第97話「破壊者」
連続投稿二発目です!
「おお! 本当か!? いやぁ実にありがたいね★ 君も私に協力してくれるなんて!」
南野が、アデンから頼まれた依頼を受け入れると、彼はいつものように飄々とした笑顔を見せながらも、その瞳の奥には確かな満足の色が浮かんでいた。
「……? 君も、?」
しかし彼の言葉を聞いた南野が首を傾げる。
その言葉の端に引っかかるものを感じた南野は、眉をひそめながら小さく呟いた。
もしや、自分以外にも同じように協力を申し出た者がいるのか……?
そう思った瞬間、不意に胸の奥がざわつく。
「ああ、実は南野君の他にも三人、北本君や東洋君、伊村君が私の頼みを引き受けてくれたんだ★」
アデンはあっけらかんと告げたが、その内容は決して軽くはない。
伊村、東洋、そして北本……、三人は同じ世界で南野と共通した目的を持って活動している者たちだ。
そんな彼らのことを、アデンは名前を反芻するように語った。
「へぇ〜、あたしだけじゃなかったんだ」
南野は思わずそう口にしたものの、その声には安堵とも不安ともつかない微妙な感情が滲んでいた。
同じ転移者たちが、それぞれ異なる場所で何かを託されて動いている。そう思うと、心のどこかに小さな焦りが芽生えた。
「……まぁ君も、いずれ彼らと会うことになるだろうね★ さて、南野君も私の頼みを引き受けてくれたわけだし……そろそろ、あのスキルをプレゼントしようかな★」
アデンの声は軽やかだったが、その口調に隠された“特別な何か”を予感し、南野は無意識に背筋を伸ばす。
そして次の瞬間、アデンの手のひらの上に現れたのは……、不思議な紫の輝きを放つ水晶玉だった。
「!! もしかしてそれって、水晶玉?」
目を見開き、南野は思わず前のめりになるように尋ねた。
「ああ、見ての通りそうさ」
アデンはゆっくりと頷くと、彼女の近くへその水晶玉を差し出した。
まるで宝石のように透き通りながらも、どこか禍々しい輝きも孕んでおり、南野の視線は否応なく引き寄せられていく。
(……やっぱり! 前にあたしが召喚された時、コルトンさんが持ってたものだ!)
記憶の奥底……まだ山田や神崎、模地と共に召喚されたばかりだった頃の情景が一瞬、彼女の脳裏に蘇った。
「よし、準備完了★ ……南野君、この水晶玉に触れてくれないか」
アデンの声は柔らかくも、確固たる力を帯びていた。
南野はわずかに戸惑いながらも、静かに息を吸って恐る恐るその指先を水晶玉に伸ばしていく。
「あ、はい……。!? な、何これ!? 身体が!?」
ブワァァッ!
水晶玉に指が触れた瞬間、辺りに風が巻き起こり、紫色の光が弾けた。
南野の身体はたちまち光に包まれ、まるで重力を失ったような浮遊感に襲われる。
「それは、私が創造したスキル……"破壊者”だ……」
「欠片集めを手伝ってくれる礼として、君にあげよう。ああ、もっと詳しく知りたいなら、もう一回その水晶玉に触れてごらん?」
アデンの声が空間に響くように広がる中、南野の周囲では光の粒が舞っていた。
この光の正体が“スキル”そのものだというのか。
そう思うと、身体の内側から震えが走る。
「え? ……こ、こう?」
彼から促されるまま再び水晶玉へと手を伸ばすと、今度はそれに応えるようにウィンドウが浮かび上がった。
ヴォンッ!
「な、こ、これが、“破壊者”………。ほ、本当にこのスキルをあたしにくれるの……?」
スキル名と、それが発動した時に齎す効果が刻まれた光の表示を見て、南野の手はわずかに震えた。
“破壊者”……。その名に込められた意味と、アデンがそれを自分に託したという事実の重さが、心にじわじわとのしかかってくる。
「ああ、もちろんさっ★ なんせ転移者である君たちは、直接的に下界に干渉できない私たち神にとっては救世主のような存在だからね」
アデンは楽しげに笑いながらも、どこか寂しげな光を目に宿してそう語った。
彼ら神にとって、自分たちが手を下せない世界を託すというのは、きっと一種の賭けでもあるのだろう。
「………では、そろそろアルメシアへと行くとしよう。
南野君、今から転移魔法を使うが……準備は良いかな★」
アデンの空気が変わった。
彼の冗談のように軽い口調の中にも、確かな気配が宿っている。
南野はそれを感じ取り、静かに頷いた。
「い、いきなりだなぁ……。けどまあ、特にここに用事もないし、いつでも行けますよ」
小さく肩をすくめて返すと、アデンのもとへと歩み寄る。
「ほぉー、そうかい★ …………それじゃあ、“転移魔法”・発動!!」
アデンは指を鳴らすような仕草をしながら掌を掲げた。
すると、そこに輝く魔法陣が浮かび上がった。
ヒュンッ!!
瞬間、鋭い風が吹き抜け、南野の身体はまばゆい光の奔流に包まれる。
気付く頃には、彼女は“亜空間”から完全に姿を消していた。




