第18話「宿屋・白霧」
「ここが"白霧"って宿屋か………」
リアラに頼まれ宝石を泥棒から奪い返した北本は現在、"宿屋・白霧"と漢字で書かれた看板が目印の宿屋の両開きの扉の前に来ていた。
(街を真っ直ぐ歩いていたら遠くの方にこの看板が見えたんで来てみたが……、思ってたよりも早く着いたな)
宿屋・白霧はシレーノの街の高台にあり見た感じでも結構な距離はあるが、総合力が常人の数倍もある北本が歩くと10分も経たないうちに着いてしまった。
(……それに宿の名前が"漢字"て、ローマ字だけじゃねぇのかよこの世界の文字ってのは……)
北本はアルメシアについて色々と突っ込みたい気持ちをなんとか抑え、宿屋の中に入ろうと決めた。
(……まあこの宿屋、名前は兎も角、3階まではありそうだな……見るからにデケェし)
宿屋・白霧は約20メートルほどの高さで、ガラス張りの窓が宿屋の扉の左右にそれぞれ9窓ずつ配置されていた。
(さて、そろそろ入ってみるか……)
北本は決心し宿屋の扉を開け、中へ入って行った。
◇ ◇ ◇
(なるほど、こんな感じになってるのか……。ファンタジーの世界の宿屋は)
宿内へ入った北本は早速建物内の雰囲気を味わう。
木製だからなのか、素朴な香りが漂う中、北本はさっさと歩き始める。
(ん……? おお、蝋燭か………初めて見るなぁ)
出入り口の扉の前方にある受付カウンターと思しき机に置かれた蝋燭を見て感想を抱く北本。
「おい、今日から何泊か泊まりたいんだが………」
机の前まで足を運んだ北本は前に立っている白髪混じりの大柄な男性にそう話した。
「へぇ、そうかい。ようこそ宿屋・白霧へ……。何日泊まりたいんだ?」
北本に話しかけられた大柄な男性は柔らかな笑みを浮かべながら、彼に何日間泊まるのか問いかけた。
「あ、あーっと! ちょっと待ってくれ。先に代金の方を聞かせてくれねぇか? この宿屋は一日で何Gかかるんだ?」
宿泊代がいくら掛かるのか聞き忘れた北本は多少慌てて男性に言った。
「あぁー、そうだな………一日泊まるだけなら銅貨3枚・300G頂くぞ。………で、もし一週間も泊まるってんなら銅貨20枚・2000G貰おう……」
手で値段を数えながら男性は料金を教える。
「分かった。……面倒くせぇけど多分オレはしばらくの間この宿屋に世話になるかもしれねぇから、一週間泊まることにしよう」
額に手を置きしばらく悩んだ後、北本は泊まりたい意向を男性に伝えて銅貨20枚を渡した。
「……じゃあ一週間の間だがありがたく利用させてもらうわ」
「ああ、よろしく。あんたの部屋はここから左側にある通路の一番奥の部屋だ。………気軽に使ってくれよ?」
男性は受付の机の左側方向に伸びる通路を指差して北本に教えた。
「……あっちの方か、分かった………、ん? なんだこの階段は?」
北本は男性の指差した方向の通路を見て自分の部屋の場所を覚えたのち返事をした……が、個室へと続く通路の隅に下へと降りる階段を見つけ思わず疑問を口にする。
「ああ、そこの階段を降りていくと地下1階に着くぞ。そこには"食堂"があるから腹が減ったらそこで金払って好きな物を食えよ。あそこの飯はクッソ美味いからな♪」
北本の声を聞いた男性は、部屋の隅の下り階段について北本にそう教えた。
「なるほど、この宿屋には食堂があるのか。………便利なもんだな」
男性に教えられると後ろを振り向き下り階段があることに気付いた北本はそう言いながら珍しく微笑み、男性にそう返した。
「そう思うだろう? ……あっ、そうそう俺はここの店主で"ブルーダ"と言うんだ。お前は?」
おもむろに北本に自分の名前を教えた店主を名乗る男性は、気になったのか今度は彼の名前も聞こうとした。
(……チッ名前か、いや、偽名とか使ってもどうせバレて面倒な事になるしな……。仕方ねぇ……この男、悪い奴には見えねぇし、教えてやるか………)
元の世界へ帰るまでは本名を教えないつもりだった北本だったが、目の前のブルーダという男性には結局諦めて自身の名前を伝えることにした。
「……北本 修二。名前で分かるだろうが……オレは"転移者"だ」
落ち着いた様子でブルーダに自分の名前を教えた。
「ん? ………て、転移者か……!? 本当に居たのか………」
北本の名前を聞いたブルーダは驚愕の表情を見せて北本から目を逸らした。
「面倒くせぇな……、やっぱ教えるんじゃなかったかな………」
その様子を見た北本は、多少呆れながら自身の頭を掻いた。
「いやー、まさかこんな所でお目にかかれるとは……! あっ!! じゃ、あんたが世界を救ってくれるんだな!?」
興奮した様子で北本に言い寄るブルーダ、それに対し北本は暑苦しいと言いたげな顔で彼から一歩下がった。
「べ、別にオレはこの世界を救う気なんてねぇよ! ……てか離れてくれ!! もうオレは行くからな!!」
北本がブルーダに言うとさっさと自分の部屋がある通路に向かい歩き去って行った。
「……救う気はないのか、残念だな! まあ、転移者はあと"二人"は居ると言われてるしまだ希望はある!! 諦めるな世界よ!」
ブルーダは言い残すと真正面に向き直り、受付の位置に戻った。




