第30話「看守」
「"ルガロ公国"か………なるほど! すまんな、教えてくれてッ!」
東洋は少しだけ顎に手を当て、何かを考える仕草を取る。
その後納得を示すと、国の名前を教えてくれた男に軽く頭を下げて礼を言った。
「あぁ、………そういやぁお前他にも砂嵐に巻き込まれたとか言ってたよな? ここへお前が気絶した状態で看守どもに引き摺られて来たんで、一体何があったんだと思ってたぜ………」
鉄格子の外側の通路へ視線を移した後、囚人の男は口にした。
「えッ!? 引き摺られていたか俺はッ!?」
「そうだ、お前よくあの状態で目が覚めなかったな」
自分が気絶している間に、そんな事があったのかと驚愕の表情を浮かべる東洋。
囚人の男にそれは本当かと聞くと、彼は軽く頷き可笑しそうに顔をニヤつかせながら言った。
「そ、そうだったのか……。だが何故、俺が勇者候補だという理由で牢屋に入れられるのかが分からんぞッ! 俺はただ単にこの世界へ召喚させられただけなのにッ!!」
投獄される際の状況を教えてもらった東洋は眉間に皺を寄せ、何故自分がアルメシアに勇者として召喚された、ただ唯一それだけの理由で収監されたのかを理解できず言い放つ。
「……恐らくこの国が"バーディア帝国"に服従しているからだろうな、お前を捕まえた訳は」
そんな疑問に、囚人の男は鉄格子を右手で掴みながらこのように答えた。
「バ、バーディア帝国に……? つまりどういう事なんだッ?」
東洋は男の話の途中で、"バーディア帝国"が出てきた事に首を傾げ聞き返す。
「ルガロ公国はバーディア帝国と国交を結んでるらしいが……、実は裏ではバーディア帝国がルガロ公国を含むグリシア大陸全ての小国をデケェ軍事力で脅して強引に服従させてるって噂がある」
一拍子置いた後、鉄格子から手を離して更に彼は話を続ける。
「つい昨日、オレがこの牢屋にぶち込まれるちょうど直前、"バーディア帝国で召喚した"三人"の勇者候補の人間が離反し、逃走した"という情報を耳にした」
「あくまでも推測だが、バーディア帝国から"逃げた人間たちをもし見つけたらすぐに捕まえるように"とでもお達しがあったから、お前はこの牢獄に入れられちまったのかもしれねぇな……」
囚人の男は何故ルガロ公国が東洋を捕まえこの牢獄に入れたのか、この理由の推論を語った。
「なるほど………、ルガロ公国が帝国に服従させられていてッ……で、アイツらが俺たち勇者召喚された者を捕らえるように、公国に命令したからこんな事になってしまったのかッ……! クソ! 何という事だッ!!」
彼からの説明を聞いた東洋は牢屋の床を自分の拳で叩き、悔しそうな表情をしながら口にする。
「……話を続けるが、そのバーディア帝国が実はこの国の看守どもにある魔法をかけてるらしい……」
そんな東洋の様子を見て若干引いていた囚人の男だったが、すぐに気を取り直して話を再開させる。
「魔法? どんな魔法を看守たちにかけているんだッ!?」
「詳しくは知らねぇが……、"封印魔法"の類だとオレは疑ってるぜ」
東洋の質問、これに対し男は看守にかけられている魔法が封印魔法である可能性があることを教えた。
「ふ、"封印魔法"だとッ!? そんなヤバそうな魔法がかけられているのか!? ……だが、そいつは一体どういう効果だ!? 教えてくれッ!!」
話を聞いた東洋は、看守がかけられたかもしれないその魔法の効果が気になり自分の両手を握りしめた後男へ尋ねる。
「さぁな、オレは分からねぇ。……てかさっき"詳しくは知らねぇ"って言ったハズだぜ?」
