第20話「食堂での会話」
「おいおい……ブルーダ、あの人は一体いくつなんだ!?」
ブルーダがマリバの祖父だと言う事実を教えられた北本は、少し動揺しつつもマリバに彼の歳を聞いた。
「"58歳"ですよ? あの人は。結構お年ですよね?」
北本の問いに不思議そうな顔をして答えたマリバ。
(……ま、マジかよ。マリバはパッと見で20代前半くらいに見えるが………。それでブルーダがコイツの父じゃなくて祖父だとは……お、驚いたわ………)
マリバからブルーダの年齢を聞いた後、北本はひどく動揺を示す。
「あっ、そうそう! 今の時間は地下にある"食堂"で朝食がとれますので是非行ってみてくださいね!」
北本の後ろにある下り階段を右手で指し示しながら、彼に今現在の時間は食堂が営業していることを教えた。
「……あ、あぁそうか、やっぱ食堂ってのは営業時間が決まってんだな」
やっぱりかといった表情で北本は呟き、受付カウンターの方の壁に飾り付けてある機械仕掛けの時計に視線を移した。
(まぁこの世界にも、時計というモノの概念があることに驚いたがな………)
9の数字に短針を、6の数字の近くに長針を指す時計をしばらく見ていた北本は考え、創造神・アデンが創ったという世界・アルメシアの文明レベルが自身の想像よりも高かったことに感心した。
「ちなみに食堂の営業時間ですが、朝食が摂れる時間は午前6の刻から10の刻までの間で、昼食が摂れる時間は午後0の刻〜3の刻まで、そして夕食が摂れる時間が午後6の刻〜9の刻までになっております!」
「また、営業時間外は食堂の入り口は閉鎖させていただきますのでご了承下さいね!」
その様子を見たマリバはついでとばかりに、宿屋の食堂の営業時間について北本に教えた。
「ほー、……分かった。わざわざ教えてくれてどうも………」
北本は彼の話に軽く相槌を打ち了解し、営業時間を自分に伝えてくれた事に礼を言った。
「いえいえ……、これも受付番の務めですからね!」
微笑みながらマリバは北本にそう言った。
「……じゃあオレ、これから食堂に行くから………またな」
北本はマリバに告げ、食堂に続く階段を降りていった。
「あの人……、タダ者じゃないな………」
北本が降りていった後、静かに小さくマリバは呟いた。
細微に関心を含んだ眼差しを向けて……
◇ ◇ ◇
(ここが食堂か、なかなかに人が多いな………)
階段を降りて地下の食堂に着いた北本は、まず第一に目の前に映った光景に内心呟く。
(………戦士みてぇな格好をしてる奴も居るな、冒険者とかいうやつか? あるいは剣闘士のどちらかか………)
食堂には大きく丸いテーブルが幾つかあり、奥の方にはカウンター席が設けられている。
また戦士のような外見をした者や、背中に宝石がついた杖らしき形状をした物体を装備している者などが席に座り、思い思いに会話をしつつ食事をしていた。
そんな様子をふと見た北本は、早速カウンター席の方へ足を進めた。
(………それより、どこで食うかな………)
(…………。おっ、あそこにするか………)
どこで食事するかを考えていた北本は、カウンターの一番右端にある席が空いているのを見つけたのでそこに座って食べることにした。
(……、これはメニュー表か………? えっと、中身は………)
カウンター席の丸椅子に座るとカウンター机には鮮やかに彩られ、表面に大きなローマ字が書かれた紙が置かれていた。
それを見て北本は、レストランなどにあるメニュー表と同じものだろうと思い早速この紙に目を通す。
(……やっぱりメニュー表だな。どれどれ………、全部豪華そうだが意外に安いな)
紙がメニュー表だということを確信した北本はしばらく紙に書かれているローマ字を黙読し、メニューが全て3千G以下になっている事に気付いた後、何を食べるか考えた。
(………よし、これにするか!)
しばらくして、メニューを決めた彼は丁度近くを通りかかったウェイターに、自分が選んだメニューを注文をした。
◇ ◇ ◇
自身が注文したメニューを物凄いペースで口に運ぶ北本。
彼は普通の早さで食事をしていると思っているようだが、他の者から見たらほとんど何を食べているのか分からない程に早かった。
(………おぉ!! なかなかに美味いぞこれ! ……アルメシアの食べ物はオレら転移者が食べられるのか不安だったが、全然心配いらなかったな!)
北本の食べるメニューに入っている食材は一見すると現実世界のものとは少し形が変わっていたり、違う色になっているようだったが……。
その味は彼がこれまで食してきたどんな食べ物よりも美味しいと感じるものであった。
自身の注文した料理のあまりの美味しさに思わず北本の顔に笑みが浮かぶ。
すると、その時………。
「……さて、次はどんな"依頼"を請けるつもりなんだ相棒?」
「いや………まだ特に決めていないが、できれば報酬金額が高い依頼を請けたいな……。そろそろ財布の中身が心配になってきたし………」
「だよな〜、今日のメシ代で殆ど使いきっちまいそうだからな〜!」
カウンター席の端の方から男二名の会話が北本の耳に入ってきた。しかし北本は食事中なのでそれに耳を貸す事は無かった。
が……。
「………そういえば、ロレカ王国にある冒険者ギルドに転移者がやって来たらしいが、本当か?」
ふと二人の片割れの男が冒険者に関する事柄を口にすると北本は食事する手を止め、男二名の方を向いて会話に聞き耳を立て始めた。
(………転移者? ………まさか、東洋と伊村か? あいつら、冒険者になったってのか?)
現在何処に居るのかも分からない自分と同じ転移者の二人を思い起こし、北本は心の中で一人呟く。
「本当かどうかは知らねぇがそうらしいぜ相棒………。魔王を倒す為に召喚されたってのに何で俺らと同じ冒険者になろうとしてんだろう?」
「……そうか、転移者も俺達と同じ人間だ。金が無いと色々と困るんだろう………。冒険者になるというのは正しい選択かもな」
「まあそれもそうだな相棒! 世の中金! 金が全てってやつよ!!」
しばらく男二名の会話に聞き入っていた北本はここで一旦盗み聞きするのをやめ、深く考え出す。
(……冒険者か、ロレカ王国の冒険者ギルドに転移者が来たと言っていたが間違い無くあの二人のうちのどっちかの事だろうな………)
男二名が話していた内容を整理しつつ北本は思い悩む。
(……金稼ぎ、冒険者になれば金稼ぎが効率よく出来るらしいな。さて、どうするか………)
彼は考えた。果たして冒険者になれば本当に金稼ぎが出来るのか、命の保証はあるのか等……。
しかし自分には元から高めなステータスと強力なスキルが有り、自分以外の二人が冒険者になっていることを想像すると然程時間がかからぬうちに考えが纏まった。
「…………決めた」
短く彼は呟くと頼んだメニューの代金を食堂の受付に渡し、宿屋・白霧を後にした。
冒険者ギルドに行って……"冒険者"となる為に。




