第26話「馬車での移動中」
「何……? フィブリア騎士団……?」
マリバが口にしたフィブリア騎士団という言葉に反応し、懐疑的な表情をしながら呟いた北本。
「はい、"フィブリア騎士団"というのはこのフィブリア王国の王都・"カルアーノ"を警護する騎士の一団です」
北本が詳細を聞く前にマリバは騎士団の説明をする。
「ほー、そうなんか。警察と同じようなもんなんだな」
マリバから騎士団のことについて教えられた北本は、日本の治安を維持する"警察"を想起しつつ騎士団の仕事をイメージしながら納得した。
「……どうです? 入ってみませんか?」
マリバは北本の顔色を伺いつつ騎士団の入団を促す。
「………、オレに無条件でそのフィブリア騎士団ていう組織に入れと? ………嫌だな、入りたくねぇ。面倒くせぇことこの上ないだろうからな……」
騎士団入団を勧誘された北本はしばらく間を置くと大きな溜息を吐いて、如何にも嫌そうな顔をしながらマリバの誘いを蹴った。
「……はあ、そうですか、残念ですねぇ。せっかく大金持ちになれるチャンスだったのに」
マリバは残念そうに呟くと椅子から立ち上がり北本の部屋から出ようと扉の取手に手をかけた。すると……。
「おい待てよ、今……大金持ちになれるとか言ったよな?」
自身の部屋から退室しようとするマリバの肩を掴み北本はそう言った。
「ええ、騎士団に入団すれば十万……いや数百万は稼げますよ? まあそこまでの収入を得るにはかなり"階級"を上げなければいけませんがね……」
北本に聞かれ、彼の言葉を肯定しながらマリバは答えた。
「……なんだよ、せっかく楽に金稼ぎが出来ると思ったのに。冒険者と同じで騎士団に入っても階級とかいうのを上げないとダメだってのか……。やっぱ騎士団には入らねぇことにしよう……」
北本はマリバの話を聞いた後、彼の肩から手を離し残念そうな顔をして落胆しフィブリア騎士団への入団を断念する。
「……。いえ、まだ諦めるのは早いんじゃあないですか?」
北本のそんな様子を見てマリバは、フィブリア騎士団の入団を断念するのは早急だと彼に話した。
「……何故そう言い切れるんだよ」
マリバの発言が信用できない北本は、怪訝そうな目を向けながら彼に聞いた。
「先程も話した通り、騎士団の仕事は王都・カルアーノを警護することです。ですがそれ以外にもフィブリア王国の王族の方を護衛する役を任せられることもあり、その任務を最後まで全うすれば数百万もの謝礼金をいただけます」
どうして入団を断念するのが早いと断言できるのか聞かれたマリバは、騎士団の仕事に更にもう一つ王国の王族護衛の仕事があることを説明した。
「そうなのか……、だがそれだけじゃあオレが騎士団に入らないって発言にお前がまだ諦めが早いと話した根拠にならねぇぞ?」
まだ何か説得力のある推論があるのではと思い、北本はマリバの顔を凝視しながら彼の話を聞く。
「そうですね。一応お聞きしますが北本さん、名前からしてあなたは転移者で元の世界に戻る方法を探していますよね?」
何を思ってか急にマリバは北本に転移者なのか、そしてアルメシアから元の世界の地球に戻る方法を探っているのか確認を取った。
「ん? 確かにそうだが……、なんで今更そんなことを……?」
自身が転移者なのか、そして元の世界へ帰還する方法を模索しているか聞かれた北本は何故このタイミングで聞いてきたのかが分からず、マリバに聞き返す。
「フィブリア騎士団は王都・カルアーノで主に活動をします。そして騎士団の団員たちの一部は王族護衛の任務をこなします……」
「騎士団員がその護衛の任務を引き受け、しっかりと役目を務めれば、レブル王国の王族の方々から厚い信頼を得ることでしょう」
するとマリバは騎士団に属する者が護衛任務を完遂すれば、王国の王族から高い信頼を寄せられるということを話した。
「……なんだ? 王族たちから信頼を得てどうしたってんだよ?」
マリバの話の意図が掴めない北本は彼に尋ねる。
「……つまり、フィブリア騎士団に入団して護衛任務をこなし、王族の方々への信頼を得ることで、元の世界に戻る方法が………もしかしたら分かるかも知れませんよ?」
北本にまるで騎士団への入団を誘うかのような口ぶりでマリバは話した。
「なるほど……。レブル王国の王族なら、オレみてぇな転移者が元の世界に戻る方法の手掛かりとか知っててもおかしく無さそうだしな……」
マリバの話を聞いた北本は顎に手を置いて考え、暫くした後納得をした。
「はい! ……どうでしょうか?」
ちょくちょく彼の顔色を伺いつつ、彼に騎士団へ入団する気になったかマリバは尋ねる。
「………よし、決めた。フィブリア騎士団に入団しよう。オレが騎士団に入れば、元の世界に戻る方法に関する情報が効率的に得られるかもしれねぇしな」
少し思案した後、北本は騎士団に入団することを決意。
その意思をマリバに伝えた。
「決まりですね!! では明日の昼14の刻にこの宿屋の前で待ち合わせをしましょう!」
北本の部屋にある時計を見てマリバは呼びかけた。
因みに昼14の刻とは現実世界の14時と同じ時間である。
「明日か……。そうだな、分かった」
北本はマリバが決めた待ち合わせの時間を了承し、返事をする。
◇ ◇ ◇
「……"馬車"なんて初めて乗ったわ」
翌日、陽射しが暑く照りつける温暖な時間帯、北本とマリバの二人はシレーノの街から北におよそ10km離れた地点を走行している"馬車"という乗り物に乗りお互い向き合うように座席に座っていた。
「そうなんですか? アルメシアでは馬車は当たり前のように利用されていますよ?」
今まで馬車に乗ったことが無かったと話す北本に対し意外そうな表情をしつつマリバは、馬車という移動手段がアルメシアでは一般的に普及していることを教えた。
「へぇ、じゃあ今のうちにこの揺れに慣れとかねぇと後々大変だなぁ」
マリバの言葉を聞き北本は、馬車が進む度に起こる振動に早く慣れなければ大変だなと口にした。
「まあ確かに……、馬車というのは乗っているだけで結構揺れますからねぇ」
それを聞いたマリバは、やや顔を綻ばせながら北本の発言に同調した。
ガタンッ!!
「そう思うよなぁ? んっ……!? おい何か音がしたぞ!? まさか事故ったのか!?」
急に馬車の後方から大きな音がした事に北本は気付く。
「……いや! これはまさかっ!!」
北本の台詞とほぼ同時にマリバは呟くと弾かれたように馬車から降りて行き、そのまま車体後方へ回り込んで行った。
「……。事故か故障か、それともモンスターがぶつかったのか、どっちかは知らねぇが……取り敢えずオレも降りるか!!」
マリバが馬車を降りて行ってから少し時間が経った後、北本も馬車から降り彼の後を追って行くのだった。