直前の会話で魔法についての詳細までは知らないと聞かせておいたのに、何故また魔法に関する情報について聞き出そうとするのかと男は東洋に突っ込みを入れた後、一拍子置いてから再び口を開いた。
「………、まぁ、これも推測だが………。オレらが普通に会話してるこの状況でも看守のヤツが全く止めようとしない様子を見るに、恐らくは "仕事で必要な事以外で喋ったり話をすることができなくなる類の封印魔法かなんかを、かけられてるんじゃないかと思うな……」
男は鉄格子の向こう側に居る看守に視線を移し、冷静な表情でどういう効果の封印魔法なのか考察をした。
「つまり、看守の仕事以外で話をする事が出来ないように"言葉"とかを封印する効果があるんだなッ!?」
封印魔法の効果を予想した彼の言葉に反応し、額に汗をかきながら確認を取る東洋。
「多分な、絶対そうだとは言い切れねぇが、………ん? 誰か来たようだぜ? ……戻らなくて良いのか?」
話の途中で急に男は左方向に顔を向けた後、面倒くさそうな表情をして口にした。
「な……誰だ一体ッ!? 誰が来たというんだッ!?」
「あっちを見てみろよ?」
唐突に話を変えてきた囚人の男に対して、大きな声で問いただす。
すると男は左の方角を指差して呟き、東洋の視線をそこに集中させる。
「あ、あそこから誰か人が来るというのか!? おい! 俺はどうしたら良いんだッ!?」
左方向に顔を向けた東洋。
しばらくして彼は再び向き直り、男に対し自分はこの後どうすれば良いのかと尋ねた。
「取り敢えず牢屋の隅じゃなくて真ん前に居た方が良いぜ? そうした方が"牢屋から出たい"っていう意志が看守どもにも伝わって来るだろ?」
男は彼が入れられている牢屋の鉄格子を指して東洋に今取るべき行動、早く釈放される為にすべき態度を教えた。
「確かにそうだな……、よしッ、分かった! ありがとなッ! えー………と、しゅ……盗賊!!」
東洋は男に礼を言った後に彼の名前を言おうとする。
が、以前名もなき盗賊だと口にしていた事を思い出した為ただ単純に"盗賊"と言っておいた。
「ふっ、はははははっ! 面白れぇなお前! ……盗賊て!」
それが大いに可笑しかったようで、囚人の男は大爆笑。
腹を抱えて彼の言い方を面白がった。
「………じゃあな」
「おう、情報ありがとなッ!」
そうして東洋が再び元の位置へと戻ると男は牢屋の奥へと消えていった。
◇ ◇ ◇
「おい、………出ろ」
囚人の男と話し終えてからそう時間も経たないうちに、檻の外に居る看守と同じ格好をした大男が目の前までやって来てこう呟いた。
大男はガチャリと東洋の入れられている牢屋の鉄格子に掛かっている鍵穴に鍵を通して解錠し、中に居る東洋に牢屋から出るよう促す。
「あ、あぁ……ッ、分かった……」
鍵が開いたことを確認した東洋は、看守の大男に言われた通りに牢屋から出る。
すると大男がくるりと振り返って元来た道を戻り始めた為、仕方なく東洋は彼の後に追随する。
そして、牢獄の階段を昇ると、そこには豪華な装飾が施された大きな洋風の通路が広がっていた。
「お、おおおーー! 何だこの場所はー!? すごいッ、実に豪華だッ!!」
東洋は、その牢獄とは一変した豪華で絢爛な雰囲気をした通路を見て思わず感嘆の声を上げる。
「………」
しかし、看守の大男は東洋の叫びにも等しいその言葉には無反応で通路を進んで行く。
「おおいッ、何か言えよお前!? これじゃ俺一人で喋っているみたいじゃないかッ!?」
何にも反応を返さない大男に東洋は突っ込みを入れつつ、気品ある様々な装飾が施された通路を行く男の後をついて行くのだった。




