第12話「北本vsスライム」
(………。そういやアデンから、元の世界に戻る方法を聞きそびれちまったな……)
背丈の低い植物が全体的に生い茂っている草原をやや早足で進む北本。
しばし歩き始めて約10分、ふと自分がアデンに言おうとした事を思い出した。
(………、もう少し時間があれば、あいつから色々と聞き出せたんだがなぁ……)
彼はどうして亜空間に居た時、アデンからもとの世界へ帰還する方法を聞いておかなかったのか、と今になってそれを悔やむ。
(それに、この世界の通貨はどんなもんか、札のお金はあるのかとかあの時聞けばよかったわー………。ん……? 何だ? この近くに魔物の気配が……?)
アルメシアの、主に通貨の事について考えていた北本だったが、直後、"気配察知"で自身の近くに魔物の気配を感知した。
すぐさま彼は身構え、周囲を見渡しその姿を探る。
すると、しばらくしてから、自分の目の前に深緑色をした全長約50cmくらいはある楕円形の奇妙な物体が写り込んだ。
「んあ? こいつは………」
(………んー、不思議な形をしてやがるな、植物の一種か? にしては何かモゾモゾと動いてッ……!?)
北本が観察していたその時……、急にその物体は大きく跳躍し、姿勢を屈めて見ていた彼に向かい襲い掛かってきた。
「んなっ……!? コイツっ、まさかこんなのが"魔物"だってのか!? ……クソっ!!」
北本は予想外の出来事に驚きつつも反応する。
即座に深緑色の魔物らしき物体から距離を取ってその動きを警戒に入る。
そして自分の体当たりを避けられた深緑色の魔物はその後、地面にベチャッという音を立てて着地すると、彼に向かって再び跳躍しようと体勢を整え始める。
(……油断してたぜ、植物じゃなくて魔物だったとは……。はぁー………全く面倒な事になっちまったぁ………)
どこか腰を落ち着ける場所を探していた北本は、その間はできれば何事も無く穏健に進みたいと考えていたらしい。
歩き始めて10分程度の段階で早くも魔物に遭遇してしまったことに、自分の運の無さを呪うと、正面から見据えて話し始める。
「あー……、悪ィな緑の……す、スライム……? ……オレ、お前と戦いなんかしたくねぇんだよ。………それにホラ、もう暗くなってんだろ? ………ちょって眠たくなってきたしさー、早く帰って寝たい、そう思ってんだわー」
「………だからさー、そこ、どけよ………」
彼はもうとっくに夕焼け色に染まってきている空を見上げて、深緑色のソレを気怠そうな感じで諭す。
しかしどう見ても人では無い。故に通じる訳もなく深緑色の魔物?はその場から動かずに彼の様子を窺っている。
(って言っても、伝わらないよな………。なんせアレは"魔物"なんだろうし)
バッ!
彼がそう考えるのと同時に、再度正面にいたスライムが跳躍し北本に襲い掛かる。
(……魔物もオレたち人間と同じ生き物だ。なるべく命までは奪いたくはねぇからな………、それに避けられる戦いは避けてぇ。だから、オレがやることはただ一つ……!)
北本は極力危険を避けるために、魔物を殺さずに戦闘を切り抜けることを決めた。
(………スキル、"幻影"……!!)
冷静に北本は、自身がアルメシアへ来て初めて手にしたスキル・"幻影"を心の中で唱えた。
スウウゥゥ………
すると、次の瞬間みるみるうちに北本の身体は消えていき、ものの一秒で完全に実体を消失させる。
そして、そのままほぼ透明な姿となった北本は、一気にスライムの後方を通り過ぎると、猛スピードで走り出して戦闘からの離脱に成功した。
(……コイツから逃げることだけだ! ……いやー、便利だなこの"幻影"っていうスキルは! まさか魔物と戦わずに済むなんてな!!)
「さてと、雨風凌げる場所はどこかね。さっさと探しに行くかー」
北本は一分も経たないうちに敵から距離を離した後、再び歩み出す。
戦闘を回避されたスライムは、北本がどこにいるか掴めないようで追って来ていない。
これを好機に北本は足早に草原を進む。
目指すは街や村、人気のある場所だ。




