第28話「熱血漢と砂漠地帯」
「うおおおおおぉぉぉォォォォーーーッ!!」
鮮やかな夕陽に照らされた砂漠地帯を猛スピードで疾走する人影。
襟からジッパーがはみ出た学生服を着て、砂埃を上げ走り抜ける青年、彼の名は東洋五郎。
東洋は何とも暑苦しい雄叫びを上げた後、走り疲れたのか数キロメートル進んだところで足を止めた。
「はあッ……はあッ……、ま、まだ……、まだ続いているのかッ!? この砂漠は!」
自身が召喚された岩場からだいぶ離れた場所まで走って来た東洋だったが、周辺一帯の地形は走る前の時と変わらない砂漠気候。
そんな体たらくに思わず彼は愚痴をこぼす。
(なんて広い砂漠だ! それに走ったからか額に汗が! ……クソッ、煩わしいッ!)
汗を右手で拭いながら東洋は砂漠の暑さに不満を抱く。
(しかももうすぐ夜になってしまうな! その前に……なんとしてでも早急に腰を落ち着かせられる場所を探さねばッ!)
日が沈む前に人が住める場所を見つけ、休眠を取る事が必要だと東洋は決意する。
そして短い休息を取ったあと、彼は再び夕陽が照らす砂漠地帯を全力疾走していく。
「………!? あれはッ!?」
それからしばらくして……。
息を激しく吐きながら全速力で砂漠地帯を突っ走っていた東洋は急に走るのをやめて立ち止まった。
彼が突然静止したその理由は……。
「"サボテン"!? この緑色の植物はまさか"サボテン"っていうヤツなのかッ!?」
サボテンに酷似した全長約3.5メートルほどの大きさの植物がぽつりと東洋の近くに生えていたからだ。
(にしてはデカいな! 向こうの世界のサボテンとは比べ物にならない! ………よし、少し観察してみるかッ!)
東洋は自分の身長をも上回るサイズのそのサボテン擬きを見て驚愕の表情を浮かべると、しばらくの間それを眺め始める。
(棘も全体的に生えていて刺さったりしたら大変だな……、んッ……? 何だ? サボテンの周りの地面が揺れて……いるッ!?)
興味深げに観察をしていると、急にサボテンの周りの地面が振動。
その揺れは直ぐに彼が居る方まで伝わって来た。
「く! 一体何が起こっているんだ!? この揺れは! どうなってッ……!! んん!?」
突然の揺れに動揺しつつも、即座に東洋は距離を取る。
(う、動いただと!? このサボテンが!? ……ということは、まさかこの揺れはッ! あのサボテンが起こしているとでもいうのかッ!!?)
が、なんとその直後、サボテンに酷似した植物が形をまるで人のように変形させながらゆっくりと動き出した。
ソレは唖然とする東洋の目の前で次第に大きくなっていき、2メートル前後になったかと思えば次の瞬間勢いよく地面から飛び出す。
(ま、まさかただの植物であるサボテンが……まるで動物のように動き出すとは思わなかったぞッ……。全く! このアルメシアという世界は! ……なかなかに侮れんなッ!)
両足の役割を果たす二股の茎を支えにサボテンのような何かは東洋の居る場所付近に着地した後、身体から生えている棘を長くそして鋭く尖らせた。
(だがなッ! あいつがもしモンスターだというなら! 手加減は出来ん! 元の世界へ戻る時が来るまで、俺はまだこんなところでくたばる訳にはいかないからなッ!)
徐々に自分に近付いて来る、二足歩行するサボテンの化け物。
東洋は冷静に見据えながらソイツを魔物と認識、アルメシアという異世界でモンスターらと戦う姿勢を見せる。
「さぁッ、来い! 絶対に俺が倒してやるぜッ!!」
遂に勇ましい表情で彼は言葉にした。戦闘への決意を。
瞬間、彼は全速力でサボテン型の敵が居る方へ駆け出す。
(……ッ!? マズいッ! コレはッ!)
しかし、東洋が約5メートルの範囲まで距離を詰めたその時、敵の身体全体に生えている長く鋭い棘がまるで散弾銃のように彼へ向けて一斉に射出された。
シュバッ!
(ふッ! 危なかった……! んッ!?)
