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あらざらむ  作者: 松澤 康廣
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17

 結論が出ないまま、何度も寄り合いが繰り返された。

 期限まで3日となった。

 

「あらざらむことのみ多かりき、だ。何が起きるかは誰にも分からない。村人を(あや)めてはならぬ。道を誤るな」

 河井肥前守は震える声で、(さと)すように言った。

 盛義の後ろに亡霊のように鎮座していた。

 結論が出ないのは肥前守の言葉が今も現人神の言葉のように盛義を支配しているからだ。それは村人にとっても同じだった。

 仙人のように生き続ける肥前守は無条件に従うべき絶対の存在だった。


 (ごう)を煮やした村人が動いた。


 今日で決まる。

 村人に安堵(あんど)の表情が広がっていた。

 大野主税(おおのちから)が黙って、盛義の前に封書を置いた。盛義は、封書を手に取りゆっくり読み始めた。

 そこには、要請していた「いとの殺害」を伊藤大輔が了解したとのことが書かれていた。

「これで、幸田村が殺したことにはならない。肥前守の命に背いたことにならぬ」

 前々回の会合ののち、主税ちからが盛義に(ささや)いた言葉だ。小林大悟に頬を切られた大輔の恨みを知っている村人は何人もいた。上杉との戦いに参加した誰かが思いついたのだろう。当然、かなりの謝礼もつけて。

「これしかない。村を守る方法は。河井殿が反対しようと、村人が話し合った結論だ。皆、了解している」と主税は続けた。

「幸田村が殺したことにはならぬ」それがどれだけ罪深いまやかしであるかは村人も分かっていた。盛義の立場を考えての結論だった。

 結論を先延ばしにすることで、皆に更なる苦しみを課しただけになった。

 盛義は主税の肩に手を()り、「有難う」と言って、頷いた。



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