸く口を開いた看守の大男はそれだけ言うと、踵を返しさっさと歩いて行ってしまった。
「えッ!? お……おいお前! 俺を置いて行くのかーッ!?」
(……………。アイツの言う通りにしておくか……、それにしても なんて迫力のある扉なんだッ! 日本にいた時はここまで大きな扉など見たことも無かったぞッ!)
自身を放置し、一人来た道を引き返して行く看守の大男を引き止めようとする東洋。
だが彼には相変わらず無視された上に、今更 牢屋に戻っても仕方がないので一先ずは言われた通りの行動を選択。
目の前にそびえ立つ巨大な扉を見て物珍しさを感じつつ、看守の言葉通り扉の前まで移動し、開かれるのを待つことにした。
(おっ? 騎士たちが動き始めたぞッ! ……だが本当にこんな大きな扉なんて開けられるのかッ!?)
しばらくすると、両端に並ぶ兵士たちのうち、扉の近くに立っていた兵士二名がさっと中央の通路に移動し、それぞれ片方ずつ両開きの扉を開けた。
(……おおおー! すごい力だな! 扉が開いたぞーッ!)
兵士の二人が扉を開けた事を確認した東洋は、早速扉の奥にある広々とした空間に一歩足を踏み入れた。
すると……。
「ようこそ、ルガロ公国へ……。"転移者の青年"……」
東洋が両開きの扉の先にある部屋に足を踏み入れた瞬間、奥の方から何やら若い男の声が聞こえてきた。
「!! この部屋は……もしかしてッ!?」
東洋が入った部屋は、これまで通ってきた大広間や通路よりもかなり豪華で、何とも煌びやかな雰囲気を感じさせる。
「………あぁ、自己紹介をする前にまずは、私の近くまで来てほしい」
部屋の雰囲気に衝撃を受けていると、つい先程の若い男の声の主が立派な装飾のなされた椅子に座り移動を促した。
(………、お、俺のこと、だよな? この部屋は恐らくかなり偉い身分の奴が住んでいる"玉座の間"とやらだろうッ! だが何故、俺がまだこんなに離れた距離に居るというのに声をかけたんだ……?)
いかにも豪華そうな椅子に座り、遠目で東洋を眺めている若い男。
転移者である自分に声をかけているのだと理解したと同時に、自身が今いる建物はルガロ公国の王城でこの部屋は所謂"玉座の間"であるという認識を示した。
そして、何故自分と若い男の距離が何十メートルも距離があるというのに、一切近付いたりせずにしかも自分から声をかけたのか……。
東洋は最後に疑問に思った。
(まぁとにかくッ! 今はどのようにこの部屋へ入ればいいのか考えなくてはッ!!)
(………だが、俺はッ! ………実は"礼儀作法"とかそういう決まりなどは、正直言って苦手だッ!)
(普通に真ん中を通らないようにすれば良いのか……? それとも…………、くっ! あぁーッ! ダメだッ! 考えたら余計に今の状況に集中できなくなるッ!!)
東洋は礼儀作法をどう弁えるべきか考える。
………が、しかしそもそも彼は勉強が苦手で、最近はほとんど赤点ばかり取っていた為か必要最低限のマナーしか知らず、自分より身分が高い人間に会うときにすべき作法等が全く分からなかった。
なので取り敢えず豪華絢爛な部屋の中央に敷かれたカーペット右隅のラインにあるデザインの上を通り、彼なりに無礼で無作法だと言われないように中央部を通らないようにした。
「……! なるほど。君はどうやら、なかなかに我の強い人間のようだな……。この玉座に座る私の前で"頭を下げず"堂々とこちらに向かって来る者など初めて見たよ……」
カーペットの右端を通り進んでくる東洋を見て若い男が呟くと、自身の座る玉座の近くまで彼が来るのを待ってから再び口を開いた。
「私はルガロ公国国王・"セルフィス"だ。まぁこの国では"若王"という敬称で親しまれているから、そちらで呼んでもらっても構わないがね……」
若い男は自己紹介を行う。
男はこの国の王だった。
自らの名を告げた後、"若王"という敬称で名前を呼んでも良いと東洋へ勧めるのだった。




