第93話「成長」
今週はここまで!
2月9日は本小説の1周年!
という訳で次回は火曜日の夜8時30分に投稿します!
「おおおーっ!!」
伊村が叫びながら前に飛び出す。
狙いは、馬車に迫る盗賊たち。グリードや他の仲間たちより一歩先に、彼は真正面から敵へ突撃していった。
「くへへっ! バカめ! 一人でオレらと戦おうとは!!」
「しかもあいつ、何も武器を持ってねぇみてぇだな!」
「……雑魚が! オレたちとやり合うなんて百年はえぇぜ!!」
勢いよく向かってくる伊村を見て、盗賊たちは薄ら笑いを浮かべた。
手ぶらで突っ込んでくるなど、どう見ても無謀──そう思っていた。
「おれはただの雑魚じゃありませんよー!!」
伊村が叫ぶと同時に、両の拳を強く握りしめる。
体内に力が集まる感覚。それを逃さず全身に巡らせていく。
「おっ! くるか? あのスキルが……!」
その姿を見て、グリードが目を細める。
彼の直感が告げていた。伊村は、ついに“あれ”を使う。
「うおおぉぉーーーっ!!」
「“身体能力・強化”!!」
怒声と共にスキルが発動された。
伊村の体が一気に軽くなり、視界が鮮やかに開ける。
「!? な、何だ!? アイツ急に動きが──んぐぁっ!?」
ドガッ!!
一人の盗賊が声を上げる間もなく、腹を抉るような一撃が叩き込まれた。
伊村の拳が、スキル発動前とは比べ物にならない速さで彼の懐に届いていた。
「……はえぇな、ありゃあ普通の奴じゃあ捉えにくい速度だ」
「……確かに、あいつ意外と速い」
後方で見守っていたレオスとテレフィが目を細め、思わず声を漏らす。
伊村の動きには、確かに“修行の成果”が現れていた。
「はあ……っ、はあ……っ、んぐっ!!」
だが、拳を振り抜いた直後、伊村は膝をつく。
肩で息をしながら、体を支えきれずその場に崩れ落ちた。
「伊村っ!? ……“2秒”は持ったと思ったが、もう限界か!?」
グリードが顔色を変え、慌てて伊村の元へ駆け寄る。
スキル“身体能力・強化”──その効果は絶大だが、今の伊村にはまだ負担が大きすぎた。
◇ ◇ ◇
それから数分後。
グリード、レオス、テレフィの三人が残りの盗賊を一掃し、全員を縄で拘束した。
一連の戦いは、グリーンズの勝利に終わった。
「いやぁ、本当に助かったよあんた達!」
「おかげで大事な商品を奪われずに済んだよ!」
商人たちは心からの感謝を口にする。
馬車に積まれた品物も無事で、被害は最小限だった。
「礼には及ばねぇぜ!」
「オレたちは冒険者! 依頼の為ならどんな事があろうとこなさなきゃならねぇんだからな!」
グリードは誇らしげにそう言い放つ。
どれほどの敵であっても、請けた仕事は遂行する。それが冒険者だ。
「はははっ! それは頼もしい!」
「では目的地まで引き続き護衛を宜しくな!!」
笑顔を浮かべながら商人はうなずき、再び馬車へと戻っていった。
「………、伊村? 大丈夫かっ?」
「え、えぇ……なんとか……。すみませんグリードさん、結局おれ、少ししか身体が持ちませんでしたっ……!」
伊村は地面に座ったまま、苦笑しながら息を吐く。
発動時間が短すぎたことを悔やみながら、申し訳なさそうにグリードを見上げた。
「い、伊村……っ!」
「そんなに気を落とすな!」
「確かにたった数秒しか続かなかった……だが、お前は確実に成長している!」
「………少なくとも、スキルの修行を始めた最初の頃よりは、なっ!!」
グリードが片膝をつき、伊村の肩をぽんと叩く。
その眼差しは真っ直ぐで、言葉に嘘がないのが伝わってきた。
「ぐっ、グリードさん……、そうですねっ!」
「頑張ればこの“身体能力・強化”のスキルも、完璧に使いこなせる日が来るかもしれない!」
伊村は力強くうなずき、ようやく笑顔を取り戻した。
今はまだ道半ば。だが、確かに前進している。
そう信じられるだけの何かを、この戦いで掴めた気がした。




