第16話「出会いは唐突に」
「………、すっかり暗くなっちまったな」
シレーノの街の夜空に淡く輝く、金色の月を見て呟く北本。
街へ来た当初は夕方頃だったのだが、小一時間も図書館で本を読み耽っていた為、辺りはすっかり薄暗くなっていた。
(今更だがアルメシアは別の"惑星"かなんかか? まずここは現実世界じゃねーのは確実だが、月みてぇな星が近くにあるってことは………割と近い位置にあんのかもしれねえな……)
(……いや、もしくはそもそも惑星どころの話じゃねえのか? 世界線とか現代とは別の歴史を辿った現実世界的な………。まあ、そんな事を深く考えてても仕方ないかもしれねぇ。とにかく今は寝床を探さねぇと)
彼は上を向いて立ち尽くし、おそらくは現実と同じ月を見つめながらアルメシアがどの次元に存在するかを熟考する。
が、長く考えても結論は出ない。
これ以上は余計に疲れるだけだ、と彼は区切りをつけて体を休められる場所を探しに動き出す。
◇ ◇ ◇
「…………ん?」
ふいに北本が立ち止まった。
夜闇に包まれた街道を行くさ中、彼は辺りを見回して何かに耳を澄ませる。
(……何だ? あっちの通路の方から足音が聞こえる………。それもかなり近いな)
(街の中だし敵じゃねーはずだが、約15メートル先ってとこか?)
気配察知も反応しているようで、明確に自分のもとへ接近する存在を気取り、向かって左の薄暗い通路へ視線を移す。
(………!? こっちに向かってくる!? なんてこった!)
その音は、明らかに北本に近付いてきていた。
そして、程なくして通路奥から現れたのは、全身を黒で統一した格好の男。
それもなかなかの速さで走って来ている。
(………チッ! "幻影"………発動!!)
咄嗟に北本は自らのスキル"幻影"を発動。
その場から霞のように身体と気配を消した。
ダッダッダッダッダッ!!
直後、謎の人物は通路から出ると、北本のいる地点を左折する。
曲がっても止まる事なく走り去り、夜の帳がすっかり下りたシレーノの街の彼方へ吸い込まれて行く。
("幻影"………解除!!)
タイミングを見計らい、北本は幻影を解きそれを遠目で観察する。
(………ん? 何だアレ? アイツ宝石っぽいのを持ってるな。それに、あれは模様か? てか何であんなのを持ちながら走っているんだアイツは? もう夜なのに)
すると、走って行った男の右手に、僅かながら青白く発光する装飾された宝石を発見。
付近は人通りが殆ど無く、灯りも少ない。さらに男は何やら逃げているように見える。それに、夜にも関わらず高価な物を手に持っている……。
どう見ても怪しさ満点の男の行動について考える。
「……! アンタ!! ………丁度良かった!!」
とその時、急に女性と思しき者に声をかけられる。
北本が振り返ると、青髪の少女がこちらへ駆け寄ってきた。
白と黄色の配色の、胸元まで開いたカッターシャツ、紺色の膝下までの丈のズボンを着用した、北本と同年代くらいの少女だ。
「ねえ、頼みがあるわ! さっきここを黒服の奴が通ったでしょ!? ……アイツは"泥棒"よ! あたしの大事な物を盗んで逃げたの! だからお願い! あの泥棒を捕まえて!!」
彼女は随分前から走りっぱなしだったのか、肩で息をしながら苦しそうな表情で立っている。
その口から出たのはおよそ穏やかな内容ではなかった。
彼女は先程、北本の近くを通り過ぎていった男に、私物を奪われたと訴えてきた。
「……!! そうか、そりゃ大変だな。だがオレは決してお人好しじゃない。ましてや今出会ったばかりで、友達でも知り合いでもなんでもねえ女に無条件で泥棒退治を依頼されてm」
「なんでもいいからお願い! アイツがあたしから奪った宝石は大金貨10枚は下らないわ! きっとあの泥棒はあたしの宝石を売ってお金にするはず!」
その様子を見た北本は、多少驚きながらも彼女の頼みを聞く。
ただし、了承はせず、話を聞くだけ聞いて拒否した。
………が、少女はそれに構わず北本へ申し込んだ。
「そんなことされたらあたし………ショックで立ち直れなくなっちゃう! もしアレを取り返してくれたら銅貨10枚あげるから! お願いよ!!」
最後に涙を堪えるように目もとにグッと皺を寄せると、彼女は北本へ懇願してきた。
ちゃんとした対価を提示して、しっかりとお礼は用意するとも明言した。
「………はあ、そうかよ。面倒くせーけど……金をくれんなら分かった。3分以内に終わらせてやるから待ってな……」
ダッ!!
さすがにここまで頼まれれば、無碍にはできない。
最終的に北本は少女の頼みを承諾すると、先程逃げて行った黒い服の泥棒の後を追って行く。
目で追うのがやっとのスピードで、その泥棒の足跡を辿るように。