間一髪のところで空中へ退避して棘の攻撃を避けた東洋。
しかしサボテンモンスターは東洋が跳んで攻撃を回避したのをすぐに察知したのか、射出する棘の軌道を変え空中で身動きの取れない東洋に対し再び先程と同じ攻撃を行ってきた。
(またか!? しかも棘を飛ばす方向を変えられるとはッ! ……これはヤバい! ピンチだッ!!)
敵が棘による攻撃の軌道を変えて空中の自分に攻撃が当たるようにしてきた事に吃驚した東洋。
彼は思わず自身の両掌を突き出し、攻撃から身を守ろうと構えた。
と、その時……。
キュィィィィィィ ィ ィ ン!
「!! これは!? ……なんだッ!? まさか……、"技能殺し"………ッ!?」
東洋が突き出した掌の先から甲高い音が響き渡り次の瞬間、敵が飛ばした棘が東洋から僅か50cmほどの距離で跡形も無く消滅した。
(そ、そうか! 確か俺は"技能殺し"で、相手の魔法やスキルを無効化できるんだったかッ! しまったッ、熱くなりすぎて忘れていたぜッ!!)
魔物との戦いで冷静さを失いかけ、自身が"技能殺し"というスキルを持っている事を忘れていた東洋は心の中で呟く。
(………ん? だが待てよ? "技能殺し"は相手の魔法とスキルの二つを無効化できるらしいが……)
(あのサボテンモンスターの棘攻撃は、何故無効化できたんだッ? あの棘は見たところ魔法とかスキルによるものなんかじゃなさそうだが……?)
違和感を感じた東洋は"技能殺し"の魔法とスキルを無効化するという効果を思い出すと、何故先程の棘の攻撃を無効化出来たのかふと疑問に思った。
(………、分からん事を考えていても仕方が無いなッ! とにかく今はあのサボテンモンスターを倒す事に集中しなきゃならねえ!)
少し思案した東洋は結局考えてもキリが無いと思い、地面へ着地すると敵との戦闘に意識を集中させることにした。
「うおおおぉぉぉぉぉぉッ! 行くぞサボテンッ!!」
雄叫びを上げ東洋がサボテンの前へ全速力で走り出す。
「……むッ!!」
ビュビュン!
距離10メートル程に接近したところで、サボテン型の敵が先程と同様に再び東洋に向けて棘を発射した。
キュイイィィィィンッ!
「うおおッ! その攻撃は俺にはもう効かーん!」
だが東洋はその攻撃を右掌を突き出し技能殺しで無効化。
無効化される攻撃は自分には一切通用しないと吠えるように東洋がそう言い放つと一気に敵との距離を詰める。
そして、
「うおおおぉぉぉぉぉーーーーーッ! これが俺の、"本気の拳"だァーーーーーッ!!」
ドグァッ!!
本気と称する東洋が全力の一撃として、凄まじい速さの右ストレートを放つ。
その瞬間、彼のパンチは勢い良くサボテンの敵の胴体部分を貫通したのだ。
グググググ………!
バシュウンッ!!
東洋の本気の一撃を食らったサボテンの姿をしたモンスター。
彼が右拳を引き抜くとぶるぶると震え始めピタッと止まった直後、大きな音を立てて爆散する。
「うおぉッ!? ………、や、やった………勝ったぞ………ッ」
バラバラと肉片を飛び散らせ動かなくなったモンスターを見て東洋は一度驚くも、その後すぐに戦闘による疲れが襲ってきたのかガクンと倒れるように地面に手と膝をつくと自分の勝ちを喜んだ。
◇ ◇ ◇
「………ふぅーッ、どうにか倒せたぞーッ!」
しばらくして、魔物との戦闘に勝利を収めた東洋が一息つくと束の間の休息を取り始める。
地面に座り、自身の学生服に付着した汚れを軽く払った後少し息を吐いて呼吸を落ち着かせた。
(あのサボテンモンスター、なかなかに手強い敵だった! ………技能殺しが無かったらもしかしたら俺の方がやられていたかもしれないッ! いやあー本当に勝てて良かったぜッ!!)
東洋はサボテンの魔物との戦いでもし技能殺しを持っていなかったら殺されていただろうと思い、改めて戦闘に勝利することができた事に一安心。
(にしても意外に時間がかかってしまったなッ! 早いところ人が住める場所を探さなければ!)
戦闘後の休息を少し取った東洋はスッと立ち上がり、既に日が暮れかかっている広大な砂漠地帯を再び走り出して行った。




